上 下
91 / 116
All for lovers

8

しおりを挟む
「は? 」

「アレンったらさ、こっちのコテージを空にしちゃうなんて……いくら何でも不用心じゃないか? 貴重品は置いてないだろうな? 僕たち、ここで一日、番人をしていればいいのか? 」

――――どうやら、達実は何も分かっていないらしい。

(おいおい、いくら何でも……可愛すぎだろう)

 采は思わずプッと吹き出し、再び達実をギュッと抱き締めた。

「お前の、そういう天然なところも好きだよ」

「は、はぁ!? な、ななな……何言ってるんだよ! 僕のどこが天然なんだ! 」

「アレンは、オレ達の為に気を遣ったんだ」

「? 」

「本当に分かってないようだな? アレンは、新しく誕生した恋人たちの為に、愛し合う場所を提供したって事だ」

「っ!! 」

 それを聞き、達実の顔は完熟トマトのように真っ赤になった。

 耳まで赤くして、達実は口を開く。

「こ、恋人って僕たちのことか? それで……あ、あ、あ……愛し合うって……」

「なんだ? お前ももう18だろう? それなりに経験もあるだろうに」

「ないよ! 」

 即座に否定して、達実は更にブンブンと首を振る。

「だって、そんな簡単に……本当に愛している人とじゃないと、セックスなんてダメだろう? 軽はずみに行為に及ぶなんて論外だ。しっかりと、真剣に将来の事を見据えて――って、何を笑ってるんだ! 」

「ハハハ、いや……さすが、あの人結城奏に育てられただけはある。オレの知っているアルファは、皆、王様みたいに尊大な態度でそっくり返っているっていうのに……こんなに性に関して純潔イノセントなアルファなんて、初めて見た」

「なんだよ! それが悪いっていうのか!? 」

「いや――――」

 笑いながら、采はゆっくりと、腕の中の達実へ顔を近付ける。

「嬉しいよ。おかげで、あのアレン・シン・アウラもお前に手が出せなかったんだから」

 こんなに無垢で純粋な相手では――――余程の無神経かどうしようもない悪漢でもなければ、そう易々と手を出すことは不可能だろう。

 簡単に汚してはならない、純潔の薔薇だ。

 故にアレンも、とうとう諦めたのだから。

「達実」

「な、に――」

 言葉は、キスで塞がれた。

 驚いて固まる達実を見下ろし、采はニヤリと笑う。

「……それじゃあ、経験値の違いを教えてやろうじゃないか? 今度ばかりはオレのペースで行かせてもらうぞ」

 それなりに場数を踏んできたことを匂わせると、達実は真っ赤になりながらも、生来の負けん気を発揮した。

「へ、へぇ? それはどうかな? だって采は、もう四十に入ってるオジサンじゃないか。体力なら、絶対僕の方が上だよ」

「ほぉ、言ったな? 」

 眉を跳ね上げると、采は達実をひょいっと抱きかかえた。

 驚く達実に、先制するように采は言う。

「じゃあ、証明しようじゃないか」

「しょ、証明? 」

「――――逃げるなよ? 煽ったのはお前だからな」

 意地悪く忠告すると、達実は悔しそうな顔になり……次に、キュッと目を閉じて、自分から采の肩へと腕を回し、強く抱き付いてきた。

 そうして、本当に小さな声で返事をかえす。



「……うん。もう逃げない」



 その返答に、采の本能は激しく刺激された。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

処理中です...