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Tender criminal
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初めて、その順位が変わった。
今は、何よりも、達実の憂いが去ってくれることを願わずにはいられない。
これ以上、彼の悲しむ顔は見たくない。
ましてや、あんな状態の達実に無体を強いて、万が一本当に嫌われてしまったら――――そうなったら、自分はどうすればいいのか?
『身体さえ手に入れてしまえば、心もその内ついてくる』
どうして、自分はそんな身勝手な事を考えていたのか?
現在のアレンは、ずっと煩悶としている。
非常に戸惑っている。
どうやら、自分はあまりにも達実を愛し過ぎてしまい、逆に、彼に少しでも嫌われるのが怖くなってしまったようだ。
(参ったな……この私が、こんな感情に陥るなど思ってもいなかった)
自嘲気に小さく笑い、アレンは林檎に眼差しを注ぐ。
「私達は、どうやら似た者同士のようだ」
「は? 」
「Tender criminal……優しい罪人だ」
「オレは、別に優しくなんか……」
「優しいさ」
フッと柔らかな口調で言うと、次にアレンは吹っ切ったように笑った。
「ハハハ、どうやら私たちは、自分自身で思った人物像とは、本当はずいぶんと違う人間だったようだ」
このアレンの言葉に、林檎は少し驚いたような顔をするが……すぐに、同じようにクスリと笑う。
「それは、同感だね。なんとかして、オレを邪魔者扱いしてた両親や周りのやつらに復讐してやろうって、オレはいつもそればっかり考えてたよ。だから、名門九条家のボンボンの正式な番になって、やつらの鼻を明かしてやろうって思ってた。愛だの恋だの、そんな下らないモンはどうでもいいって割り切ってたんだけど……」
いつの間にか、自分の欲よりも優先したくなるモノが出来てしまった。
今はもう、それが第一の望みになっている。
「……私も同じようなものだ。私に近寄ってくる人間は、全員が欲にまみれた下卑で下等な生物だと思っていた。だから私も、力づくで何でも罷り通ると信じていたし、実行していた。アウラと一言告げれば、どんな奴等も全員が平伏したからな――」
それまで対等な友人だと思っていた相手が、その一言で手の平を返すのだ。
物心ついてから、何度も砂を噛むような目に遭ってきた。
それでも、イギリスに身分を隠して留学した時は、本当の友人が手に入ったと信じた。
フットボールの試合を観戦して、その流れでバーに繰り出し、肩を組んでバカ騒ぎをして駆け付けた大人たちに説教を喰らう。
誰かに怒られたのも初めてだったし、下らない事でバカ騒ぎしたのも初めてだった。
そんな全ての体験が新鮮で、アレンはとても楽しかったし嬉しかった。
しかし、留学先で手にしたハズのそんな日常も、アレンの正体が知れると一変してしまった。
『申し訳ありませんでした、アレンさま』
昨日まで友人だと思っていた相手は、床に額を擦り付けるように言いながら、次に上目遣いで、強張った顔のアレンを見上げながらねだってきたのだ。
『ところでアレン様。ウチの親族の取引先で少々相談したい事が――』
何が友人だ! どいつもこいつも、野卑で薄汚いケダモノだ!!
「――――そう、絶望して達観していたんだが」
達実だけは違う。
彼は、決して傷付けてはならない本物の貴石だ。
唯一無二の、愛しい薔薇だ。
「……リンゴ。私と再び、手を組んでくれないか? 」
何事か、また邪なことを企んでいるのか?
警戒する林檎であったが……そのアレンの青い瞳が、初めて見る色に揺れているのを感じ取り、林檎は警戒を解いた。
「あんた……」
「頼む」
「――――わかったよ」
そう返事をかえし、林檎とアレンは固い握手を交わした。
今は、何よりも、達実の憂いが去ってくれることを願わずにはいられない。
これ以上、彼の悲しむ顔は見たくない。
ましてや、あんな状態の達実に無体を強いて、万が一本当に嫌われてしまったら――――そうなったら、自分はどうすればいいのか?
『身体さえ手に入れてしまえば、心もその内ついてくる』
どうして、自分はそんな身勝手な事を考えていたのか?
現在のアレンは、ずっと煩悶としている。
非常に戸惑っている。
どうやら、自分はあまりにも達実を愛し過ぎてしまい、逆に、彼に少しでも嫌われるのが怖くなってしまったようだ。
(参ったな……この私が、こんな感情に陥るなど思ってもいなかった)
自嘲気に小さく笑い、アレンは林檎に眼差しを注ぐ。
「私達は、どうやら似た者同士のようだ」
「は? 」
「Tender criminal……優しい罪人だ」
「オレは、別に優しくなんか……」
「優しいさ」
フッと柔らかな口調で言うと、次にアレンは吹っ切ったように笑った。
「ハハハ、どうやら私たちは、自分自身で思った人物像とは、本当はずいぶんと違う人間だったようだ」
このアレンの言葉に、林檎は少し驚いたような顔をするが……すぐに、同じようにクスリと笑う。
「それは、同感だね。なんとかして、オレを邪魔者扱いしてた両親や周りのやつらに復讐してやろうって、オレはいつもそればっかり考えてたよ。だから、名門九条家のボンボンの正式な番になって、やつらの鼻を明かしてやろうって思ってた。愛だの恋だの、そんな下らないモンはどうでもいいって割り切ってたんだけど……」
いつの間にか、自分の欲よりも優先したくなるモノが出来てしまった。
今はもう、それが第一の望みになっている。
「……私も同じようなものだ。私に近寄ってくる人間は、全員が欲にまみれた下卑で下等な生物だと思っていた。だから私も、力づくで何でも罷り通ると信じていたし、実行していた。アウラと一言告げれば、どんな奴等も全員が平伏したからな――」
それまで対等な友人だと思っていた相手が、その一言で手の平を返すのだ。
物心ついてから、何度も砂を噛むような目に遭ってきた。
それでも、イギリスに身分を隠して留学した時は、本当の友人が手に入ったと信じた。
フットボールの試合を観戦して、その流れでバーに繰り出し、肩を組んでバカ騒ぎをして駆け付けた大人たちに説教を喰らう。
誰かに怒られたのも初めてだったし、下らない事でバカ騒ぎしたのも初めてだった。
そんな全ての体験が新鮮で、アレンはとても楽しかったし嬉しかった。
しかし、留学先で手にしたハズのそんな日常も、アレンの正体が知れると一変してしまった。
『申し訳ありませんでした、アレンさま』
昨日まで友人だと思っていた相手は、床に額を擦り付けるように言いながら、次に上目遣いで、強張った顔のアレンを見上げながらねだってきたのだ。
『ところでアレン様。ウチの親族の取引先で少々相談したい事が――』
何が友人だ! どいつもこいつも、野卑で薄汚いケダモノだ!!
「――――そう、絶望して達観していたんだが」
達実だけは違う。
彼は、決して傷付けてはならない本物の貴石だ。
唯一無二の、愛しい薔薇だ。
「……リンゴ。私と再び、手を組んでくれないか? 」
何事か、また邪なことを企んでいるのか?
警戒する林檎であったが……そのアレンの青い瞳が、初めて見る色に揺れているのを感じ取り、林檎は警戒を解いた。
「あんた……」
「頼む」
「――――わかったよ」
そう返事をかえし、林檎とアレンは固い握手を交わした。
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