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Tender criminal

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 静かなアレンの問い掛けに、林檎は声もなく涙を一筋流す。

 それが、答えだった。

 幾ら何でも、さすがに判る。

 林檎は、心から采の事を愛しているのだ。

 愛しているから――――別れることを決意したのだ。

「采は……やっぱりさ、あの綺麗な義弟が好きなんだよ。ずっと、四六時中あいつの事ばっかり気にしている」

「そうか……」

「でも、そんなの悔しいじゃん? オレは采が好きなんだぜ? だから卑怯な手でも何でも使って、どうにかして采の興味を自分に向けようと頑張ってみたけど……どうしたって無理みたいだ」

 そう言うと、林檎は袖で涙をグイッとぬぐう。


「――――だったらさ、こっちも惚れた弱みだ。采が本当にやりたい事をさせてやろうって気になっちまうんだよ」

「だから――……私に、タツミから手を引けというのか? 」

「タダとは言わないさ。……って言っても、オレに出来る事なんかタカが知れてるけどな」

 そこで林檎は自嘲気に笑うと、わざと明るい表情になって妥協案を提示する。

「そうだ! 愛人は間に合っているっていうなら、オレを、どこぞの変態に派遣するってのでもいいぜ。乱交でもSMプレイでも、何をされても外には絶対洩らさないから安心しろよ。王様みたいにイイ気分にさせて、あんたのヤバイ仕事が順調に進むように――」

「あいにくと、私はそんな薄汚い仕事はしていない」

「……だ、だったら……そうだ、美人局つつもたせは? あんたも、蹴落としたいライバルくらいはいるだろう」

「ライバル、か――」

(それは、確かにいるな)

 フッと笑って、アレンは形のいい唇を歪める。

「目下、私の最大のライバルはサイ・クジョーだ。タツミの心を占めているあの男が、一番の敵だな」

 だから、林檎と手を組もうとしたのだから。

 このアレンの言葉に、林檎は苦悩の表情を浮かべる。
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