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sweet time

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 達実は、とんでもない美人だ。

 雪のように白い肌は艶々と輝き、彫刻家が命を懸けて創造したかのような麗しい容貌は、誰より高貴で美しい。

 けぶるように長い睫は瞬きの度にパサパサと音がしそうだし、ほんのりと色付いた頬やサクランボ色の唇はぽってりとしていて、無条件に吸い付きたくなる。

 あいつと恋人になりたい、友人になりたい、何でもいいからとにかく繋がりを持ちたい。

 どんなに他愛なくても――――せめて、挨拶だけでも交わすような仲でも構わないから……知り合いになりたい。

 誰もが皆そう思い、采を足掛かりにして達実に近づきたいと寄っても来る。


 それが本当に、ムカつく!

 腹が立つ!!


 あいつが、お前らのような輩に易々とどうにかできるような、そんな単純なヤツだとでも思っているのか!


 采は、あらゆる人物から羨望を集める美貌の義弟を忌々しく思う反面――――誇らしくもあった。

 何故なら、その義弟は、いつも采しか見ていなかったからだ。

 あらん限りの敵意と愛情を以って、18も歳の違う彼らは互いを意識し続けた。

 采が達実を睨み付けると、達実はそれ以上の力を込めて睨み返してくる。

 彼等は仇敵のような間柄であり、同時に、運命を超えるような激しく強い絆で結ばれていた。

(オレの親父の番が、親父とではなく後輩のオメガと子を生すっていう――――一か八かの賭けに出なけりゃあ、あいつはこの世に誕生しなかった。こうして互いに顔を合わせていること事態が、もう立派な奇跡だ)

 それは、分かる。

 采は、この奇跡の出会いを喜び、享受して、達実をただ正直に愛せばいいのだ。

 父親の愛情全てを独占した達実を憎むのではなく……。

 だが、頭では理解しているが、やはり父親から関心を得ることが叶わなかった采は、どうしても達実が羨ましくもあり妬ましくもあった。

 采の中の確執は根深く、わだかまりもなく達実に接する事は……どうしても不可能だ。

 しかしそれ以上に――――やはり采は、達実のことが愛おしい。

 自分では、どうにもならない程に。

 そして、散々悩んで苦悶して、采が出した答えは……この秘めた想いは断つということだった。

(だから、これで正解なんだ)

 采はそう自分に言い聞かせると、ふぅと嘆息する。

 采の子供を身籠ったと言って押し掛けてきた、オメガの愛人である立野林檎。

 アレン・シン・アウラは、これが証拠だと言ってスマートフォンに妊娠検査結果を映し出したが……それは大分怪しいと、さすがに思っている。

 十中八九、虚偽であろう。

 だが采は、ウソでもいいからその話に乗る事にした。

 そうでもしなければ、達実をあきらめることは出来そうもなかったからだ。

あいつ達実から眼を逸らすには、これが一番良い切っ掛けになる。オメガを正式に『番』にすればパートナーとしての責任が発生するんだし、そうなればもうこっち家庭の方に否応なく集中するわけだからな)

 そうすれば、今回が虚偽にせよ――――その内、本当に林檎は子を身籠るかもしれない。

 もしもそうなったら、あとは立派な父親として、子供と林檎を養えばいいだけだ。

 仕事と家庭の両方に没頭すれば、いづれ達実のことも忘れられるだろう。

 達実は、容姿も然ることながら、頭脳も非常に明晰で才能あふれるアルファだ。

 一人でも、充分にどこでも活躍できる。

 誰よりも艶やかに、華々しく生きていけるだろう。

 あの、アレン・シン・アウラも――――達実にかなり心酔しているようだし。

 アレンは、見え見えの謀略を図ってまで、暗に采へ『達実はあきらめろ』と示してきた。

 お前はオメガの林檎と番になって、義弟から手を引けと。

(あんな芝居がかった事をしやがって……オレが本気で騙されるなんて思ってもいないだろうに。だが、それを分かっていながら謀るくらいに、達実に惚れているということか)

 そんなに惚れているのなら、たとえ達実がオメガでなくても一生愛してくれるだろう。
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