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Love passion
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アレンの言葉に、采はムッとした様子で目を眇める。
「――――お前は、『証拠がある』と言ったな? どうして林檎が身籠ったという子が、間違いなくオレの胤だと分かったんだ? 」
すると、まるでアレンは最初からそのセリフを待っていたかのように、滑らかな口調で語り出した。
「そうだね、まずはそこを詳しく説明しようか……昨日、君が私の所を訪れた際に、床に君の髪の毛が落ちていたんだよ。紺色に近い黒だから、すぐ君の物だと分かった」
「で? 」
「それを使って、君の許可を得ずに悪いとは思うが、出生前DNA鑑定検査に使わせてもらったんだよ。リンゴの体内にいる胎児とのDNA照合にね」
「な……んだと? 」
「これは、母体血を使用して妊娠9週から可能な検査なんだ。リンゴは、もう9週は過ぎていたようだ」
「し、しかし、腹は全然……」
「オメガの男体は妊娠しても、体系があまり変わらなくて分かり難いんだよ。女体よりもずっと早産になるしね。それにオメガの男体は妊娠出産が女体に比べてはるかに確率が低いものだから、世界では手厚く保護される流れになっている。それくらい、君も知っているだろう? クジョーは医療関係に進出しているんだから」
「……ああ」
確かにそうだ。九条一族は病院の他にも医大も経営しているので、九条の者なら皆知識はある。
「それでは――」
采は口ごもりながら、戸惑う視線をアレンと林檎へ注ぐ。
「林檎は、本当にオレの……? 」
アレンは力強く頷くと、スッと自身のスマホを取り出した。
「データだけを、私のスマホへ送ってもらった。結果は――――これが、そのデータだ」
そう言いながら、アレンはDNAの検査結果をスマホへ映し出した。
そこには、99.998%で父親は采だという結果が記されていた。
「今回の検査は、日本にいる私の知り合いに頼んで、極々内密に検査させたものだ。絶対に、外に漏れることはない」
「これは、本当……なのか? 」
「君の立場もあろうと思って、ここだけの話に収めてもらっている。どうする? 正式に医師を立ち会わせて、再び調べるか? 」
『そうだな』と言い掛けたところ、それまで殊勝な様子で大人しくしていた林檎が口を挟んできた。
「そんなの嫌だよ、オレは! だって、オメガの男体が何回もDNA検査をするなんて……あからさまに歓迎されてないみたいで惨めじゃないか! 病院なんか、もう行きたくない! う、うぅ~」
そう言うと、林檎は顔を覆って泣き伏してしまった。
その哀れな様子に、さすがの采も、何と言葉を掛けたらいいのかと戸惑う。
「林檎……しかし――」
「オレを、采の番にしてくれよ! そうしたらそれを心の支えにして、この子をオレ一人で育てていくから……」
「おお、なんと健気なことじゃないか! 」
林檎の決意の言葉に、アレンも目頭を押さえて感激したように言う。
「彼は、君の為にこの件は表沙汰にしないで、たった一人で子供を産み育てると口にするなんて……!! 」
「――」
口ごもる采に、畳みかけるようにアレンは言い募る。
「君も、リンゴに少しでも愛情があるのなら、もっと優しくしてやるべきだよ。それが、夫としてのせめてもの務めだろう」
愛人を生業にしている林檎だ。
いままで、采以外にも多くのセレブ達と浮名を流して林檎が、あえて意図した『妊娠』という道を選んだのは――――やはり、確固たる目的があるという事になる。
そして、林檎の目的は、九条家の財産ではないという。
「オレは……本当に、采の番になりたかったんだ。お金なんかどうでもいいよ! オレは采の事が、ただ好きなだけなんだ」
とても演技とは思えない、情感に満ちた言葉だ。
采は迷いながら――――だが、静かに答えを返した。
「……わかった」
その様子を、エレベーター側の、ドアの外から……息を殺して見ている人物にも気付かずに。
「林檎には、オレが所有している別のマンションを用意する。今は、色々と周囲も騒がしいから……あと二週間程経って少し落ち着いたら、番になろう」
「ありがとう、采! オレ本当に嬉しい!!」
林檎はそう言うと、すぐさま采の胸に飛び込んでいた。
「オレたち、これからずっと一緒だね! 」
「oh! Congratulations! 」
アレンは、ドアの外に立ち尽くしているであろう人物を想像しながら、采に気付かれぬようニヤリと笑っていた。
「――――お前は、『証拠がある』と言ったな? どうして林檎が身籠ったという子が、間違いなくオレの胤だと分かったんだ? 」
すると、まるでアレンは最初からそのセリフを待っていたかのように、滑らかな口調で語り出した。
「そうだね、まずはそこを詳しく説明しようか……昨日、君が私の所を訪れた際に、床に君の髪の毛が落ちていたんだよ。紺色に近い黒だから、すぐ君の物だと分かった」
「で? 」
「それを使って、君の許可を得ずに悪いとは思うが、出生前DNA鑑定検査に使わせてもらったんだよ。リンゴの体内にいる胎児とのDNA照合にね」
「な……んだと? 」
「これは、母体血を使用して妊娠9週から可能な検査なんだ。リンゴは、もう9週は過ぎていたようだ」
「し、しかし、腹は全然……」
「オメガの男体は妊娠しても、体系があまり変わらなくて分かり難いんだよ。女体よりもずっと早産になるしね。それにオメガの男体は妊娠出産が女体に比べてはるかに確率が低いものだから、世界では手厚く保護される流れになっている。それくらい、君も知っているだろう? クジョーは医療関係に進出しているんだから」
「……ああ」
確かにそうだ。九条一族は病院の他にも医大も経営しているので、九条の者なら皆知識はある。
「それでは――」
采は口ごもりながら、戸惑う視線をアレンと林檎へ注ぐ。
「林檎は、本当にオレの……? 」
アレンは力強く頷くと、スッと自身のスマホを取り出した。
「データだけを、私のスマホへ送ってもらった。結果は――――これが、そのデータだ」
そう言いながら、アレンはDNAの検査結果をスマホへ映し出した。
そこには、99.998%で父親は采だという結果が記されていた。
「今回の検査は、日本にいる私の知り合いに頼んで、極々内密に検査させたものだ。絶対に、外に漏れることはない」
「これは、本当……なのか? 」
「君の立場もあろうと思って、ここだけの話に収めてもらっている。どうする? 正式に医師を立ち会わせて、再び調べるか? 」
『そうだな』と言い掛けたところ、それまで殊勝な様子で大人しくしていた林檎が口を挟んできた。
「そんなの嫌だよ、オレは! だって、オメガの男体が何回もDNA検査をするなんて……あからさまに歓迎されてないみたいで惨めじゃないか! 病院なんか、もう行きたくない! う、うぅ~」
そう言うと、林檎は顔を覆って泣き伏してしまった。
その哀れな様子に、さすがの采も、何と言葉を掛けたらいいのかと戸惑う。
「林檎……しかし――」
「オレを、采の番にしてくれよ! そうしたらそれを心の支えにして、この子をオレ一人で育てていくから……」
「おお、なんと健気なことじゃないか! 」
林檎の決意の言葉に、アレンも目頭を押さえて感激したように言う。
「彼は、君の為にこの件は表沙汰にしないで、たった一人で子供を産み育てると口にするなんて……!! 」
「――」
口ごもる采に、畳みかけるようにアレンは言い募る。
「君も、リンゴに少しでも愛情があるのなら、もっと優しくしてやるべきだよ。それが、夫としてのせめてもの務めだろう」
愛人を生業にしている林檎だ。
いままで、采以外にも多くのセレブ達と浮名を流して林檎が、あえて意図した『妊娠』という道を選んだのは――――やはり、確固たる目的があるという事になる。
そして、林檎の目的は、九条家の財産ではないという。
「オレは……本当に、采の番になりたかったんだ。お金なんかどうでもいいよ! オレは采の事が、ただ好きなだけなんだ」
とても演技とは思えない、情感に満ちた言葉だ。
采は迷いながら――――だが、静かに答えを返した。
「……わかった」
その様子を、エレベーター側の、ドアの外から……息を殺して見ている人物にも気付かずに。
「林檎には、オレが所有している別のマンションを用意する。今は、色々と周囲も騒がしいから……あと二週間程経って少し落ち着いたら、番になろう」
「ありがとう、采! オレ本当に嬉しい!!」
林檎はそう言うと、すぐさま采の胸に飛び込んでいた。
「オレたち、これからずっと一緒だね! 」
「oh! Congratulations! 」
アレンは、ドアの外に立ち尽くしているであろう人物を想像しながら、采に気付かれぬようニヤリと笑っていた。
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