20 / 116
Liar and liar
12
しおりを挟む
そんな状況であるので、結局は九条を正式に継ぐのは、直系でアルファの采かと思っていたが――――どうやら、そんな古めかしい前時代的な考え方をしていたのは、達実だけであったらしい。
恵美と、その甥である采の間では、何のわだかまりも無く話は付いているようだ。
ならば、もう達実が口を出す問題ではない。
「そうか……じゃあ、采はオメガと番になって子供を儲けるとか、そういう事は……真剣には考えていなかったんだな――」
達実の伺うような問い掛けに、采は『そんな訳でもないが』と返事をした。
「オレだって、今からオメガに本気で惚れたら、それこそ番になろうと熱烈に求婚するかもしれないぞ。四十路とか関係なくな」
「――じゃあ、さっきのオメガは? 」
「あいつか……? 今の所は考えてないな」
采は正直に答えると、ボーイの運んできたドリンクとサンドイッチを達実の前のテーブルへ置いた。
「ま、せっかくだから食っとけ。親父の法要っていっても、メインの葬式は終わっているワケだから前回よりは気も楽だ。そんなに緊張しなくてもいいさ。客も半分以下になるからな」
達実がここへ来たのはその要件だろうと思っているので、采は法要の事を説明する。
「お前は知り合いもほとんどいない中で法要に出なきゃあならんから心細いかもしれないが、何も難しい事はない。安心しろ。本当は――奏も来ればよかったんだが……」
「奏は、学会が忙しいから今回はどうしても無理だったんだ。だから、僕は自分から――」
「ああ、分かってるさ。お前一人でも来てくれて嬉しいよ。それに、親父も喜んでいるだろうさ。なんせ、親父はお前が大のお気に入りだったからな……」
達実は、最愛のオメガが、自分の為に後輩へ託した命の結晶だ。
七海の生き写しのように育った達実は自分の胤を受け継いではいないが、そんな事は九条にとってはどうでもいい事だった。
何といっても、七海の血は確実に達実が継いでいるのだから。
故に九条は、達実を目に入れても痛くないくらいに可愛がっていた。
日本にいる時はもちろん、離れていても同様に。
『私は、君のことが一番可愛いよ』
それが、達実に対する九条の口癖だった。
彼にとって達実は、最も愛した最愛の息子であったのだ――――采ではなく、達実こそが。
「正直に言うと、オレは今でもその事を許せないでいるが……」
采はフゥと息を吐き、達実の対面のソファーにドスっと腰を下ろす。
「――でも、ガキでもあるまいし、今更お前に当たり散らしても意味がないからな。これで、お前が九条の財産に執着するようなヤツだったら遠慮なくオレも恨めるんだが……」
「まだそんなこと言ってるんだ? 僕も奏も、九条の財産なんか興味ないよ。全部放棄するから、そっちで勝手に分ければいいさ」
前途洋々のアルファである達実と、己の才覚で財産を築き上げた奏にとっては、他人の金など興味もない。
その潔さに、かえって采は苛立ちを感じてしまう。
「……とか何とか言って、後になって後悔しても知らねぇぞ」
「要らないものはいらないよ。それより――――どうしても訊きたい事があって、今日はここに来たんだ」
「ん? 法要の事だろう? 」
「……本当は、違うんだ」
「違う? なにが? 」
「だから――」
達実は言い淀むと、キュッと唇を噛んで俯いた。
そんな要領を得ない様子に、采は眉をひそめる。
「いったいお前は何の用があって、わざわざオレのマンションまで押しかけたんだ? おかげで、せっかく来ていたオメガが帰ったんだぞ。今日は、食事でも行こうかと考えていたのに――」
と、言い掛けたところで、達実が怒りの表情を浮かべてギロっと采を睨んできた。
そのあまりの迫力に、采の舌は凍り付いたようになる。
「な、なん……だよ? 」
「――――どうして、僕にキスをしたんだ? 」
恵美と、その甥である采の間では、何のわだかまりも無く話は付いているようだ。
ならば、もう達実が口を出す問題ではない。
「そうか……じゃあ、采はオメガと番になって子供を儲けるとか、そういう事は……真剣には考えていなかったんだな――」
達実の伺うような問い掛けに、采は『そんな訳でもないが』と返事をした。
「オレだって、今からオメガに本気で惚れたら、それこそ番になろうと熱烈に求婚するかもしれないぞ。四十路とか関係なくな」
「――じゃあ、さっきのオメガは? 」
「あいつか……? 今の所は考えてないな」
采は正直に答えると、ボーイの運んできたドリンクとサンドイッチを達実の前のテーブルへ置いた。
「ま、せっかくだから食っとけ。親父の法要っていっても、メインの葬式は終わっているワケだから前回よりは気も楽だ。そんなに緊張しなくてもいいさ。客も半分以下になるからな」
達実がここへ来たのはその要件だろうと思っているので、采は法要の事を説明する。
「お前は知り合いもほとんどいない中で法要に出なきゃあならんから心細いかもしれないが、何も難しい事はない。安心しろ。本当は――奏も来ればよかったんだが……」
「奏は、学会が忙しいから今回はどうしても無理だったんだ。だから、僕は自分から――」
「ああ、分かってるさ。お前一人でも来てくれて嬉しいよ。それに、親父も喜んでいるだろうさ。なんせ、親父はお前が大のお気に入りだったからな……」
達実は、最愛のオメガが、自分の為に後輩へ託した命の結晶だ。
七海の生き写しのように育った達実は自分の胤を受け継いではいないが、そんな事は九条にとってはどうでもいい事だった。
何といっても、七海の血は確実に達実が継いでいるのだから。
故に九条は、達実を目に入れても痛くないくらいに可愛がっていた。
日本にいる時はもちろん、離れていても同様に。
『私は、君のことが一番可愛いよ』
それが、達実に対する九条の口癖だった。
彼にとって達実は、最も愛した最愛の息子であったのだ――――采ではなく、達実こそが。
「正直に言うと、オレは今でもその事を許せないでいるが……」
采はフゥと息を吐き、達実の対面のソファーにドスっと腰を下ろす。
「――でも、ガキでもあるまいし、今更お前に当たり散らしても意味がないからな。これで、お前が九条の財産に執着するようなヤツだったら遠慮なくオレも恨めるんだが……」
「まだそんなこと言ってるんだ? 僕も奏も、九条の財産なんか興味ないよ。全部放棄するから、そっちで勝手に分ければいいさ」
前途洋々のアルファである達実と、己の才覚で財産を築き上げた奏にとっては、他人の金など興味もない。
その潔さに、かえって采は苛立ちを感じてしまう。
「……とか何とか言って、後になって後悔しても知らねぇぞ」
「要らないものはいらないよ。それより――――どうしても訊きたい事があって、今日はここに来たんだ」
「ん? 法要の事だろう? 」
「……本当は、違うんだ」
「違う? なにが? 」
「だから――」
達実は言い淀むと、キュッと唇を噛んで俯いた。
そんな要領を得ない様子に、采は眉をひそめる。
「いったいお前は何の用があって、わざわざオレのマンションまで押しかけたんだ? おかげで、せっかく来ていたオメガが帰ったんだぞ。今日は、食事でも行こうかと考えていたのに――」
と、言い掛けたところで、達実が怒りの表情を浮かべてギロっと采を睨んできた。
そのあまりの迫力に、采の舌は凍り付いたようになる。
「な、なん……だよ? 」
「――――どうして、僕にキスをしたんだ? 」
0
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる