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二章 士官学校

新学期①

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冬季休暇も終わりに近づくと、故郷へと帰省していた生徒が徐々に戻りはじめてくる。
寮には少しずつ、賑やかさが戻りつつあった。

それぞれの休暇の思い出話で食堂は打って変わって喧しい。中には休暇中に出された課題が終わっていない者もいるようで、必死に友人に泣きついていた。

「明日からか。あっという間だったな」

夕食を食べ終え、食後の茶を飲みながらジェイデンは食堂を見渡した。

「そうだな。授業の予習をする暇もなかった」
「何言ってる。お前が真面目に勉強しているところなんて見たことがないぞ」

しれっと嘯くセオドアに、苦笑いでジェイデンが返す。
興味のあることについては寝る間も惜しんでのめり込む男だが、それ以外で机に向かっているところは見たことがない。
それでいて成績は優秀なのだから、嫌味な男である。

「俺はお前の真面目なところが好きだぜ」

ジェイデンの眼前に、揶揄うように言いながらセオドアの手が伸びる。まるで子供のように頭を撫でられて、ジェイデンの表情はさらに憮然としたものになった。
この年上の親友が、いつも自分を子供扱いしてくることがジェイデンは気に入らない。それを知っていて、あえてそう振る舞うセオドアは、険しくなるジェイデンの目付きに気づかない振りをして笑みを浮かべた。

「やめろ。明日からは学校だから、もう部屋へ戻るぞ」

頭に置かれた手を払って、ジェイデンは立ち上がる。

「そうだな、忙しくなりそうだ。お前の実家にも挨拶に行かないといけないしな」

制服の仕立てや授業で必要な本や道具など、ディアたちに相談しながら何とか休みのうちに支度を揃えることができた。
親族への挨拶はできずじまいだが、学校が始まってからでいいと手紙で返事をもらっている。そのため週末には訪ねて行かねばならないことになっていた。

「それは言うな」

念を押されるような言い方に、ジェイデンは不機嫌そうにため息をついた。







♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎






新学期を迎えた登校初日。
ジェイデンとセオドアはユージーンに言われた通りに、学校の門の前で彼を待っていた。

「おはよう。ふたりとも、制服がよく似合っていますね」

かけられた声に振り返る。そこにいたのはローブに身を包んだユージーンだ。

「おはようございます」

そのやりとりを、登校中の生徒達がちらちらと気にする素振りをしながら通り過ぎていく。

制服姿を褒められたジェイデンとセオドアは、お互いの格好を見合った。よく見慣れた相手の、見慣れない姿に何故だか面映い気持ちになる。
黒いジャケットとズボンで揃えられた制服は、シャツの首元に結ぶ紐の色が学年毎に違う。それぞれ白いシャツの首元をジェイデンが赤、セオドアが青の紐が彩っていた。

「この紐、どうやって結ぶのが正解なんですかね?」

緩く結び、胸元へと垂らしている紐の端を摘みながらセオドアが聞いた。
寮の食堂で見かけた他の生徒たちの真似をして結んでみたが、2人とも結び方がわからず時間だけが過ぎてしまった。遅刻するよ、と呆れたディアに「そんなの適当でいいでしょ」と大雑把に結ばれたままだ。

「式典の時には正式な結び方がありますが、普段はそんな感じの学生が多いですよ」

ユージーンが笑って答える。
大抵の男生徒は紐を軽く結うだけだ。
士官学校は男女で制服の形に差異はないため、女生徒たちは紐を綺麗なリボンの形に結んだりと工夫して個性を出している。

「式典用の結び方は後で私がセオドアに教えましょう。セオドアの担任は私です」
「よろしくお願いします」

職員室へ向かいましょうか、とユージーンに促されて三人は歩き始めた。
足を進めながら、ジェイデンが話題の流れでユージーンに質問をする。

「私の担任はどんな方なんでしょうか」
「ジェイデンの担任は去年まで騎士団の幹部だった人ですよ。校長が無理やり引き抜いてきたので、まだ教師としては新人ですが期待されています」

ユージーンがちょっと考えながら、続きを口にした。

「君のご実家とも縁があった人物だったと思いますけど」
「え?」

突然実家の話題になり、ジェイデンの心臓がぎくりと跳ねる。


「ルイス・ノティス。君の妹の婚約者候補の1人ですよ」






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