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一章 旅路

出発

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「なんでお前までついてくるんだ」


北の辺境騎士団の砦門を、騎獣に跨った2人の男が出てくる。
昨日まで着ていた騎士団服は退団とともに団に返した。2人が着ているのは傭兵のような旅衣装だ。
ジェイデンは深緑の下衣に、シャツの上から皮の胸当てを当てている。膝下までの編み上げブーツは騎士団で採用されているものと同じものだ。
餞別として仲間たちから新しいブーツを受け取った。セオドアも同じような格好だが、上着から下衣まで黒で統一している。この男はいつも黒い服しか着ない。
セオドアの黒髪と合わさり、彼のトレードマークのようになっていた。

「お前、王都でひとりぼっちじゃ寂しいだろ?せっかく親友がついて行ってやるってんだから喜べよ」
セオドアはそう言って、呆れた顔をするジェイデンへ丸めた外套を投げて寄越した。
セオドアは、王都で士官学校に編入するジェイデンの従者としてついてきているのである。
貴族の子弟の中には、寄宿舎に従者を連れていく者がいる。
もちろん、身分が高い家の子弟に限られるのだが。

「これ、いいだろ。団長からの餞別だと。特別ボーナスだって」

「これ、黒羊の外套か。襟元についてるのは…」

ジェイデンの外套には赤い石。セオドアには少し小さい紺青の石が留め具がわりについている。
色違いの留め具以外は全く同じデザインのそれは、長身で鍛えられたふたりにはよく似合っていた。

「これな、魔石らしいぜ。保管庫にあったやつだから値段は気にするなって」
「そうか」

「お前、一応公爵家の坊ちゃんなんだから、王都の奴らに舐められないような格好しろよ」
「なんだ、今更だろ。北の田舎に追いやられていた次男なんかに誰も興味ないさ」



♦︎♦︎♦︎



ジェイデン・ロンデナート。

名家ロンデナート家の次男である彼は、本来ならこんな所にいる人間ではなかった。付け焼き刃の従者1人を携えての旅程など、許されることはないはずだ。

北の辺境地はロンデナート公爵家の領地であるが、本領は王都に近い中央の平原にある。

ジェイデンは母親が死んだ8歳の時にひとり、北の辺境地の別邸に移った。
はじめの4年の間は、年老いた執事と、メイドとしてついて来てくれた乳母と3人で暮らしていた。
王都からは仕送りらしい仕送りもほとんどなく、ジェイデンは餓えないよう裏の森で鹿や兎を狩った。

セオドアと初めて会った12歳の頃は、森の恵みのおかげで年相応の体躯をしていたが、村の子供たちと同じような服を着ていた。公爵家の別邸はその家格に相応しく豪奢だったが、主人であるはずのジェイデンには服を買う金もない。
憐れに思った乳母が、少ない自身の給金の中からジェイデンの服や身の回りの品を揃えていたが、高級品はもちろん買えない。
成長期を迎えていたジェイデンは、背がすぐに伸びるためせっかく買ってもらった服がすぐに着れなくなることを心苦しく思っていた。






久しぶりに、屋敷で過ごしていた日々を思い出してジェイデンは苦笑した。

あの頃から、自分の姿に頓着しない人間になった。もちろん美醜はわかるが、彼は着飾ることに興味がないのだ。




「お前ね。それは自分の姿を鏡で見てから言うんだな」


セオドアは溜息を深くつきながら、出会った頃から繰り返してきた台詞を今日も嫌そうに吐き捨てた。
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