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美しき彫刻達

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彫刻館の中は広々としていて、白を基調とした美しい空間が、やってくる者達を温かく包んでいた。その素晴らしい空間故に、先程私が孕んでいた理不尽な怒りが腹の底でどろっと溶け去った事に気付いたのは、もう少し後のことである。

「ようこそいらっしゃいました。彫刻をご希望で御座いますか。それとも、見学をご希望で御座いますか。」

やたらと畏まった口調の女が話し掛けてくる。美術館と言えば美術品を眺めるより他にやる事など無かろうに。私は呆れながら、

「見学で。」

と答えると、女はその分かりきった自分の美貌を最大限活かすようにしてはにかんでから、「かしこまりました。」と答えた。その次の瞬間、私は呆気に取られた。がくん、と小さく世界が揺れたかと思うと、女と私だけを残して、全てが後方へと流れ去って行くのだ。女は平然としているが、私には何が何だかわからない。私は自分が田舎者である事を悟られまいと平静を装いながら、視界を彷徨わせる。

なるほど驚いた。なんと、床が前方へと進んでいるではないか。未来の文明とはこういう事なのだろう。

「間も無く、彫刻作品の展示場で御座います。」

女がそう言うと、目の前の門がゆっくりと自動で開き始める。私はそれだけでも驚愕したが、更に驚いたのは、その先の光景だった。

「…見事だ。」

幾千幾万にも及ぶ、木材石材からなる彫刻の数々。掌にポツンと乗りそうな物から、鎌倉に座する大仏を思わせる程の大きさのものまで、多種多様な彫刻が並んでいる。更に、それらは全て細部まで刻み込まれた大作なのだ。確かに、小作人共でさえ何度も来たくなるのは頷けよう。

「しかし、口惜しいな。これ程見事な彫刻をじっくり眺める事ができないのは。」

私は彫刻に集中しようとするが、自動で床が動くため立ち止まって見学できず、作品とまともに向き合う事が出来ない。これは真に不便だ。

「大丈夫で御座います。その場合は、こちらで彫刻をして頂ければ、四六時中作品を眺める事が可能です。」

彫刻をする、というのがどうも腑に落ちないが、これらの作品をじっくり眺められるなら儲けものだ。私は女に連れられて、彫刻をする場所とやらに向かった。
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