ファー・ジャルグ 北の国のお話

狩人の男

その様子を、別の男が森の木々に隠れて見つめていました。同じ森に住む、欲張りな狩人の男です。
｢すげぇ、あんな財宝見た事が無ぇ。あいつを連れて行けば、俺も億万長者だ。｣
 男は、しめしめと思いながら、ファージャルグの後を追いかけました。
 男は、ファージャルグを見付けると、こっそりと近づいて行って、彼の前へ、襲いかかるように立ち塞がりました。
｢やい。そこな男。俺が宿を貸してやる。俺と一緒に来い。｣
男はそう言うが早いか、突然ファージャルグの服を掴んで、獲物を攫うワシのようにファージャルグを掴んで家へと連れて行きました。
｢なんて乱暴な男だ。よし、こいつにはうんときついいたずらをしてやろう。｣
ファージャルグはそう思いながら、粗暴な男に従って家へと着いて行ったのでした。
 男の家は酷いものでした。壁は煤で汚れ、窓は割れていて、床には男の食べかすや虫の死骸が散らばっていました。
｢おい、俺が宿を貸してやるんだ。お前も少しは働け。｣
狩人の男はそう言うと、ファージャルグに家事の一切を押し付けて、自分は椅子に跨ってのんびりとし始めました。
 ファージャルグは、口を聞くことも許されず、暖かい暖炉に当たる事も出来ないまま、朝を迎えました。
｢男。私の朝ご飯はどこだ。｣
｢お前の食事？無いな。そこの虫でも食ったらどうだ？｣
あまりにも酷い仕打ちでしたが、ファージャルグは精霊ですから、これくらいの事はなんともありません。しかし、男と過ごした時間はとても気分の悪いものでした。
｢さあ、精霊さんよ、俺の所にもお宝を持ってきてくれ。宿を貸してやったんだぞ。｣
ファージャルグは、首をふりました。
｢それはできない。狩人、お前の饗はとても客人に対するそれとは思えなかった。｣
 狩人の男は、それを聞くと怒りで顔を黒ずませながら、
｢うるせぇ、泊めてやったんだから良いだろうが。持ってこないなら、この矢で射殺すぞ！｣
と、大声で叫びました。