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90話 魔王の刺客

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「こっ……これは…!?」

傷だらけとなり、虫の息となってしまった同僚達。その姿を見て、近衛兵達は恐怖と怒りが一気に込み上げてきた。

「ヒヒ。少しばかり倒させて頂きました。あなた様との交渉の為にね」

「貴様ッ!!」

王の怒号と同時に、近衛兵達が素早く男を取り囲む。取り囲まれた男は、不気味な笑みをそのままに、ニヤリと口角を上げた。

「その程度の軍勢で、この人数を倒した私を倒せるとでも?」

「ほざけッ!」

王の命令と同時に、近衛兵達は息を合わせた連携攻撃で男を攻撃する。一斉に繰り出された剣戟は、一度もかすることなく、虚空を切り裂くだけだった。

「なっ……!?」

「ヒヒ。その程度の腕前で私を捕らえるのは不可能ですよ」

姿が見えなくなった男は、いつの間にか近衛兵達の包囲網をあっさりと抜け出し、王の目の前に佇んでいた。

「さあて、王様。交渉、進めていただけますね?ヒヒッ」

この距離。もはや王には、なんの手を打つ事も出来なかった。静かに両腕を上げ、王は静かに頷いた。

「……わかった。取引に応じよう。…お前の目的はなんだ」

「ヒヒ。物分りの良い御方だ。では交渉致しましょう」

パキン!と用意していた、盗品の金型を握り潰すと、男はニンマリと笑いながら、パトリツィオに向けて囁いた。

「先に断っておきますと…私は魔物です」

「っ……!」

やはり、結界は未完成であったか。その辺を彷徨くような魔物なら撃退は容易いが、所詮はまがい物。強力な力を持つ魔物を追い払うだけの力が無かったのだ。

「…従って、私が誰と貴方様を交渉させたいか……おわかりですね?」

「……魔王…エルネメジル……!」

「作用でございます。これは魔王様直々の言伝という訳です」

魔王。この世界に魔物を生み出した諸悪の根源であり、この世界に通じる世界の一つ、魔界に住まう王である。

魔王の名は、エルネメジル・ファルコーネ。絶世の美男子と名高いが、粗野な性格で政治は横暴。我儘な上に乱暴者で、彼に目をつけられれば、大国だろうとものの一週間の内に滅びてしまうと言われるほど。

「……我が国を滅ぼす通告でも死に来たのか?」

「まさか。そんな事をするくらいなら、宣告などせずに滅ぼしますよ」

「……では、何故?」

「貴方様に、この国から差し出して欲しい人物がいるのです」

「民を差し出す……だと……!?」

そんな事、一国の王としてあってはならぬ事だ。たとえどんなに貧しい民であっても、護らなくてはならぬ。そんな取引に乗る訳にはいかないのだ。

「ええ。たった一人。たった一人、民を差し出してくだされば、魔王様はこの国に何も手は出さないとの事です」

「…しかし……」

「拒否すれば……まあ、言わずとも分かるでしょう」

「く………一体、誰が欲しいんだ」

「貴方の国に住まう聖女。セラフィーナ・ラガザハートですよ」

「なっ……!?」
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みんなの感想(7件)

庵
2021.05.22
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日比谷ナオキ
2021.05.25 日比谷ナオキ

感想ありがとうございマッスルᕙ( ˙꒳​˙ )ᕗ
彼女はファンであるが故に嘘偽りない本当の彼女を知りたいのです(´ω`)
果たして次のデートはどうなるのか…
続きはじわじわちんたら書いていますのでどうかゆっくりお待ちください_(┐「ε:)_ズコー

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庵
2021.03.04
ネタバレ含む
日比谷ナオキ
2021.03.05 日比谷ナオキ

感想ありがとうございマッスルᕙ( ˙꒳​˙ )ᕗ
敵はただのモブです(´ω`)
果たして探偵少女はどんな風に話に関わってくるのか!💪(`・ω・´💪)
これからもバシバシ書きますのでのんびりお待ちくださいマッスル💪(`・ω・´💪)

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庵
2021.03.03
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日比谷ナオキ
2021.03.03 日比谷ナオキ

感想ありがとうございます!ポンコツ騎士は実は今色々ありまして…
ま、まさか、気付いてしまわれましたか 果たして先代聖女とは何者なのか…Σ:(;゙゚'ω゚'):ギクッ!
毎日ぼちぼち更新していきますので、これからも先を期待して読んでいただけると幸いです( ゚д゚)クワッ

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