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72話 急展開
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「(えっ?ど、どういう事?特に危険なんて無いと思うんだけど…!?)」
慌てて辺りを見回すが、特に危険なものは感じられない。かと言って、パトリツィオが自分を男だと気付きそうな素振りも無い。
ぷしゅー。
「ん?なんだ?この音…」
「空気の抜けるような音ですね…も、もしかして!?」
慌てて身を乗り出すと、長年使っていなかったものを急に動かしたからか、バルーンに虫食い穴のような小さな穴が広がっている。魔力によって温まった空気がそこから抜け出し、どんどん浮力を奪っているのだ。
「ああっ!?あ、穴が空いてます!」
「な、なんだと!という事は…」
このままだと、浮力が足りずに真っ逆さまに墜落である。ぞーっと二人が青ざめた次の瞬間、ガクンと機体が揺れてゆっくりと下降が始まる。
「うわわっ!」
「っ!セラフィーナっ!!」
セラフィーナの華奢な身体は、衝撃で機体の外に放り出される。パトリツィオが慌てて腕を掴み、宙ぶらりんで一命を取り留める。あまりの衝撃に気球を支える糸が千切れ、カゴまで斜めに倒れてしまう。
「あぐぅっ…!」
「無事か!セラフィーナ!」
「は、はいっ!」
ぎゅっと手を握り、必死に掴む。けたたましい音。鳴り響くサイレン。セラフィーナは理解した。この音は、男だとバレそうだと鳴るのでは無い。命の危機に晒された時に鳴るのだと。
「きゃあーっ!?ぱ、パトリツィオ様ー!?」
「嘘だろ!?飛ぶしかねえ!」
主のピンチ。即決で変装服を脱ぎ捨てると、即座に空へとジャンプする。竜の力を身体から呼び起こし、背中に羽根を生やして一気に空へと飛び上がる。竜翼。猛スピードで風を切って進むが、パトリツィオ達のいる場所はまだ遥か遠い。
「耐えてろよ!パトリツィオ!」
「ううっ…くぅ…!」
「セラフィーナ…!」
何とか取りとめた命。だが、それでも人間の力には限界がある。ゆっくり、ゆっくりと腕の力が弱まっていく。駄目だとわかっていても、身体が耐えられない。
「…ごめんなさい…パトリツィオ様…こんな事になるなんて…」
「謝るのは…俺の方だ。気球の手入れくらい…しっかりさせておくべきだった…!」
一気に引き上げようと力を込めるが、それでも片腕だけでは叶わない。耐えるしかない。パトリツィオは自分の無力を呪った。こんな時、魔法の一つでも使えたら。空を飛ぶ力でも持っていたら。大好きな君を助ける事が出来るのに。
「パトリツィオ様。このままだと…貴方まで死んでしまいます。どうか、手を離して下さい」
「……っ!そんな事…出来るわけ無いだろ!」
「聖女はまた探せば見つかります。貴方は、国王は貴方ただ一人です。私は良いですから…どうか…」
「ええい!黙れっ!俺にとって聖女はセラフィーナ!君ただ一人だ!死なせはしないぞ!俺と共に生きてもらう!」
精一杯の声で叫んだ。そうして、やけっぱちに、こなくそに、フルパワーで腕を引き上げた。信じられない程の力が振り絞られ、セラフィーナの身体は一気に気球の中へと戻されていく。
「はぁ……はぁ……」
「パトリツィオ…様…」
「俺にはこれで精一杯だ……だが…十分だろう?」
空気が無くなり、急降下を始める気球。せっかく助かった命も、ここで無駄にしてしまうのか。いいや、そんな事は無いさ。パトリツィオは満足そうだった。彼ならもう来ているはずだ。
────ガシャァァァン!
「…ったく!危なっかしいんだよこの野郎!」
現れたのは、空を飛ぶ純白の専属騎士。カゴそのものを力強く握り、急降下を力業であっという間に停止させる。
「来てくれたか…」
「アルヴェルトさん!」
そのまま、カゴを抱えてゆっくりと地上へ降りていく。やれやれ、と言いたげだが、まずは二人の安全確保が最優先である。二人はなんとか無事に地上に下ろされ、一命を取り留めた。
…
「ちょっとアンタ!穴空いてる気球に人乗せるとかチョーありえないんですケド!」
「ごめんなさい…暇で点検もサボってて…」
「サイッテー!パパに言いつけてアンタ首にしてやるから!覚悟しときなさい!」
「はい…」
という訳で、下ではフランカが問題の気球管理人をビシバシ叱っていた。三人もどっと疲れたので、一旦その場で休みながら話をすることになった。
「んで、二人とも怪我は無いんだな?」
「ああ。セラフィーナは…?」
「大丈夫です。…お二人とも、助けて下さってありがとうございます」
「気にすんなって。俺の仕事だしな」
ちょっと得意気なので、セラフィーナは彼の頭を軽く撫でてあげた。照れ照れ照れくさそうにしていたが、セラフィーナの顔がなんだか赤い事に気付いた。
「…あの、パトリツィオ様。私が手を離してとお願いした時の言葉ですが……」
「あ、あれは自分の命を大切にしろという意味であって、べ、べ、別にやましい気持ちがあった訳では無いぞ!///」
嘘が下手である。顔を真っ赤にしてそっぽを向く。そんな素振りが、嘘の得意なセラフィーナには余計に真っ直ぐに突き刺さる。
「…ありがとうございます…パトリツィオ様…///」
「気にするな。(…共に生きて欲しいってのは、本当なんだがな……///)」
「(パトリツィオ様に共に生きようって言われちゃった……プロポーズなのかな…///)」
お互いに顔真っ赤にして心臓ドキドキ。なーんかいい感じなので、アルヴェルトは複雑な心境のまま二人の関係をじーっと見てないといけないのだった…
慌てて辺りを見回すが、特に危険なものは感じられない。かと言って、パトリツィオが自分を男だと気付きそうな素振りも無い。
ぷしゅー。
「ん?なんだ?この音…」
「空気の抜けるような音ですね…も、もしかして!?」
慌てて身を乗り出すと、長年使っていなかったものを急に動かしたからか、バルーンに虫食い穴のような小さな穴が広がっている。魔力によって温まった空気がそこから抜け出し、どんどん浮力を奪っているのだ。
「ああっ!?あ、穴が空いてます!」
「な、なんだと!という事は…」
このままだと、浮力が足りずに真っ逆さまに墜落である。ぞーっと二人が青ざめた次の瞬間、ガクンと機体が揺れてゆっくりと下降が始まる。
「うわわっ!」
「っ!セラフィーナっ!!」
セラフィーナの華奢な身体は、衝撃で機体の外に放り出される。パトリツィオが慌てて腕を掴み、宙ぶらりんで一命を取り留める。あまりの衝撃に気球を支える糸が千切れ、カゴまで斜めに倒れてしまう。
「あぐぅっ…!」
「無事か!セラフィーナ!」
「は、はいっ!」
ぎゅっと手を握り、必死に掴む。けたたましい音。鳴り響くサイレン。セラフィーナは理解した。この音は、男だとバレそうだと鳴るのでは無い。命の危機に晒された時に鳴るのだと。
「きゃあーっ!?ぱ、パトリツィオ様ー!?」
「嘘だろ!?飛ぶしかねえ!」
主のピンチ。即決で変装服を脱ぎ捨てると、即座に空へとジャンプする。竜の力を身体から呼び起こし、背中に羽根を生やして一気に空へと飛び上がる。竜翼。猛スピードで風を切って進むが、パトリツィオ達のいる場所はまだ遥か遠い。
「耐えてろよ!パトリツィオ!」
「ううっ…くぅ…!」
「セラフィーナ…!」
何とか取りとめた命。だが、それでも人間の力には限界がある。ゆっくり、ゆっくりと腕の力が弱まっていく。駄目だとわかっていても、身体が耐えられない。
「…ごめんなさい…パトリツィオ様…こんな事になるなんて…」
「謝るのは…俺の方だ。気球の手入れくらい…しっかりさせておくべきだった…!」
一気に引き上げようと力を込めるが、それでも片腕だけでは叶わない。耐えるしかない。パトリツィオは自分の無力を呪った。こんな時、魔法の一つでも使えたら。空を飛ぶ力でも持っていたら。大好きな君を助ける事が出来るのに。
「パトリツィオ様。このままだと…貴方まで死んでしまいます。どうか、手を離して下さい」
「……っ!そんな事…出来るわけ無いだろ!」
「聖女はまた探せば見つかります。貴方は、国王は貴方ただ一人です。私は良いですから…どうか…」
「ええい!黙れっ!俺にとって聖女はセラフィーナ!君ただ一人だ!死なせはしないぞ!俺と共に生きてもらう!」
精一杯の声で叫んだ。そうして、やけっぱちに、こなくそに、フルパワーで腕を引き上げた。信じられない程の力が振り絞られ、セラフィーナの身体は一気に気球の中へと戻されていく。
「はぁ……はぁ……」
「パトリツィオ…様…」
「俺にはこれで精一杯だ……だが…十分だろう?」
空気が無くなり、急降下を始める気球。せっかく助かった命も、ここで無駄にしてしまうのか。いいや、そんな事は無いさ。パトリツィオは満足そうだった。彼ならもう来ているはずだ。
────ガシャァァァン!
「…ったく!危なっかしいんだよこの野郎!」
現れたのは、空を飛ぶ純白の専属騎士。カゴそのものを力強く握り、急降下を力業であっという間に停止させる。
「来てくれたか…」
「アルヴェルトさん!」
そのまま、カゴを抱えてゆっくりと地上へ降りていく。やれやれ、と言いたげだが、まずは二人の安全確保が最優先である。二人はなんとか無事に地上に下ろされ、一命を取り留めた。
…
「ちょっとアンタ!穴空いてる気球に人乗せるとかチョーありえないんですケド!」
「ごめんなさい…暇で点検もサボってて…」
「サイッテー!パパに言いつけてアンタ首にしてやるから!覚悟しときなさい!」
「はい…」
という訳で、下ではフランカが問題の気球管理人をビシバシ叱っていた。三人もどっと疲れたので、一旦その場で休みながら話をすることになった。
「んで、二人とも怪我は無いんだな?」
「ああ。セラフィーナは…?」
「大丈夫です。…お二人とも、助けて下さってありがとうございます」
「気にすんなって。俺の仕事だしな」
ちょっと得意気なので、セラフィーナは彼の頭を軽く撫でてあげた。照れ照れ照れくさそうにしていたが、セラフィーナの顔がなんだか赤い事に気付いた。
「…あの、パトリツィオ様。私が手を離してとお願いした時の言葉ですが……」
「あ、あれは自分の命を大切にしろという意味であって、べ、べ、別にやましい気持ちがあった訳では無いぞ!///」
嘘が下手である。顔を真っ赤にしてそっぽを向く。そんな素振りが、嘘の得意なセラフィーナには余計に真っ直ぐに突き刺さる。
「…ありがとうございます…パトリツィオ様…///」
「気にするな。(…共に生きて欲しいってのは、本当なんだがな……///)」
「(パトリツィオ様に共に生きようって言われちゃった……プロポーズなのかな…///)」
お互いに顔真っ赤にして心臓ドキドキ。なーんかいい感じなので、アルヴェルトは複雑な心境のまま二人の関係をじーっと見てないといけないのだった…
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