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16話 晩餐会
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湯治を終えたセラフィーナは、ルーチェに用意して貰った服にその身を包み込んで、粛々と屋敷内の廊下を歩いていた。
「ね、ねえルーチェ…この服、大丈夫かな…?」
「大丈夫よ。普通にしてれば可愛いし、まず疑われないわ」
胸元を軽く広げた、貴族の配うドレスのような服装。ロングスカートがふわりと下腹部を覆っているので、余程の事が無い限り、まず男だと疑われる事は無いだろう。
「そ、そっか…ありがとう。えっと、この後は夕御飯だよね?」
「そうね。従者の皆と顔合わせを兼ねた晩餐会。それが終わったら、さっき案内しそびれた貴女の部屋に案内するわ」
晩餐会。従者の面々と、顔を合わせるのだ。前世のセラフィーナは大して皆と仲良くする事が出来なかったのだが、今世はどうなるのやら。ドギマギしながら、ルーチェと一緒に大きな扉を開けて夕食の場へと慎ましやかに足を運んだ。
「ようこそ、聖女様。お待ちしておりました!」
「わぁ、本当に美人さん…!」
セラフィーナの予想と反して大歓迎の従者達。彼等の歓迎を受けながら、聖女は豪華な食事が並ぶテーブルの横をしずしずと歩いていく。
「さあセラフィーナさん、席にお座り下さい」
「あ、は、はい!ありがとうございます…!」
彼はルーチェと取り決めた約束が一つある。人前に出る時は、お互いにセラフィーナさん、ルーチェさんと呼び合う事。本当の自分を出して良いのは、二人きりの時と、部屋に戻った時だけ。これだけは徹底しないと、何処かで必ずボロが出ると踏んだルーチェの提案である。
「と、とても豪勢なお食事ですね、ルーチェ…さん」
「ええ。聖女様はこの国を守護する大切な御方。セラフィーナさんの為に、シェフが世界中から取り寄せた最高級品を選りすぐって調理していますので」
「そうでしたか、それは楽しみです(めちゃくちゃ美味しそう…)」
「ええ、ご満足頂けるかと(わかる)」
とはいえ、貧困層だった二人の目にはやっぱり同じように輝く宝石の様に見えているのは内緒である。二人は正反対の様に見えて、どことなく同じなのである。
「ええと…皆様の温かな歓迎、心より感謝申し上げます。聖女として精一杯務めを果たしますので、皆様、御助力お願い致します」
「ご立派ですねぇ…」
「前の聖女様を思い出すわ…」
皆の前でぺこりと頭を下げて、それから従者達に温かな拍手を受ける。ぎこちない動作でロボットのごとくギギっと席に座り直すと、目の前の料理を見て溢れ出そうなよだれを押さえ込みながら、宗教的な儀式である、食事の前のお祈りを行う事にする。
「天に召します我らが神よ、私と私達に豊かな恵みを与えて下さる事に感謝し、私の血肉となる全ての命に、安らぎを与えるこの言葉を贈ります」
『天命感謝』
指先で十時を切り、聖属性の魔力を仄かに辺りに散らすセラフィーナ。その神々しさに、従者一同も思わず視線をそちらの方に向ける。が、肝心のセラフィーナは我慢しきれなかったのか、お祈りが済むなりとっとと食事にありついてしまっていた。その様子を見た従者達は、一瞬ポカーンとしたが、その顔はすぐ笑いに変化していく。
「あっはっは、此度の聖女様は食欲旺盛ですこと!」
「儀式よりも飯か!これはコックも忙しくなるな!」
「え…え……?」
ハムハムとお肉を頬張りながら、周りの皆の反応に唖然とするセラフィーナ。あちゃー、と言った具合に額に手を当てるルーチェの反応を見て、自分がとてつもなく恥ずかしいことをしていた事に気付いた。
「あ、あうぅ……///」
ぼふんと煙を上げて、顔を真っ赤にするセラフィーナなのだった…
「ね、ねえルーチェ…この服、大丈夫かな…?」
「大丈夫よ。普通にしてれば可愛いし、まず疑われないわ」
胸元を軽く広げた、貴族の配うドレスのような服装。ロングスカートがふわりと下腹部を覆っているので、余程の事が無い限り、まず男だと疑われる事は無いだろう。
「そ、そっか…ありがとう。えっと、この後は夕御飯だよね?」
「そうね。従者の皆と顔合わせを兼ねた晩餐会。それが終わったら、さっき案内しそびれた貴女の部屋に案内するわ」
晩餐会。従者の面々と、顔を合わせるのだ。前世のセラフィーナは大して皆と仲良くする事が出来なかったのだが、今世はどうなるのやら。ドギマギしながら、ルーチェと一緒に大きな扉を開けて夕食の場へと慎ましやかに足を運んだ。
「ようこそ、聖女様。お待ちしておりました!」
「わぁ、本当に美人さん…!」
セラフィーナの予想と反して大歓迎の従者達。彼等の歓迎を受けながら、聖女は豪華な食事が並ぶテーブルの横をしずしずと歩いていく。
「さあセラフィーナさん、席にお座り下さい」
「あ、は、はい!ありがとうございます…!」
彼はルーチェと取り決めた約束が一つある。人前に出る時は、お互いにセラフィーナさん、ルーチェさんと呼び合う事。本当の自分を出して良いのは、二人きりの時と、部屋に戻った時だけ。これだけは徹底しないと、何処かで必ずボロが出ると踏んだルーチェの提案である。
「と、とても豪勢なお食事ですね、ルーチェ…さん」
「ええ。聖女様はこの国を守護する大切な御方。セラフィーナさんの為に、シェフが世界中から取り寄せた最高級品を選りすぐって調理していますので」
「そうでしたか、それは楽しみです(めちゃくちゃ美味しそう…)」
「ええ、ご満足頂けるかと(わかる)」
とはいえ、貧困層だった二人の目にはやっぱり同じように輝く宝石の様に見えているのは内緒である。二人は正反対の様に見えて、どことなく同じなのである。
「ええと…皆様の温かな歓迎、心より感謝申し上げます。聖女として精一杯務めを果たしますので、皆様、御助力お願い致します」
「ご立派ですねぇ…」
「前の聖女様を思い出すわ…」
皆の前でぺこりと頭を下げて、それから従者達に温かな拍手を受ける。ぎこちない動作でロボットのごとくギギっと席に座り直すと、目の前の料理を見て溢れ出そうなよだれを押さえ込みながら、宗教的な儀式である、食事の前のお祈りを行う事にする。
「天に召します我らが神よ、私と私達に豊かな恵みを与えて下さる事に感謝し、私の血肉となる全ての命に、安らぎを与えるこの言葉を贈ります」
『天命感謝』
指先で十時を切り、聖属性の魔力を仄かに辺りに散らすセラフィーナ。その神々しさに、従者一同も思わず視線をそちらの方に向ける。が、肝心のセラフィーナは我慢しきれなかったのか、お祈りが済むなりとっとと食事にありついてしまっていた。その様子を見た従者達は、一瞬ポカーンとしたが、その顔はすぐ笑いに変化していく。
「あっはっは、此度の聖女様は食欲旺盛ですこと!」
「儀式よりも飯か!これはコックも忙しくなるな!」
「え…え……?」
ハムハムとお肉を頬張りながら、周りの皆の反応に唖然とするセラフィーナ。あちゃー、と言った具合に額に手を当てるルーチェの反応を見て、自分がとてつもなく恥ずかしいことをしていた事に気付いた。
「あ、あうぅ……///」
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