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ステージ4
1 ようこそ星降グレイトフルキネマズ
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本日の一番乗りは春菜だった。
「ここは……あっ、グレキネか」
グレキネ。正式には「星降グレイトフルキネマズ」。
星降市初にして今も唯一のシネマコンプレックス――要するにクソデカ映画館――で、ガラス張りのロビーと夜間は虹色に光る螺旋階段が特徴の建物。
オープン当初のこの手の映画館にしては珍しく、星降市街地のど真ん中に位置している。
市内の他の映画館と上映する映画を棲み分けることにより共存していて、地域の活性化に一役買っている映画館なのだ。
かく言う春菜もしばしば来ている。
「折角だし今度、リアルでも行ってみよ。今映画何やってんだっけ……ん?」
突然春菜のスマホが震えた。
電源を付けてみると、そこに表示されたのは映画のチケット。オンラインで予約した時のそれだった。
しかし映画の内容等は何一つとして書かれていない。場所だけである。
「これは……1番スクリーンに行けばいい、ってこと? わざわざ番号指定ってことは他のスクリーンには他の人が呼ばれるんかな……!?」
次の瞬間、何やらサイバーチックな演出を纏いながら、ロビーにプレイヤーがもう二人出現する。
春菜は最初ちょっとビビったが、そういやうちスポーン演出見たことなかったなと納得し……
「んにゃ……おー、グレキネじゃん!」
「あっ、春菜ちゃん! ひっさびさー……何その顔」
光、鈴蘭の順に出現したプレイヤーの内、光を見て露骨に嫌そうな顔をした。
「……いや、鈴蘭先輩には特に何もないですけど」
「ははーん、つまり俺への熱視線なわけだ」
「べっ、別にそういうわけじゃ……いや熱視線とかではマジでねーわバーカ」
個人的な事情――春菜との間には多少の因縁があるのだが、それを光は本気で忘れてやがるらしい――もあって、春菜はそう吐き捨てて立ち去った。
「神成先輩……あなた春菜ちゃんとの間に何があったんです?」
「うーん……何かしらあったとしか思えないけど、でも心当たりはないんだよなぁ」
首を傾げる光。
彼らのスマホにもすぐに通知が届くのだが……まあそれはまた別のお話。
一階のロビーから螺旋階段を上ると、二階のテラスにたどり着く。
そこからシネマゲートをくぐり、1番から4番までのシアターに行くにはエスカレーターを上る。
映画館の中にエスカレーターというのは中々珍しいらしいが、これは市街地ど真ん中に建てたせいで敷地が狭いからだという……春菜は県外の映画館とか行った事ないのでよく分からないのだが。
四階まで進めば、シアターへの入り口はすぐ傍にある。
「ここか……」
1番シアター。春菜が招かれた場所。
扉を開くと中は薄暗く、なんとなく席は分かるという程度。
その中で、文字通り異彩を放つものがあった。
「あれは……スクリーン? 光ってる……あっ」
春菜はそれなりにインターネットに精通している方である。
こういう時にどうすればいいか、何となく分かった。昔のゲームのMADとかで。
「ふーん……なるほどね」
そう呟いて、念のためスマホにメッセージを送る。前のステージで透が七不思議の詳細を送ったのと同じ、プレイヤー全員が見ることのできるトークルームに。
「映画館のスクリーン、光ってるんで多分飛び込むヤツ、と……送信っ。じゃ、行きますか……」
露西さんとかなら一発で分かるんだろーなと思わないでもないが、と苦笑して――まあ本日透はお休みなのだが――春菜は助走をつけ、勢いよくそのスクリーンの中に飛び込んだ。
辺りを包む光が無くなり、春菜はそっと目を開く。
するとそこは映画館、座席の上だった。
「……えっ飛び込む意味あった?」
「あるに決まってんじゃーん、そーゆーコンセプトなんだからっ!」
声がすると同時に会場に明かりが灯る。スクリーンの前だけ妙な光の反射をしており、見えないバリアでもありそうな雰囲気を醸し出している。そして、その奥に人がいる。
そこにいたのはやけに明るい色の髪の少女。服が中々にド派手で、春菜はこのゲームの世界観はどうなってんだと言いたくなった。
というかうちと同じく私服勢か? とも思った。
「ビックリした……ってことはつまり、あんたが大罪七星の?」
「そーだけどさー、止めてよそのダッサイグループ名っ! あーしは鈴木碧、今世紀最強最カワのモデルなんでよろしくっ!」
そう言ってギャルピを決める碧。春菜は圧倒されている。
「……あんたいくつよ」
「急にそゆことゆーとかシツレーじゃなーい? まだ18ぞあーし」
「あっそう……」
同学年か一つ上だけど、こんな奴に敬語を使いたくないなと春菜は思った。
「……まあいいや。そんで鈴木さん、コンセプトって?」
「えー、堅ッ苦しいー! アオっちでいいよー?」
「そんなふざけた呼び方するくらいなら自死を選ぶようちは」
「嫌がり方半端なー! んじゃ本題入るねー、えっと……ハルっち!」
名前を知ってるのはまあ分かるとしてその馬鹿げたあだ名は何だ、と最初に光を見たときと同じくらいの露骨な嫌がり顔を見せる春菜を気にも留めず、碧はスクリーンの前に立ち、マイクを持った。
「このスクリーンのコンセプトはー……完成披露試写会でーっす!」
「……あー、映画館だけに?」
「もち! 監督脚本、あーしが手掛けた作品を見てもらうってわけっ!」
そう高らかに言って碧が指を鳴らすと、スクリーンに映像が映し出される。
それはグレキネのロビーの映像。光、鈴蘭の後にも何人かやってきており、それぞれスマホの通知に従ってスクリーンへと飛び込んでいるようだ。
「みんなそれぞれ違う場所に行ってるってことか……コレが関係してるわけね?」
「そ! ルール説明するとだねー、今からハルっちにはー、『誰が一番先にロビーにいるか』を予測してもらいまーす!」
「成程、それで試写会……」
スクリーンに飛び込むと、今の春菜のように別の空間――尤も、春菜の場合一ミリも変わり映えのない映画館なのだが――に入れるわけで。
その中で何かしらイベントが発生し、クリアするまで戻れないと……そういうわけだ。
……そして春菜側とて、この試写会が終わるまで碧に戦いを挑んだりは出来ないということらしい。
「細かいルールはー、映像として見られるのは誰か一人がイベントをクリアするまで! その時点からカウントを始めてー、一番最初にロビーにいた人がせーかいだよっ!」
「なるほど……ちなみに各スクリーンで何が起こるっていうの?」
「えっとね、今決まってる人らはねー……じゃんっ!」
碧の指パッチンでスクリーンの映像が切り替わる。無駄に凝った演出だなあと春菜は内心思ったが、流石に口には出さないでおいた。ボロクソ言ったら碧が可哀そうだし。
さて、映像の内容は以下のようになる。
2番シアター→『大怪獣ブルラ』 主演:神成光
3番シアター→『ミッション:スクランブル』 主演:夜霧鈴蘭
4番シアター→『ヤマタノジョーズ』 主演:音無美琴
5番シアター→『荒野の二人』 主演:朝倉零
6番シアター→『激カワ! 動物大全集』 主演:天照まどか
7番シアター→『粛清・くノ一秘術伝』 主演未定
8番シアター→『死霊の園』 主演未定
「なんか所々変なの混ざってない……?」
「変なのってなんだよー、人が必死こいて考えたってのにー!」
「原案あんたか……てっきり社長かと」
「あーしに決まってるでしょー!? ってかまさか人に『大罪七星・色欲の藍 “アスモデウス”インディラキ』とかゆー長いだけのダッサイ名前つけるような奴のネーミングだと思ってたのー!?」
「あー……あんまり言ってあげない方がいいと思うけど」
社長のネーミングセンスの欠落っぷりはプレイヤー間……というかボスキャラ含めキャスト陣全員の共通認識となっているらしい。流石に泣くんじゃねーのかあの人。
「しっかし、こんなかで予測しろって言われてもね……まあ光が生きて帰ってくることはないだろうからノー眼中でいいとして」
「うわっ、辛辣ー!」
「アイツに関しては擁護のしようも勝ち目もないでしょーよ……現実的なラインで言えば6番シアターかしら?」
テーマは動物が出てくる映画のようだ。ということは他の、例えば4番シアターのように明らかに物理法則を超越したサメとかが出てくるはずもなく、平和に終わるはずだから。
「……ま、残り二つの主演とやらが決まるまで分かんないけど」
「うーん、じゃ暫定ってことでいいかなー? 特別に三回まで変更可能にしたげるよっ!」
「はいはいそりゃどーも」
春菜はこの時、心の底からめんどくさいと思っていたのだが。
この映画館での出来事がまさか、己の過去のトラウマに大きく踏み込むことになるとは……想像もしていなかった。
「ここは……あっ、グレキネか」
グレキネ。正式には「星降グレイトフルキネマズ」。
星降市初にして今も唯一のシネマコンプレックス――要するにクソデカ映画館――で、ガラス張りのロビーと夜間は虹色に光る螺旋階段が特徴の建物。
オープン当初のこの手の映画館にしては珍しく、星降市街地のど真ん中に位置している。
市内の他の映画館と上映する映画を棲み分けることにより共存していて、地域の活性化に一役買っている映画館なのだ。
かく言う春菜もしばしば来ている。
「折角だし今度、リアルでも行ってみよ。今映画何やってんだっけ……ん?」
突然春菜のスマホが震えた。
電源を付けてみると、そこに表示されたのは映画のチケット。オンラインで予約した時のそれだった。
しかし映画の内容等は何一つとして書かれていない。場所だけである。
「これは……1番スクリーンに行けばいい、ってこと? わざわざ番号指定ってことは他のスクリーンには他の人が呼ばれるんかな……!?」
次の瞬間、何やらサイバーチックな演出を纏いながら、ロビーにプレイヤーがもう二人出現する。
春菜は最初ちょっとビビったが、そういやうちスポーン演出見たことなかったなと納得し……
「んにゃ……おー、グレキネじゃん!」
「あっ、春菜ちゃん! ひっさびさー……何その顔」
光、鈴蘭の順に出現したプレイヤーの内、光を見て露骨に嫌そうな顔をした。
「……いや、鈴蘭先輩には特に何もないですけど」
「ははーん、つまり俺への熱視線なわけだ」
「べっ、別にそういうわけじゃ……いや熱視線とかではマジでねーわバーカ」
個人的な事情――春菜との間には多少の因縁があるのだが、それを光は本気で忘れてやがるらしい――もあって、春菜はそう吐き捨てて立ち去った。
「神成先輩……あなた春菜ちゃんとの間に何があったんです?」
「うーん……何かしらあったとしか思えないけど、でも心当たりはないんだよなぁ」
首を傾げる光。
彼らのスマホにもすぐに通知が届くのだが……まあそれはまた別のお話。
一階のロビーから螺旋階段を上ると、二階のテラスにたどり着く。
そこからシネマゲートをくぐり、1番から4番までのシアターに行くにはエスカレーターを上る。
映画館の中にエスカレーターというのは中々珍しいらしいが、これは市街地ど真ん中に建てたせいで敷地が狭いからだという……春菜は県外の映画館とか行った事ないのでよく分からないのだが。
四階まで進めば、シアターへの入り口はすぐ傍にある。
「ここか……」
1番シアター。春菜が招かれた場所。
扉を開くと中は薄暗く、なんとなく席は分かるという程度。
その中で、文字通り異彩を放つものがあった。
「あれは……スクリーン? 光ってる……あっ」
春菜はそれなりにインターネットに精通している方である。
こういう時にどうすればいいか、何となく分かった。昔のゲームのMADとかで。
「ふーん……なるほどね」
そう呟いて、念のためスマホにメッセージを送る。前のステージで透が七不思議の詳細を送ったのと同じ、プレイヤー全員が見ることのできるトークルームに。
「映画館のスクリーン、光ってるんで多分飛び込むヤツ、と……送信っ。じゃ、行きますか……」
露西さんとかなら一発で分かるんだろーなと思わないでもないが、と苦笑して――まあ本日透はお休みなのだが――春菜は助走をつけ、勢いよくそのスクリーンの中に飛び込んだ。
辺りを包む光が無くなり、春菜はそっと目を開く。
するとそこは映画館、座席の上だった。
「……えっ飛び込む意味あった?」
「あるに決まってんじゃーん、そーゆーコンセプトなんだからっ!」
声がすると同時に会場に明かりが灯る。スクリーンの前だけ妙な光の反射をしており、見えないバリアでもありそうな雰囲気を醸し出している。そして、その奥に人がいる。
そこにいたのはやけに明るい色の髪の少女。服が中々にド派手で、春菜はこのゲームの世界観はどうなってんだと言いたくなった。
というかうちと同じく私服勢か? とも思った。
「ビックリした……ってことはつまり、あんたが大罪七星の?」
「そーだけどさー、止めてよそのダッサイグループ名っ! あーしは鈴木碧、今世紀最強最カワのモデルなんでよろしくっ!」
そう言ってギャルピを決める碧。春菜は圧倒されている。
「……あんたいくつよ」
「急にそゆことゆーとかシツレーじゃなーい? まだ18ぞあーし」
「あっそう……」
同学年か一つ上だけど、こんな奴に敬語を使いたくないなと春菜は思った。
「……まあいいや。そんで鈴木さん、コンセプトって?」
「えー、堅ッ苦しいー! アオっちでいいよー?」
「そんなふざけた呼び方するくらいなら自死を選ぶようちは」
「嫌がり方半端なー! んじゃ本題入るねー、えっと……ハルっち!」
名前を知ってるのはまあ分かるとしてその馬鹿げたあだ名は何だ、と最初に光を見たときと同じくらいの露骨な嫌がり顔を見せる春菜を気にも留めず、碧はスクリーンの前に立ち、マイクを持った。
「このスクリーンのコンセプトはー……完成披露試写会でーっす!」
「……あー、映画館だけに?」
「もち! 監督脚本、あーしが手掛けた作品を見てもらうってわけっ!」
そう高らかに言って碧が指を鳴らすと、スクリーンに映像が映し出される。
それはグレキネのロビーの映像。光、鈴蘭の後にも何人かやってきており、それぞれスマホの通知に従ってスクリーンへと飛び込んでいるようだ。
「みんなそれぞれ違う場所に行ってるってことか……コレが関係してるわけね?」
「そ! ルール説明するとだねー、今からハルっちにはー、『誰が一番先にロビーにいるか』を予測してもらいまーす!」
「成程、それで試写会……」
スクリーンに飛び込むと、今の春菜のように別の空間――尤も、春菜の場合一ミリも変わり映えのない映画館なのだが――に入れるわけで。
その中で何かしらイベントが発生し、クリアするまで戻れないと……そういうわけだ。
……そして春菜側とて、この試写会が終わるまで碧に戦いを挑んだりは出来ないということらしい。
「細かいルールはー、映像として見られるのは誰か一人がイベントをクリアするまで! その時点からカウントを始めてー、一番最初にロビーにいた人がせーかいだよっ!」
「なるほど……ちなみに各スクリーンで何が起こるっていうの?」
「えっとね、今決まってる人らはねー……じゃんっ!」
碧の指パッチンでスクリーンの映像が切り替わる。無駄に凝った演出だなあと春菜は内心思ったが、流石に口には出さないでおいた。ボロクソ言ったら碧が可哀そうだし。
さて、映像の内容は以下のようになる。
2番シアター→『大怪獣ブルラ』 主演:神成光
3番シアター→『ミッション:スクランブル』 主演:夜霧鈴蘭
4番シアター→『ヤマタノジョーズ』 主演:音無美琴
5番シアター→『荒野の二人』 主演:朝倉零
6番シアター→『激カワ! 動物大全集』 主演:天照まどか
7番シアター→『粛清・くノ一秘術伝』 主演未定
8番シアター→『死霊の園』 主演未定
「なんか所々変なの混ざってない……?」
「変なのってなんだよー、人が必死こいて考えたってのにー!」
「原案あんたか……てっきり社長かと」
「あーしに決まってるでしょー!? ってかまさか人に『大罪七星・色欲の藍 “アスモデウス”インディラキ』とかゆー長いだけのダッサイ名前つけるような奴のネーミングだと思ってたのー!?」
「あー……あんまり言ってあげない方がいいと思うけど」
社長のネーミングセンスの欠落っぷりはプレイヤー間……というかボスキャラ含めキャスト陣全員の共通認識となっているらしい。流石に泣くんじゃねーのかあの人。
「しっかし、こんなかで予測しろって言われてもね……まあ光が生きて帰ってくることはないだろうからノー眼中でいいとして」
「うわっ、辛辣ー!」
「アイツに関しては擁護のしようも勝ち目もないでしょーよ……現実的なラインで言えば6番シアターかしら?」
テーマは動物が出てくる映画のようだ。ということは他の、例えば4番シアターのように明らかに物理法則を超越したサメとかが出てくるはずもなく、平和に終わるはずだから。
「……ま、残り二つの主演とやらが決まるまで分かんないけど」
「うーん、じゃ暫定ってことでいいかなー? 特別に三回まで変更可能にしたげるよっ!」
「はいはいそりゃどーも」
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