上 下
35 / 49
ステージ4

1 ようこそ星降グレイトフルキネマズ

しおりを挟む
 本日の一番乗りは春菜だった。

「ここは……あっ、グレキネか」

 グレキネ。正式には「星降グレイトフルキネマズ」。
 星降市初にして今も唯一のシネマコンプレックス――要するにクソデカ映画館――で、ガラス張りのロビーと夜間は虹色に光る螺旋階段が特徴の建物。
 オープン当初のこの手の映画館にしては珍しく、星降市街地のど真ん中に位置している。
 市内の他の映画館と上映する映画を棲み分けることにより共存していて、地域の活性化に一役買っている映画館なのだ。
 かく言う春菜もしばしば来ている。

「折角だし今度、リアルでも行ってみよ。今映画何やってんだっけ……ん?」

 突然春菜のスマホが震えた。
 電源を付けてみると、そこに表示されたのは映画のチケット。オンラインで予約した時のそれだった。
 しかし映画の内容等は何一つとして書かれていない。場所だけである。

「これは……1番スクリーンに行けばいい、ってこと? わざわざ番号指定ってことは他のスクリーンには他の人が呼ばれるんかな……!?」

 次の瞬間、何やらサイバーチックな演出を纏いながら、ロビーにプレイヤーがもう二人出現する。
 春菜は最初ちょっとビビったが、そういやうちスポーン演出見たことなかったなと納得し……

「んにゃ……おー、グレキネじゃん!」
「あっ、春菜ちゃん! ひっさびさー……何その顔」

 光、鈴蘭の順に出現したプレイヤーの内、光を見て露骨に嫌そうな顔をした。

「……いや、鈴蘭先輩には特に何もないですけど」
「ははーん、つまり俺への熱視線なわけだ」
「べっ、別にそういうわけじゃ……いや熱視線とかではマジでねーわバーカ」

 個人的な事情――春菜との間には多少の因縁があるのだが、それを光は本気で忘れてやがるらしい――もあって、春菜はそう吐き捨てて立ち去った。

「神成先輩……あなた春菜ちゃんとの間に何があったんです?」
「うーん……何かしらあったとしか思えないけど、でも心当たりはないんだよなぁ」

 首を傾げる光。
 彼らのスマホにもすぐに通知が届くのだが……まあそれはまた別のお話。

 一階のロビーから螺旋階段を上ると、二階のテラスにたどり着く。
 そこからシネマゲートをくぐり、1番から4番までのシアターに行くにはエスカレーターを上る。
 映画館の中にエスカレーターというのは中々珍しいらしいが、これは市街地ど真ん中に建てたせいで敷地が狭いからだという……春菜は県外の映画館とか行った事ないのでよく分からないのだが。
 四階まで進めば、シアターへの入り口はすぐ傍にある。

「ここか……」

 1番シアター。春菜が招かれた場所。
 扉を開くと中は薄暗く、なんとなく席は分かるという程度。
 その中で、文字通り異彩を放つものがあった。

「あれは……スクリーン? 光ってる……あっ」

 春菜はそれなりにインターネットに精通している方である。
 こういう時にどうすればいいか、何となく分かった。昔のゲームのMADとかで。

「ふーん……なるほどね」

 そう呟いて、念のためスマホにメッセージを送る。前のステージで透が七不思議の詳細を送ったのと同じ、プレイヤー全員が見ることのできるトークルームに。

「映画館のスクリーン、光ってるんで多分飛び込むヤツ、と……送信っ。じゃ、行きますか……」

 露西さんとかなら一発で分かるんだろーなと思わないでもないが、と苦笑して――まあ本日透はお休みなのだが――春菜は助走をつけ、勢いよくそのスクリーンの中に飛び込んだ。

 辺りを包む光が無くなり、春菜はそっと目を開く。
 するとそこは映画館、座席の上だった。

「……えっ飛び込む意味あった?」
「あるに決まってんじゃーん、そーゆーコンセプトなんだからっ!」

 声がすると同時に会場に明かりが灯る。スクリーンの前だけ妙な光の反射をしており、見えないバリアでもありそうな雰囲気を醸し出している。そして、その奥に人がいる。
 そこにいたのはやけに明るい色の髪の少女。服が中々にド派手で、春菜はこのゲームの世界観はどうなってんだと言いたくなった。
 というかうちと同じく私服勢か? とも思った。

「ビックリした……ってことはつまり、あんたが大罪七星の?」
「そーだけどさー、止めてよそのダッサイグループ名っ! あーしは鈴木碧スズキアオイ、今世紀最強最カワのモデルなんでよろしくっ!」

 そう言ってギャルピを決める碧。春菜は圧倒されている。

「……あんたいくつよ」
「急にそゆことゆーとかシツレーじゃなーい? まだ18ぞあーし」
「あっそう……」

 同学年か一つ上だけど、こんな奴に敬語を使いたくないなと春菜は思った。

「……まあいいや。そんで鈴木さん、コンセプトって?」
「えー、堅ッ苦しいー! アオっちでいいよー?」
「そんなふざけた呼び方するくらいなら自死を選ぶようちは」
「嫌がり方半端なー! んじゃ本題入るねー、えっと……ハルっち!」

 名前を知ってるのはまあ分かるとしてその馬鹿げたあだ名は何だ、と最初に光を見たときと同じくらいの露骨な嫌がり顔を見せる春菜を気にも留めず、碧はスクリーンの前に立ち、マイクを持った。

「このスクリーンのコンセプトはー……完成披露試写会でーっす!」
「……あー、映画館だけに?」
「もち! 監督脚本、あーしが手掛けた作品を見てもらうってわけっ!」

 そう高らかに言って碧が指を鳴らすと、スクリーンに映像が映し出される。
 それはグレキネのロビーの映像。光、鈴蘭の後にも何人かやってきており、それぞれスマホの通知に従ってスクリーンへと飛び込んでいるようだ。

「みんなそれぞれ違う場所に行ってるってことか……コレが関係してるわけね?」
「そ! ルール説明するとだねー、今からハルっちにはー、『誰が一番先にロビーにいるか』を予測してもらいまーす!」
「成程、それで試写会……」

 スクリーンに飛び込むと、今の春菜のように別の空間――尤も、春菜の場合一ミリも変わり映えのない映画館なのだが――に入れるわけで。
 その中で何かしらイベントが発生し、クリアするまで戻れないと……そういうわけだ。
 ……そして春菜側とて、この試写会が終わるまで碧に戦いを挑んだりは出来ないということらしい。

「細かいルールはー、映像として見られるのは誰か一人がイベントをクリアするまで! その時点からカウントを始めてー、一番最初にロビーにいた人がせーかいだよっ!」
「なるほど……ちなみに各スクリーンで何が起こるっていうの?」
「えっとね、今決まってる人らはねー……じゃんっ!」

 碧の指パッチンでスクリーンの映像が切り替わる。無駄に凝った演出だなあと春菜は内心思ったが、流石に口には出さないでおいた。ボロクソ言ったら碧が可哀そうだし。

 さて、映像の内容は以下のようになる。
 2番シアター→『大怪獣ブルラ』 主演:神成光
 3番シアター→『ミッション:スクランブル』 主演:夜霧鈴蘭
 4番シアター→『ヤマタノジョーズ』 主演:音無美琴
 5番シアター→『荒野の二人』 主演:朝倉零
 6番シアター→『激カワ! 動物大全集』 主演:天照まどか
 7番シアター→『粛清・くノ一秘術伝』 主演未定
 8番シアター→『死霊の園』 主演未定

「なんか所々変なの混ざってない……?」
「変なのってなんだよー、人が必死こいて考えたってのにー!」
「原案あんたか……てっきり社長かと」
「あーしに決まってるでしょー!? ってかまさか人に『大罪七星・色欲の藍 “アスモデウス”インディラキ』とかゆー長いだけのダッサイ名前つけるような奴のネーミングだと思ってたのー!?」
「あー……あんまり言ってあげない方がいいと思うけど」

 社長のネーミングセンスの欠落っぷりはプレイヤー間……というかボスキャラ含めキャスト陣全員の共通認識となっているらしい。流石に泣くんじゃねーのかあの人。

「しっかし、こんなかで予測しろって言われてもね……まあ光が生きて帰ってくることはないだろうからノー眼中でいいとして」
「うわっ、辛辣ー!」
「アイツに関しては擁護のしようも勝ち目もないでしょーよ……現実的なラインで言えば6番シアターかしら?」

 テーマは動物が出てくる映画のようだ。ということは他の、例えば4番シアターのように明らかに物理法則を超越したサメとかが出てくるはずもなく、平和に終わるはずだから。

「……ま、残り二つの主演とやらが決まるまで分かんないけど」
「うーん、じゃ暫定ってことでいいかなー? 特別に三回まで変更可能にしたげるよっ!」
「はいはいそりゃどーも」

 春菜はこの時、心の底からめんどくさいと思っていたのだが。
 この映画館での出来事がまさか、己の過去のトラウマに大きく踏み込むことになるとは……想像もしていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ
SF
一人暮らしの女子高生、立花明輝(たちばなあきら)は道に迷っていた女性を助けた後日、自宅に謎の荷物が届く。開けてみると、中身は新型の高級VRドライブとプレイヤーがモンスターになれると言う話題の最新ゲーム『Creaturess Union』だった。 早速ログインした明輝だったが、何も知らないまま唯一選んではいけないハズレキャラに手を出してしまう。 リセットができないので、落ち込むところ明輝は持ち前の切り替えの速さと固有スキル【キメラハント】で、倒した敵モンスターから次々能力を奪っていって……。 ハズレキャラでも欲しい能力は奪っちゃえ! 少し個性の強い仲間と共に、let'sキメラハント生活! ※こちらの作品は、小説家になろうやカクヨムでも投稿しております。 個性が強すぎる仲間のせいで、かなり効率厨になる時があります。そういう友達が劇中に登場するので、ゲーム的な展開からかけ離れる時があります。

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

タイムワープ艦隊2024

山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。 この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!

オンライン・メモリーズ ~VRMMOの世界に閉じ込められた。内気な小学生の女の子が頑張るダークファンタジー~

北条氏成
SF
 黒髪ロングに紫色の瞳で個性もなく自己主張も少なく、本来ならば物語で取り上げられることもないモブキャラ程度の存在感しかない女の子。  登校時の出来事に教室を思わず飛び出した内気な小学4年生『夜空 星』はズル休みをしたその日に、街で不思議な男性からゲームのハードであるブレスレットを渡され、世界的に人気のVRMMOゲーム【FREEDOM】を始めることになる。  しかし、ゲーム開始したその日に謎の組織『シルバーウルフ』の陰謀によって、星はゲームの世界に閉じ込められてしまう。 凄腕のプレイヤー達に囲まれ、日々自分の力の無さに悶々としていた星が湖で伝説の聖剣『エクスカリバー』を手にしたことで、彼女を取り巻く状況が目まぐるしく変わっていく……。 ※感想など書いて頂ければ、モチベーションに繋がります!※ 表紙の画像はAIによって作りました。なので少しおかしい部分もあると思います。一応、主人公の女の子のイメージ像です!

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

私たちだけ24時間オンライン生産生活

滝川 海老郎
SF
VR技術が一般化される直前の世界。予備校生だった女子の私は、友人2人と、軽い気持ちで応募した医療実験の2か月間24時間連続ダイブの被験者に当選していた。それは世界初のVRMMORPGのオープンベータ開始に合わせて行われ、ゲーム内で過ごすことだった。一般ユーザーは1日8時間制限があるため、睡眠時間を除けば私たちは2倍以上プレイできる。運動があまり得意でない私は戦闘もしつつ生産中心で生活する予定だ。

ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。 苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。 ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

処理中です...