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ステージ3

幕間2 中三男子、厨二女子

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 エトワール星降駅前、夕方4時頃。ブレザー姿の人影が、二つ並んで立っている。
 片方は襟足が長めな男子、もう片方は明るい色の髪をボブカットにした眼鏡女子。
 スマホ片手にビルへ入ろうとする男子を、女子の方が引き留めている。

「ねっ、ねえ零くん、ホントに行くの? 止めといた方が……」
「あなたもこないだ会ったでしょう? 悪い人たちじゃないですから大丈夫ですってぇ」
「だっ、だとしてもだよ! 向こうが気付かなかったら気まずい事になりそうじゃない!」
「少なくとも私は大丈夫だと思いますけどぉ?」
「私が嫌だっつってんだよ!!」

 二人がやいのやいのと騒いでいる中、人影がもう一つ近づいてきた。

「あのー……ドアの前で何をしてるんです?」
「ん、その声はひょっとしてぇ……透さん?」

 人影の主に、零は目ざとく気付く。

「そのうさ……独特な雰囲気、君ひょっとして零くん?」
「そうですけど今絶対うさんくさいって言いかけましたよねぇ」
「実際そうじゃん……ところで、隣のその子は?」
「ん? あー、彼女はですねぇ」

 眼鏡女子の方は挙動が不審になっている。
 何か事情があるのだろうか……気になった透は、二人を部室に案内することにした。

 結果はというと。

「……とするとこの子が、あのマドちゃんの中身!?」
「ええ! 私のクラスメイトにしてエレスクプレイヤーが一人、天照アマテルまどかちゃんとはまさしく彼女の事です!」
「へぇ……ってことはこの子が、あの滅茶苦茶キャラを作りこんでたマドちゃんなのかい!?」
「ええ、『光の神官』とかいう厨二感満載な二つ名をドヤ顔で名乗ったあのマドちゃんなのです!」
「もういっそ殺せぇ!!!!!!!!!!!」

 マド……改め、まどかは顔を真っ赤にして俯いている。

「ごめんごめん。なんか面白くてつい」
「何が『面白くて』ですか……次やったらアレですよ! 奥歯を、なんかこう、グチャってしてやるんだから!」
「ふわふわな割に脅迫が怖すぎるよマドちゃん」

 ゲーム内で隠してる本名をうっかり呼んだらまずいので、透はマドちゃん呼びで通すことにした。元々のあだ名っぽいし。

「うぅ……なんなんですか、そんなにおかしいですか私の趣味は」
「僕としては別に……気にしてるってことは君はそう思ってるんだろうけど」
「やめてくださいそうやって正論で急所付いてくるの! ……誰だってこういう時期はあるはずでしょう? あなたにだって……」
「ゴメンて」

 まどかはすっかりご機嫌斜めである。流石にこれ以上からかうのは止めておこう、透はそう思った。やり過ぎて泣かせてしまったら、さらにそれを知り合い――主にサークルメンバー――に見られたら絶対大変なことになる。

「やー、相も変わらずいい顔しますねぇ」

 一方の零はごらんの有様である。仲いい人の前だとデリカシーってもんが雲散霧消するタイプの少年なのだなあと透は思った。ゲームの中でも二人じゃれ合ってたし。

「ざっけんな朝倉ァ! おま……お前にだけは言われたくないんですけどお! 常日頃言っておりますがあ!」
「なぁんで私も同類みたいな事言ってくれちゃってんですぅ? そんな痛……不思議な妄想なんてねぇ、私はしたこともなければ披露したこともないですよぉ?」
「よくもまあ淀みなくそんなことが言えるよね、たまーに未来予知キャラみたいな事言ってる癖に!」
「アレは私の勘が鋭いってだけですよぉ?」
「勘ってだけでどーしてあんなに自慢げに振舞えるんかしら、疑問を禁じ得ないよ私は!」

 中学生のノリってこんなのなの? 零とまどかの痴話喧嘩を眺めながら、透は少々困惑していた。
 ……しかしそれと同時に、気になる点も一つ出てきた。

(未来予知の域に達する勘……そんなもん、絶対宿リ星だろ! 社長さんが言ってたこともある、この人たちにもカードを引いてもらうとするか……)

 そういえば、昨日潤ちゃんにもカードを引いてもらったんだよな。透は思い返す。
 潤のカードは『No.10 君の事以外は何も考えられない』だった。なるほど確かに認識阻害能力だ、潤の事以外何も考えられなくなるわけだから。
 ちなみに興味津々な表情で見ていた文花にも引かせたところ、『No.130 Worlds end』だった。透的には好きな曲だが、まあ今回はどうでもいい。いつか能力でトラブってたら相談に乗ってあげよう。

「そうだ君たち、ちょっとい」
「それこそホラ、露西さんだってあるでしょう!? 思春期に私みたくなった経験は!!」
「あっ話まだ続いてたの?」

 凄まじい勢いで出鼻をくじかれ、透は困惑する。
 どうやら彼も話に巻き込まれようとしているらしい。

「え、えらくまた唐突だねマドちゃん」
「いいでしょ別に。好奇心旺盛なんですよ私は」
「好奇心てあんた……僕みたいなしょぼくれた大学生の黒歴史なんぞ、聞いたところでどうするってのさ。ねぇ?」

 意外にも過度のストレスで豹変するタイプだったまどかならともかく、零は流石に嫌がるだろうなあと、一縷の望みをかける透だったが、

「えぇ、滅茶苦茶面白そうじゃないですかぁ! 透さんの面白い話すっごい気になりますぅ!」
「あぁそうだコイツ煽り散らす系の中三だったなクソが!」

 零はそういう類の男であった。

「さぁ露西さん返事プリーズ!」
「教えてくださいよぉ、あなたのカスみたいな思い出をぉ!」
「何この子たちめんどくさっ!」

 カスみたいな期待の眼差しに、透はタジタジである。
 流石に答えてあげないといけなそうなので、仕方なく透は過去に思いを巡らせる……が。

 不自然極まりないことに、透には特にこれといって自覚はなかったのだが……中学時代の事、何一つとして思い出せなかったのだ。
 何故だろう……少なくとも、そのまま言ったら二人に心配される、それは面倒だ。透は多少言い訳を考える。

「……アレだね、多分全部が黒歴史」
「なんて……なんて悲しい青春なんですか!」

 まどかの目が潤んでいる。聞いてきた彼女にそんな目をする資格はないだろと透は思った。
 ……こんなことをしている場合ではない。

「……ところでだ! 君たち、ちょっとカードを1枚引いてほしいんだけど」
「話題転換雑過ぎやしません?」
「確かに零くんの主張には全面的に賛成だけどね、それをこれから僕はしようとだね……」
「宿題やれって親に言われてやる気なくす子供じゃないんですから」

 まどかのツッコミに透は苦い顔をして、仕方ないのである程度宿リ星について話してあげた。
 そして店の奥から、いつものカードの束を取り出した。

「じゃ、とりあえずこいつを一枚ずつお願いするよ」
「こんなの引くだけでホントに分かるんですかぁ? その何とか星とやら……」

 ぶつくさ呟く零が引いたのは、『No.192 過去と未来と交信する男』だ。

「……なーんか普段の零くんって感じのカードだね」
「マドちゃん……? 流石に私そんなヤバい奴じゃないと思うんですけどもぉ」

 やっぱり零くんの能力は予知系なんだろうか……?
 二人の会話を聞き流しながら、透はなんとなくそんなことを考えていた。
 一方まどかが引いたのは『No.97 Drawing』だった……が、能力の片鱗っぽいエピソードがロクになかったので反応とかは割愛。

 数分後。
 部室でしばらく駄弁っていた二人だが、そろそろ帰って勉強しないと、とまどかが言い出したため――零は嫌そうな顔をしていたが――二人は部室を後にした。
 そして透だけが残った。

「中三って言えば受験生だもんね、ちゃんと勉強頑張んなきゃな時期だ……受験生、ねぇ」

 はて、自分はどうだったろう。透の脳裏に、そんなことが浮かんだ。
 が。

「……ダメだ、やっぱり何も思い出せない……何で自覚してなかったんだ、僕は……」

 今は6月。だんだん夕日が長くなってきた。
 南向きの部室の窓から、夕焼けは何もない部屋を、そして透を照らし出していた。

「……ま、昔の事なんだ。記憶がないことの証明なんざ、本人にできるはずもない。悩んでたって仕方がない」

 悩んでたって、というか。
 考えることがそもそも、今の透にとってはないのだが。

「……ん? DM……りゅみさん? どっかで……あー、柳海くんか」

 透の思考を無理矢理止めたのは、柳海からのメールだった。とはいえ、こちらには透も身に覚えがあった。
 メールの内容はこんな感じだ。

『ボス二人と連絡が取れました。
 明日そのビルに向かうように伝えたんで来るはずです』
「……そうだね、今はこっちを考えないと」

 大罪七星……要するに各ステージのボス。
 今のところ、それぞれが専用の武器と、二つの特殊能力を持つ。
 そして……特殊能力の片方を、自覚していない。

「だとすると……宿リ星である可能性が高いもんね」

 というわけで透は先日、恐らくは宿リ星が発現している炎里――及び付き添いの柳海――に、ステージ1及び2のボスの元へ向かってもらっていたのだ。

「現に潤ちゃんも、いかにもゲーム内で出てきた能力っぽいカードを引いてるんだ……ふふ、明日が楽しみだな」

 日は沈み始めている。
 もう今日は誰も来ないと判断し、透は部室を後にした。
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