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ステージ3

4 七不思議#2および#5、放送室の幽霊と理科室の地下室

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 放送室。
 昇降口から入って左に曲がり、少し進んで左側のドアを開くと入れる。
 内装としてはマイクやCDプレイヤーなど放送用の機材がたくさんと、映像資料とみられる多数のDVD――中にはVHSも混じっている。物持ちがいいのだろう――が入った棚。そして、

「あの奥にある部屋は、多分撮影用ね」

 放送室の中にもう一つ付いていた扉を見ながら、美琴は呟く。
 現在放送室の中にいるのは、美琴と我夢。さっきまで一緒にいた咲夜は何処へ行ったのかと言うと、

「みんなで一緒に行く必要は無いでしょう……ふぁあ。私理科室の方行ってるわ」

 とのこと。

「しっかし俺、マジで何も聞いてないんですけど。七不思議をテーマにするとか……確かに舞台にゃあってますが」
「……残念ながらソレはあたしもよ。何一つとして聞いてないわ」

 美琴は少々不満そうに口を尖らせる。

「はぁ!? 一従業員、しかも新人な俺ならまだしもっ、美琴さんが聞いてないって……」
「そうよ! 何でよ!? アレかなぁ、あたしら完全にプレイヤーに回されてるのかなぁ!?」
「うーん、まあ多分そうでしょうね」

 ぶーたら文句垂れてないでとっとと探しましょうぜと、我夢は美琴を促す。

「そんで例の幽霊って、ホントにこの部屋に出るんです? あのメールに何か書いてありましたっけ、詳細」
「そうねー、ちょっと聞いてみるわ」

 そう言うと美琴はスマホをぽちぽち。透にメールを送ったらしい。

「まあそんなすぐに返ってくるとは思えないし……スタジオの方、行ってみる?」
「ですねー。何かアイテムとかは入ってるかもですし」

 ドアを開け、電気をつけると……中はちょっと広めの部屋だった。
 撮影用のスペース、割と本格的な撮影機材、明るさ調節のための暗幕――尤も、使い過ぎによるものかかなりボロボロになっている。光の入り方がお化け屋敷のソレだ――、そしてこの部屋に全く似合わないRPGみの溢れる宝箱。

「宝箱の異彩っぷりに目をつぶれば、至って普通の部屋ですね」
「箱は多分アイテム入ってるやつね。そういう話あった気がするし」

 折角だしもらっちゃいましょ、と美琴は宝箱に駆け寄り、開いた。
 すると、

「ピィィィィ!!」
「うわあ何事ぉ!?」

 宝箱の蓋部分が二つに別れ、翼になって空へと舞い上がる。顔が浮かび上がって、まるでフクロウのような姿だ。
 美琴は驚いて腰を抜かした。

「あれは……そういや社長言ってました! 『宝箱作るんなら、ミミックは入れるべきですよねー』って!」
「ミミック……あー、宝箱に化けてる。でもアレをミミックと言い張るのはどうかと思うわ」
「アクションゲームとして、その場で噛みついてくるよりはこうして飛んだ方が良心的って判断ですかね? しかしあれは……ミミックでふくろう……みみっくろう!」
「妙に可愛い名前付けてんじゃないわよ! とりあえずアイツは倒さないと!」

 そういう美琴はブーメランを、続いて我夢は斧を取り出す。

「空飛んでるやつ相手じゃ土属性は不利でしょ? ここはあたしがっ! 『リモコンブーメラン』ッ!!」

 何やら叫んだ我夢に困惑しながらも、美琴はブーメランを投げる。
 リモコンブーメラン。投げたブーメランを、自由自在に操る技。宝箱、もといみみっくろうが飛び回る中、美琴は奴を追うようにブーメランを動かす。が。

「……ダメねー。流石にあのスピードじゃ追いつけないわ」
「ていうか狭い部屋でそれ振り回すなよ! さっきからちょくちょく俺に当たって痛いんだよ!」
「あらま。ごめんなさいねー」

 そう。スタジオはあくまでもスタジオでしかないのでかなり狭いのだ。狭い場所じゃ飛び道具ぶん回すのは危険が過ぎる。

「ったく、一旦ブーメランしまってください! 今度は俺が……『グレイトフルスイング』ッ!!」

 範囲が広い攻撃で追い詰めていけばいつかは狩れる! という寸法で、我夢は斧をぶん回している。
 目論見通りというかなんというか、逃場をなくしたみみっくろうは特に反撃に出られるでもなく撃破された。

「やったー! ドロップアイテムは……エレメントジェムが、灰色のと橙色のがあるわね。それと宝箱」
「ちょうど俺らの属性ですね、もらっときましょう。んで……ドロップと別に宝箱?」
「元の宝箱に戻ったんじゃない? 開けてみましょ」

 何がでてくるかなーと、勢いよく宝箱を開ける美琴。

「……中身、ナニコレ? 人の……髪?」
「……コレひょっとして、七不思議のアレなのでh



「ふぁあ……あ、通知ね。美琴と我夢がログアウト……? なんて?」

 理科室。空っぽの水槽――動物までは再現できなかったらしい――を眺めていた咲夜は、メールを見て首を傾げる。ゲームが始まってまだ数分も経っていないのだ、その困惑は無理もない。

「放送室で何かあったのかしら……ふぁあ。とりあえずあそこには近寄らないでおきましょ」

 早々に2人について考えるのをやめた咲夜は、辺りを見回す。
 理科室の中には、地下室に続いていそうな扉はない。扉と呼べるものは、教室前後の北側にある廊下とつながるもの、後方南側についている中庭につながるもの――理科室は1階にあるのだ――だけである。

「地下室……そもそも都市伝説的なものだからまず無いと見るのが現実的だけど」

 呟きながら咲夜は、さっき見た校内図を思い出す。
 昇降口に入って右に曲がり、中央廊下を少し進むと北校舎で、そこで突き当りを左折すると理科室がすぐそこにある。
 この突き当り、右折すると……

「……で、着いたのがここ……理科準備室なわけですけれど」

 内装は如何にも理科準備室といった様子。教科書とか薬品とか実験器具とかが棚に入っている。
 そして、床の方を見てみると……

「ふぁあ……ん、見るからに入れるタイプの床板あるじゃない」

 欠伸をしながら、咲夜は傘を取り出し、床板へ向ける。

「持ち上げられそうな気もしないし……粉砕しますか。『種爆弾』ッ!!」

 傘の先から射出された弾丸は、床板に直撃し爆ぜる。
 そして、パラパラと破片が落ちていった。

「この下ね。よいせっ」

 地下室の中は、さっき穴をあけた床板部分から差し込む光以外、一切の明かりがない。ほぼ完全なる真っ暗闇だ。
 わずかな明かりに目が順応するまでしばらく待ってから、咲夜は辺りを見回してみた。
 まず彼女が驚いたのは、その部屋の深さだ。
 さっき飛び降りたときはそうでもないと思っていたが、改めて見てみると軽く2mはある。こんなのが小学校の下にすっぽり入るなんてまずありえないので、ゲーム側で相当脚色しているのだろう。部屋の中には薬品っぽい何かがずらりと並んでいる。

「多分、下手に触れない方がいいやつね……で、この中で何をすればいいのかしら? ゲームのイベントだとすれば何かしらフラグが立つ条件があるはずだけど……ふぁあ。まあ、探してみますかね」

 とっ。咲夜は微かに物音を聞いた。

(何、今の……プレイヤーの足音? いや、私より先にここに入ったなんてのは考えにくいわ……だとしたら、モンスターとかね)

 とっ。とっ。足音が聞こえる。微かに反響もしている……広さの方もまあまああるらしい。

(音の聞こえ方からして……私とモンスターの間に遮蔽物はない。なら)
「……種爆弾」

 小声でそう呟き、咲夜は爆弾を発射する。
 ……数秒後。爆発が起こり、一瞬光が辺りを照らした。
 逆光で咲夜側からはよく見えないが……そのシルエットは人型――とはいえ、肘から先が二股に別れている――だった。
 そして爆発は……咲夜が狙った方向から、少しずれていた。

(間違いなく真っ直ぐ撃った……あいつ、攻撃を弾けるわね。ならもう何発か……打ち込んでやれb)

 突如、咲夜の体にダメージが走った。全く気付かなかったこともあって、咲夜は動揺している。

(なっ……いや、そりゃそうね。向こうがやり返してこないはずがないもの。でも、それならこっちにだって策はあるわ)

 咲夜は傘を開く。これまで専らライフルとして使っていたが、彼女の武器はあくまでも“傘”。開けば防御として使えるのだ。そりゃ完全無敵とはいかないが、しかししばらくの間なら大丈夫だ。

(しばらく通常攻撃で、油断した隙を狙って……うん、行けるわ)
「ふぁあ……機関種」

 再びそう呟くと、傘の陰からモンスター――勿論咲夜がそう思っているという意味だが――のいる方角へ、大量の弾丸が発射される。弾丸が薬品の瓶にぶつかり割れる音や傘で塞がれる視界のせいで細かい様子は覗きようもないが、破裂音はちょっとずれた方向から響いてくる。やっぱり攻撃を弾いている。少しずつ……僅かな差だが、破裂音が聞こえるタイミングが短くなっていく。

(……うん、やっぱりちょっとずつ近づいてきてる。そろそろいいよね……捕まえる!)
「……蠅取蔦」

 傘の手元をちょっと捻り、引き金を引く咲夜。
 これまでの弾丸に混じって傘の先端から勢いよく飛び出たソレは、やがて音もなく地面に落ちた。歩いてくるモンスターは気付く様子もなく、相変わらず破裂音を響かせ続ける。
 ……ある一瞬を境に、鳴り響く音は大きく変わった。

「うぇっ!? 何コレ……痛い痛いストップストップ!!!!!」
(人間の声……やっぱりプレイヤー? 中の人はいるって事かしら)

 急に声が聞こえたのでビックリした咲夜は、傘を下ろした。

「声聞こえます? 私は初杉咲夜……ふぁあ。あなた、名前は?」
「名前……滝沢春菜、だけどぉ!? とりあえずコレ解いてっ!!」

 滝沢春菜。その名前に咲夜は聞き覚えがあった。水属性のプレイヤーだ。

「……すいませぇん、解いてって言われても、暗くて何がどうなってるのか」
「明かりになる感じのアイテム買うとかすればいいでしょぉ!? なんか変なところに絡んでてやなんですけどぉ!!」

 真っ暗で春菜の様子は全く分からない。
 ちょっと涙ぐんだ春菜の声を聞き、私この子に何しちゃったんだろうと、咲夜は首を傾げた。
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