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ステージ3

2 闇のカード、光の杖

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 さーて面倒なことになったぞと透は身構える。

「先手必勝、『爆黒カード』ッ!!」

 原因その1こと零が投げてくるカードを冷静に躱す透。背後の地面に着弾し、黒色の爆発が起こった。

(闇属性……2度も見たんだ、間違いない。周りを暗くする効果がある!)

 暗くなったからなんだ、と思う人もいるかもしれない。しかし暗闇の中で、それこそ零みたく真っ黒な服を着ていると、誰にも視認できなくなる。それが彼の狙いなのだ。ただでさえ夜だし。

(ま、姿を隠すんならこっちもできるんだけどねっ!)

 もう一発飛んできたカードを、横転しながら回避する。すると透の姿が薄れ……

「『ハイド&ショット』ッ!!」

 零は透を見失った。

「あれぇ? おかしいですねぇ、さっきまで目の前にぃ……痛ぁっ!?」
「ふふふ、命中!」
「……なるほどぉ、回避がてら攻撃ってことですかぁ……だったらぁ」

 周りを見る。校庭の外側を囲むように走る国道に街灯があることを確認し、透をそっちへ誘導するようにカードを投げつけ始めた。勿論爆発するやつだ。

「よ……っと。一々爆発するのなんなのさホントに! 視界が悪くなって困るんだよ!」
「別にいいでしょう? 死にはしないんですしぃ!」

 とはいえそろそろ夜の闇に目が慣れてきたかな……なんてことを思っていた透だが、突如零を見失う。理由は単純、街灯の光だ。

(そっか、あの子の作戦か! 確かにこっちが明るい場所に立っていれば、闇属性の暗がりの中の物はもっと見にくくなる……だったら!)

 透はその場で銃を構え、チャージし始める。攻撃が来た瞬間、ゼロ・バレットをぶちかますつもりのようだ。
 それを見た零は一瞬首を傾げ、特に気にも留めていないかのように近づく。暗い側からはよく見えるのだ。

(しかし彼どうやって私に攻撃するつもりでぇ……音で気付こうってぇ、そういう魂胆ですかぁ。確かにVS私の戦術としてはいい感じですねぇ?)
(……足音っ! こっちの方向だ……出してくるのがさっきの爆発する技とは限らないが、どのみちゼロ・バレットが当たれば被ダメージは少なくできるはず! 今だ……)
「『影縫ショット』ッ!!」「『ゼロ・バレット』ッ!!」

 違う技!? 透は身構える……が、カードが飛んでくる気配はしない。
 一方の零もゼロ・バレットを冷静に回避し、カードを一枚取り出してにやりと笑う。

「私今日が初めてなんでどんな技使えるか分からないんですがぁ……とりあえずぅ、避けたらどうですぅ?」
「……? んなもん言われなくたって避けますともさ」

 怪訝な顔で透は、とりあえず街灯から離れようと動き出す……が。
 ある一点から、体が動かなくなった。

(何だ!? まるで見えない壁……いや、何かに引っ張られてるみたいな……まさか、さっきの影縫ショット!?)

 足元を見ると……カードが一枚、透の影に突き刺さっていた。

「なるほど、影縫ね。このカードが刺さってるところ以外に、僕の影は移動できない、と」

 それはつまり、透自身が移動できないことを指す。
 やれやれ面倒な技を使ってくれる、と透は内心毒づく。

「うーん、ホントは動き自体止めるつもりだったんですけどねぇ……その辺はゲームバランスの都合でしょうかぁ? まあとりあえずぅ、動けない今の内に攻撃をぉ……」
「『ゼロ・バレット』ッ!!」

 カードを撃ち抜く透。影に突き刺さっていたカードはただの紙切れになった。

「……なんかゴメンね。僕無属性だし」
「無効化って喰らうと腹立つもんですねぇ……」

 苦虫をかみ潰した感じの顔になる零を見て、透は笑いを堪えていた。
 その時、爆音が響いた。

 一方残り二人はどうしていたかと言うと。話は少し前――具体的には透VS零が始まった直後くらい――に遡る。
 その時鈴蘭も困惑していた。

(面倒だな……あの子の技がどんなのか……今のところ、周りを明るくすることしか分からないから、下手に攻撃しようにも……)

 原因その2、もといマド――自称なので本名は不明――は、杖を掲げて何かをチャージしている。光が集まっているので、彼女の姿はよく見える。
 どうせさっきの極太レーザーだ、んなもん撃たせなけりゃいい話! 鈴蘭はヨーヨーを持って突進する。

「先手必勝、『ループ・ザ・ループ』ッ!!」

 高速で振り回されるヨーヨー、及びそこから飛び出る毒液での攻撃。鈴蘭の得意技だ。
 しかし、技を繰り出す鈴蘭を見て、マドは不敵に笑う。

「溜めが途切れるのは気に食わぬが……まあ、ダメージはなるべく受けたくないのでな」

 許してくれよ、とマドは杖を一振り。
 するとヨーヨーは弾き飛ばされ、毒液もかき消されてしまった。

「まあ一個なら、弾き飛ばすのも簡単だよね……ならっ!」

 そう言うと鈴蘭は……もう片方の手にヨーヨーを持つ。

「両手なら、流石に対応しきれないでしょ? 『ツーハンド・インサイド・ループ』ッ!!」

 ツーハンド・インサイド・ループ。簡単に言えば両手でループ・ザ・ループする技だ。どうも鈴蘭はループ・ザ・ループが一番得意らしい。
 マドは一発目を弾き飛ばすが……間髪入れず繰り出された二発目には対応できず。少しダメージと毒を喰らった。

「毒か……其方も其方で性格が悪い」
「んなこと言われても、コレがわたしのスタイルなんでね! わたしの本気……魅せてあげる」
「そうか……その余裕、果たして何時まで保てるか」

 キリっと笑う鈴蘭。一方のマドも、何かを思いついてかニヤッと笑う。

「言っておくが、もう其方には何もさせぬぞ? 『Lichtwand-Zylindermodus』ッ!!」

 杖を地面に突き刺すと、そこからマドを包むように光の筒が立ち昇る。なるほど防御技だなと、鈴蘭はいったん距離を置いた。

(多分、ヨーヨーも毒もはじかれる。バリア展開してるからないとは思うけど、あの中でチャージができた場合……ちょっと面倒が過ぎるね)

 鈴蘭は手を出しあぐねていた。
 一方のマドも、バリアの中でどうしたものかと作戦を練っている。

(しかしこのまま粘り続けるというのは悪手でしかない……さっきの毒でスリップダメージがあるし、そもそもこの中じゃ思うようにチャージができぬ)

 とはいえバリアを解除した場合速攻でヨーヨー&毒が飛んでくる。それが一番面倒だ……生憎こちらからは暗い方があまりよく見えないし、相手が何か企んでいても対応ができない。

(……何か呟いているような声が聞こえたような……気のせいか。そんなことより夜霧の対策だが……うん、いっそ解除して、相手に何かされるより早く直接殴るのがベストかもしれぬな……そうするか)

 そう判断しバリアを消して、マドが勢いよく飛び出してくる。
 バリアの向こうで鈴蘭は……ヨーヨーを両手に持って、余裕の笑みを浮かべている。
 さてその余裕何時まで続くか……杖を大きく振りかぶるマドだが。

「……ッ!?」

 足に痛みが走り、すぐさま下を見るマド。そこには……さながら蛇か何かが地面を這いまわった跡みたく、毒が地面に塗りたくられていた。

「ちょっと形容に悪意を感じるなぁ……もちろんコレはわたしの技、『ウォーク・ザ・ドッグ』! 日本だとそうだね、犬の散歩って言えば伝わるかな?」

 空転させたヨーヨーを地面に置くことで転がす基礎的なトリック。エレスク内では、転がすことにより地面に直接毒をまくことができる。置き技としてつかえるかなぁと鈴蘭は思っている。

「こんな技いつ使ったのだ! そもそも無言で技は使えぬはずだろう!?」
「確かに技名はね、意識してなくても勝手に口から出る……なら意識してれば、叫ぶのは回避できるかなって」

 さっき聞こえた呟き声はそういうことか! 今更ながら納得したマドは頭を抱える。

(なるほどな……明るいバリアの側から、暗い外側はよく見えない。その隙を突いたというわけだな……敵ながら天晴だ!)
「ならばここからはゴリ押しだ! 悪く思うな!」
「へえ。もちろん受けて立つよ!」

 この時鈴蘭は甘く見ていた。剣とかじゃなくて杖なら、仮に当たっても大したダメージにゃなるまいと。
 その思い込みは、マドの杖の一閃で崩されることになる。

「……ッ!? なんか目ぇチカチカする! ……そっか、君の属性光か」

 杖の一閃をモロに喰らえば、当然ながらそれなりにダメージが入る。
 しかも、使用する時に眩い光を放つ。それが光属性の効果。間近で見たら光が目に焼き付くのも無理はない。
 しかしそんな副作用があるとは思っていなかったのか、マドは首を傾げる。

「まあ、好都合だな。これでこっちが有利だ……とりあえずもう一ぱt」

 爆音が響いた。

「……なんだ今の!? 僕でも零くんでもないぞ!」
「マドさんたちの仕業ですかぁ?」

 透と零の声が聞こえる。

「プールだ。プールから煙が上がっているぞ!」

 マドの声だ。目がチカチカしている鈴蘭には見えないが、その時彼女は昔聞いた話を思い出した。

「……プールの狼煙! 烏羽小の七不思議です!」
「……七不思議が、ゲームに出てきてるってことか?」

 ここの生徒ではないので七不思議がどんなものかわからず、透は首を傾げる。
 ステージ3は、まだ始まったばかりだ。
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