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ステージ2
幕間1 星降駅前、カフェ開店?
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サイレンスコーポレーションのホームページに、こんなお知らせが書き込まれた。
『(前略)この度、当社で運営しているVRMMOゲーム、element squareにて、不具合の発生が確認されたため、現在メンテナンスを行っております。そのため、ステージ3の開催は延期となります。テストプレイに参加してくださっている方々や、配信を楽しみになさっている皆様方には誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいますようお願い致します』
厳密にはもっとしっかりと色々書かれてはいるが、まあ大方こんな感じだ。
まああんなに想定外が積み重なったんだ、流石に一旦色々と見直す必要があるだろう、との判断である。
というわけで、プレイヤーたちは暫し休息の時を迎えることとなった。
(……何故だ。何故こんなことに??)
休息できてないプレイヤーがここに一人。露西透だ。
先程までのステージ2を終え、現実世界に舞い戻ったばかりの透が目にした風景は、とても奇妙なものだった。
「……あれ、僕まだゲームの中に取り残されてる?」
「んなわけないですよ透先輩」
慌てて何を言ってるんだ、とでも言いたげな呆れた顔で呟く颯一郎がたぶん元凶だろうなあ。透は何となく察した。
無駄に広い部屋に、数個ほど机がある。それは今朝見た光景と一緒だ。ただし、机の上に散乱していた荷物とか、過去問やらの紙類が綺麗に片付けられて、部屋は――部屋中のゴミが一角に押し集められているのでそこ以外だが――何やら小綺麗になった。一応掃除もしていたようで、透より先に退場していた颯一郎と鈴蘭の2人はバンダナとマスクを着けている……相当埃が溜まっていたらしい。
そして一番透が己の目を疑ったのは……部屋の奥に、カフェのカウンターみたいなものが表れていることだった。
「しっかしわたし知りませんでしたよ、こんなのあったなんてー」
「それは俺も同じだな、鈴蘭さん。ゴミだの木材だの、訳の解らない物共の掃き溜めになってたのは何故なんです?」
「えーっと、それはねぇ……」
……うん。全く思い出せねえ。透は頭をフル回転させ考えにふける。
(駅前のこのビル……なんだかんだ駅ビルで通るけど、確か名前は『エトワール星降駅前』。この部屋をくれたのは上杉さんとかいう名前の女の人で……僕より少し上くらい? なんか、志人市でカフェやるとか……うーんと……)
「……マジで覚えてないんですか?」
「いや、あのね? 違うんよ鈴蘭ちゃん。これはその……うん、この辺まで出て来てるの! 鳩尾のちょい上あたりまでは……」
「全ッ然出て来てないじゃないですか」
至って冷静に流された。何十日か隣に住んでるだけあって、鈴蘭は彼の扱い方を熟知してきたようだ。
「……思い出した。ここ、元々フツーにカフェなんだった」
何年か前。透が星降に着いた頃には、既に物置状態だったのだが。
「『実はここで親がカフェやってたんですよー、数年前に潰れたけど。んで引っ越すからこの部屋あげる』みたいなことを言われた……ってのを今の今まで忘れていたよ」
「「マジすか」」
そんな大事な話普通覚えとけと言わんばかりの呆れ顔だ。まあ実際覚えといて当然だわなと、苦笑いしながら透は続ける。
「で、部屋に押し込められてたのは何故か色んなところからかき集められた大きめのガラクタたち。何かに使えそうだけど雪崩れたら怖いから、カウンター部分の壁を活かして仕切りを作ってて……んで誰にも見えないようになってたまま3年経ったってわけだね」
「……露西先輩って時々えげつなく抜けてますよね。エレスクの配信の件もしかり」
「うっ……返す言葉が無ぇ……」
正直抜けていることは薄々自覚している透だが、鈴蘭にしれっと鼻で笑われたのは流石に堪えたようだ。
「……っと、というかっ! そもそもどうして大掃除が始まったのかってのを聞きたかったんだ僕は!」
「おっと露骨に話題を逸らしおったぞ鈴蘭さん」
「ですねえ。まあ、それは絶対気になると思ってましたよ」
ほら主犯、説明してくださいと、鈴蘭に促され颯一郎が口を開く。
「ここの住所、プレイヤーに晒すんでしょ? それなら、こんな倉庫同然のところに上がらすよか、整理されてる空間のがどう考えてもいいよなーと思いまして? んで片付けてたらカウンターが出て来て吃驚してたとこです」
「なるほど、確かに整理は必要だわな……」
少し考え込む透。
「……よし! ここカフェにしよう!」
「「え?」」
なんか変な事言い出したぞ……という目で透を見つめる2人。
「だって、プレイヤーとかがみんなここに集まるようになるってことでしょ? だったら、ここをみんなが集まりやすいような場所にすりゃあいい……折角カウンターがあるんだ、楽しそうだしやってみたいなーって」
「楽しそうだしって……先輩、カフェの開き方とか知ってるんですか? なんか資格とか、届け出とか、必要なんでしょう?」
「あー……そーだよなー……カフェ開店は暫く延期だな、名前だけでも考えとこ」
「取らぬ狸の皮算用を地で行かないでくださいよ……」
なんかわたしが質問しなかったら直前まで気付かなかったかもしんない。鈴蘭は苦笑いした。
「……ところで」
颯一郎が急に口を開いた。
「ん? どしたよ颯一くん」
「光の奴、なんでまだ寝てるんですか」
部屋の片隅。ゴミの上に寄りかかって、ゴーグルを着けたまま光が寝ている。たぶん颯一郎が一緒に掃除したんだろうなと透は思った。
「……そーいやゲームの中でも見てなかったな。どうしたんだろ」
「知らないんですか?」
「そのはずです……わたしも露西先輩と一緒にいたけど、見てないです」
わたしが退場した後に何かありました? と鈴蘭に聞かれ、透は思い返す。二人とも掃除してたから、途中から見てなかったのだ。
確か真綾、相当取り乱していた。あれだろうな……たぶん。
「おそらく……だけど。真綾さんの宿リ星で、寝てるだけだよ」
「宿リ星……えっ、ゲームの中で発動できるもんなんですか?」
「まあ、そういう事になる……みたいだよ、颯一くん」
エレスク内で能力使ってる最有力候補者が何を言ってるんだと思いながら、透は返事をした。
「なら安心ですね、龍田先輩!」
「そうだね……ゴミとか片付けたいしはよ起きてほしいんだけど」
毒づく颯一郎。ちなみに光は10分後くらいに起きた。
「おわあっ、何で俺ゴミの中で寝てんのっ!?」
「……んぅ? あー、神成先輩起きましたよー」
掃除を終わらせた鈴蘭があまりにも疲れた声で言うもんだから、思わず笑ってしまう透と颯一郎であった。
『(前略)この度、当社で運営しているVRMMOゲーム、element squareにて、不具合の発生が確認されたため、現在メンテナンスを行っております。そのため、ステージ3の開催は延期となります。テストプレイに参加してくださっている方々や、配信を楽しみになさっている皆様方には誠に申し訳ございませんが、何卒ご了承くださいますようお願い致します』
厳密にはもっとしっかりと色々書かれてはいるが、まあ大方こんな感じだ。
まああんなに想定外が積み重なったんだ、流石に一旦色々と見直す必要があるだろう、との判断である。
というわけで、プレイヤーたちは暫し休息の時を迎えることとなった。
(……何故だ。何故こんなことに??)
休息できてないプレイヤーがここに一人。露西透だ。
先程までのステージ2を終え、現実世界に舞い戻ったばかりの透が目にした風景は、とても奇妙なものだった。
「……あれ、僕まだゲームの中に取り残されてる?」
「んなわけないですよ透先輩」
慌てて何を言ってるんだ、とでも言いたげな呆れた顔で呟く颯一郎がたぶん元凶だろうなあ。透は何となく察した。
無駄に広い部屋に、数個ほど机がある。それは今朝見た光景と一緒だ。ただし、机の上に散乱していた荷物とか、過去問やらの紙類が綺麗に片付けられて、部屋は――部屋中のゴミが一角に押し集められているのでそこ以外だが――何やら小綺麗になった。一応掃除もしていたようで、透より先に退場していた颯一郎と鈴蘭の2人はバンダナとマスクを着けている……相当埃が溜まっていたらしい。
そして一番透が己の目を疑ったのは……部屋の奥に、カフェのカウンターみたいなものが表れていることだった。
「しっかしわたし知りませんでしたよ、こんなのあったなんてー」
「それは俺も同じだな、鈴蘭さん。ゴミだの木材だの、訳の解らない物共の掃き溜めになってたのは何故なんです?」
「えーっと、それはねぇ……」
……うん。全く思い出せねえ。透は頭をフル回転させ考えにふける。
(駅前のこのビル……なんだかんだ駅ビルで通るけど、確か名前は『エトワール星降駅前』。この部屋をくれたのは上杉さんとかいう名前の女の人で……僕より少し上くらい? なんか、志人市でカフェやるとか……うーんと……)
「……マジで覚えてないんですか?」
「いや、あのね? 違うんよ鈴蘭ちゃん。これはその……うん、この辺まで出て来てるの! 鳩尾のちょい上あたりまでは……」
「全ッ然出て来てないじゃないですか」
至って冷静に流された。何十日か隣に住んでるだけあって、鈴蘭は彼の扱い方を熟知してきたようだ。
「……思い出した。ここ、元々フツーにカフェなんだった」
何年か前。透が星降に着いた頃には、既に物置状態だったのだが。
「『実はここで親がカフェやってたんですよー、数年前に潰れたけど。んで引っ越すからこの部屋あげる』みたいなことを言われた……ってのを今の今まで忘れていたよ」
「「マジすか」」
そんな大事な話普通覚えとけと言わんばかりの呆れ顔だ。まあ実際覚えといて当然だわなと、苦笑いしながら透は続ける。
「で、部屋に押し込められてたのは何故か色んなところからかき集められた大きめのガラクタたち。何かに使えそうだけど雪崩れたら怖いから、カウンター部分の壁を活かして仕切りを作ってて……んで誰にも見えないようになってたまま3年経ったってわけだね」
「……露西先輩って時々えげつなく抜けてますよね。エレスクの配信の件もしかり」
「うっ……返す言葉が無ぇ……」
正直抜けていることは薄々自覚している透だが、鈴蘭にしれっと鼻で笑われたのは流石に堪えたようだ。
「……っと、というかっ! そもそもどうして大掃除が始まったのかってのを聞きたかったんだ僕は!」
「おっと露骨に話題を逸らしおったぞ鈴蘭さん」
「ですねえ。まあ、それは絶対気になると思ってましたよ」
ほら主犯、説明してくださいと、鈴蘭に促され颯一郎が口を開く。
「ここの住所、プレイヤーに晒すんでしょ? それなら、こんな倉庫同然のところに上がらすよか、整理されてる空間のがどう考えてもいいよなーと思いまして? んで片付けてたらカウンターが出て来て吃驚してたとこです」
「なるほど、確かに整理は必要だわな……」
少し考え込む透。
「……よし! ここカフェにしよう!」
「「え?」」
なんか変な事言い出したぞ……という目で透を見つめる2人。
「だって、プレイヤーとかがみんなここに集まるようになるってことでしょ? だったら、ここをみんなが集まりやすいような場所にすりゃあいい……折角カウンターがあるんだ、楽しそうだしやってみたいなーって」
「楽しそうだしって……先輩、カフェの開き方とか知ってるんですか? なんか資格とか、届け出とか、必要なんでしょう?」
「あー……そーだよなー……カフェ開店は暫く延期だな、名前だけでも考えとこ」
「取らぬ狸の皮算用を地で行かないでくださいよ……」
なんかわたしが質問しなかったら直前まで気付かなかったかもしんない。鈴蘭は苦笑いした。
「……ところで」
颯一郎が急に口を開いた。
「ん? どしたよ颯一くん」
「光の奴、なんでまだ寝てるんですか」
部屋の片隅。ゴミの上に寄りかかって、ゴーグルを着けたまま光が寝ている。たぶん颯一郎が一緒に掃除したんだろうなと透は思った。
「……そーいやゲームの中でも見てなかったな。どうしたんだろ」
「知らないんですか?」
「そのはずです……わたしも露西先輩と一緒にいたけど、見てないです」
わたしが退場した後に何かありました? と鈴蘭に聞かれ、透は思い返す。二人とも掃除してたから、途中から見てなかったのだ。
確か真綾、相当取り乱していた。あれだろうな……たぶん。
「おそらく……だけど。真綾さんの宿リ星で、寝てるだけだよ」
「宿リ星……えっ、ゲームの中で発動できるもんなんですか?」
「まあ、そういう事になる……みたいだよ、颯一くん」
エレスク内で能力使ってる最有力候補者が何を言ってるんだと思いながら、透は返事をした。
「なら安心ですね、龍田先輩!」
「そうだね……ゴミとか片付けたいしはよ起きてほしいんだけど」
毒づく颯一郎。ちなみに光は10分後くらいに起きた。
「おわあっ、何で俺ゴミの中で寝てんのっ!?」
「……んぅ? あー、神成先輩起きましたよー」
掃除を終わらせた鈴蘭があまりにも疲れた声で言うもんだから、思わず笑ってしまう透と颯一郎であった。
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