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ステージ2
1 星降駅、想定外
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ステージ2の舞台は星降駅近辺らしい。キャラクリがない分前回よりも素早く降り立った直後、自身がゲームサークルの根城である駅ビルの一室にいることに気付き、透は察した。
ところで星降駅というのはそもそも長野県最大のターミナル駅であり、周辺には多数の施設が立ち並んでいる。よってこの辺の若者は休日遊びに行ったりするときなんかは大抵ここへと集まるのだ。勿論透たちも例外ではない。アクセスがいいんだから仕方がない。
「前回、炎里ちゃんと柳海くんが同じ場所に出てきたらしいことから考えて、僕と同じ場所で入った3人もそのうち来るかな?」
3人っていうのは勿論ゲームサークルの一同のことである。今日は日曜日、鈴蘭の履修登録の手伝いとかをしながら時間が来るのを待って、その後アナウンスされた時間にログインした、というのが事の流れだ。
そうこうしていると、他3人もやってきた。
「さーて、とりあえずミッション消化するかなー。まずはコレだなー」
まず動き出した光は、駅ビルを颯爽と飛び出していった。
「……じゃあ透先輩、俺らも行きまsh」
「すいませーん、ちょっといいかなー?」
そう言ったのは、金のラインが入ったドレスを身に纏った灰色の髪の女性。ニヤリ、と不敵に微笑んでいる。
「えっと……どちら様ですか?」
「んー……今私に話しかけたのが鈴蘭、そんで奥の2人が……透と颯一郎、だよね」
名前が、知られている。
透たちは、他プレイヤーのことは一切知らされていない……どう考えても、普通のプレイヤーじゃない。
「……すみませんが、お名前伺っても?」
後輩2人の前に出て、透は女性を見据え問いかける。
「あたし? あたしは音無美琴……このゲームの開発を担当しているサイレンスコーポレーションの、いわば社長令嬢、ってところね」
唐突にぶち込まれたその女、美琴の発言に、3人は目を丸くする。
「開発会社って……つまり運営さんってことですか!?」
「みたいだね鈴蘭さん……しかも社長令嬢、つまりこないだナレーションしてた人の娘さんだな」
颯一郎と鈴蘭が話す中透は、影人さんの娘さんかぁ……そういや影人さんマジで連絡とってないのかな? みたいなことを考えていた。
「さて、上流階級なこのあたしがわざわざこんな所まで来たのには当然ながら理由があるのよ……このゲームの先日の配信を見たところ、どうもこちらの想定していない事象が発生している、とのことでね! 場合によっちゃ君らのアク禁もあり得る事態なわけよ」
どこからか取り出した、ドレスと絶望的に似合わないV字状の金属の塊を指先でくるくるしながら、淡々と語る美琴。
それを聞き、3人も武器を構えた。
「いきなりそんなこと言われても困るなぁ美琴さん……具体的に何がどうなってるって言うのさ?」
「透だっけ、初対面で名前呼び? 頭が高いんじゃないかしらん?」
「悪いね、君のお父さんと知り合いなもので」
「へえ、お父様と? あの人どこいったのかしら……それはそうと、このゲームのステージ1で、明らかにおかしなことが多数起きてたのよ」
おかしなこと? 3人は首を傾げた。
代表ということで、透が会話を続ける。
「具体的には何が起きてたんですか?」
「そうだね……あ、じゃあ窓の向こう見てごらんなさいよ」
美琴の指し示す外の景色には、虹色に輝く線が空中に浮いていた。
「あれは……乗ったら動くやつ! そういえば説明なかったですね」
「説明が無いのは当り前よ、鈴蘭……なんせこちらとしても、説明のしようがないんだもの」
まあ簡単にまとめるとだ、と面倒そうに言う美琴。
「お前らがスライドレールとか言ってるこの線、俺らは実装した覚えが無え……そういうことだな」
所変わって隣のビル。異様に丈の長い茶色のスーツに、これまた異様に物騒な斧を担いだ、茶髪でオールバックな仏頂面の男性が告げた。彼の隣では、蔦のような柄の緑の和服を身に纏い、赤い和傘を差している、少しパーマのかかった女性が眠そうに立っている。
男性の話を聞いていた2人こと、炎里と柳海は困惑を隠せない。
「……えっ、開発者はあんたらなんだろ? そんなことあるか?」
「だよねりゅみくん! そんな異常事態、そうそう起こらないでしょ……ってかボク、まだ聞いてなかったっけ。あなた方、お名前なんていうんです?」
方向転換がいきなりだな……なんて呟く男性。
「俺は戸隠我夢、んでこっちの眠そうな女が俺の先輩で初杉咲夜だ」
「ふぁあ……うん、大方そんな感じですよー。ありがと」
咲夜は我夢が自身の分の紹介もしてくれたので、とことん眠そうにお礼を言う咲夜。
「……話を戻そう。そんで、運営さん方がどうして、俺たちにコンタクトを取ってるんです?」
面倒そうに呟く柳海。
「あぁ? んなもん考えなくても分かんだろーがよぉ……想定外のバグを持ち込んだ犯人がいるかもしんねーから、それの調査と注意勧告だよ」
「……ところで更間さんと東城さん、もう一人、滝沢さんだっけ? 皆さんと同じ場所に来てるはずなんですけどー……見てない?」
咲夜の話を聞いて、さっき見たよ! と声を上げたのは炎里。
「先輩ならさっきまでこの辺にいたんだけど……ミッションを達成するって言って出てっちゃったよー」
「なるほど……ふぁあ。じゃあ本題入ろっか……」
相も変わらず気だるげに咲夜はつぶやき、その『本題』を語り始めた。
「実は今回のボス……の厳密には中の人が、急に用事ができたみたいでさ? しばらく時間をつぶそうってことになったわけよ」
所変わって隣の……透たちがいるビル。美琴も、咲夜のものとだいたい同じような説明をしていた。
「なるほど、話はだいたい分かりました……つまり、問い詰めがてらあなたたちとバトルしろ、と?」
「ご名答だよ鈴蘭! 分かってんなら話は早いわね……」
美琴はさっき回していた金属……ブーメランを構え、笑った。
「早速行くわよ! そこ、もっと頭を下げなさい!」
一方その頃、ミッション目当てで早々に飛び出した光と春菜はというと。
「あーっ! 君こないだ俺のこと攻撃してきた女の子!」
「げっ……あんた、今日も来てたのね」
「そりゃ来ますともさ! しかし初手で攻撃ぶち込むくせに俺の事覚えてくれてたんだねえ、嬉しいねえ嬉しいねえ」
「うるさい! あんたの事なんて……忘れられる、わけ……あれからずっと……」
「ん? 俺たち会ったことあったっけ?」
「……マジで言ってんの?」
非難と軽蔑と、それから何故か少しだけ安堵が混ざった、そんな複雑な瞳で見つめられる理由は、光にはわからなかった。
ところで星降駅というのはそもそも長野県最大のターミナル駅であり、周辺には多数の施設が立ち並んでいる。よってこの辺の若者は休日遊びに行ったりするときなんかは大抵ここへと集まるのだ。勿論透たちも例外ではない。アクセスがいいんだから仕方がない。
「前回、炎里ちゃんと柳海くんが同じ場所に出てきたらしいことから考えて、僕と同じ場所で入った3人もそのうち来るかな?」
3人っていうのは勿論ゲームサークルの一同のことである。今日は日曜日、鈴蘭の履修登録の手伝いとかをしながら時間が来るのを待って、その後アナウンスされた時間にログインした、というのが事の流れだ。
そうこうしていると、他3人もやってきた。
「さーて、とりあえずミッション消化するかなー。まずはコレだなー」
まず動き出した光は、駅ビルを颯爽と飛び出していった。
「……じゃあ透先輩、俺らも行きまsh」
「すいませーん、ちょっといいかなー?」
そう言ったのは、金のラインが入ったドレスを身に纏った灰色の髪の女性。ニヤリ、と不敵に微笑んでいる。
「えっと……どちら様ですか?」
「んー……今私に話しかけたのが鈴蘭、そんで奥の2人が……透と颯一郎、だよね」
名前が、知られている。
透たちは、他プレイヤーのことは一切知らされていない……どう考えても、普通のプレイヤーじゃない。
「……すみませんが、お名前伺っても?」
後輩2人の前に出て、透は女性を見据え問いかける。
「あたし? あたしは音無美琴……このゲームの開発を担当しているサイレンスコーポレーションの、いわば社長令嬢、ってところね」
唐突にぶち込まれたその女、美琴の発言に、3人は目を丸くする。
「開発会社って……つまり運営さんってことですか!?」
「みたいだね鈴蘭さん……しかも社長令嬢、つまりこないだナレーションしてた人の娘さんだな」
颯一郎と鈴蘭が話す中透は、影人さんの娘さんかぁ……そういや影人さんマジで連絡とってないのかな? みたいなことを考えていた。
「さて、上流階級なこのあたしがわざわざこんな所まで来たのには当然ながら理由があるのよ……このゲームの先日の配信を見たところ、どうもこちらの想定していない事象が発生している、とのことでね! 場合によっちゃ君らのアク禁もあり得る事態なわけよ」
どこからか取り出した、ドレスと絶望的に似合わないV字状の金属の塊を指先でくるくるしながら、淡々と語る美琴。
それを聞き、3人も武器を構えた。
「いきなりそんなこと言われても困るなぁ美琴さん……具体的に何がどうなってるって言うのさ?」
「透だっけ、初対面で名前呼び? 頭が高いんじゃないかしらん?」
「悪いね、君のお父さんと知り合いなもので」
「へえ、お父様と? あの人どこいったのかしら……それはそうと、このゲームのステージ1で、明らかにおかしなことが多数起きてたのよ」
おかしなこと? 3人は首を傾げた。
代表ということで、透が会話を続ける。
「具体的には何が起きてたんですか?」
「そうだね……あ、じゃあ窓の向こう見てごらんなさいよ」
美琴の指し示す外の景色には、虹色に輝く線が空中に浮いていた。
「あれは……乗ったら動くやつ! そういえば説明なかったですね」
「説明が無いのは当り前よ、鈴蘭……なんせこちらとしても、説明のしようがないんだもの」
まあ簡単にまとめるとだ、と面倒そうに言う美琴。
「お前らがスライドレールとか言ってるこの線、俺らは実装した覚えが無え……そういうことだな」
所変わって隣のビル。異様に丈の長い茶色のスーツに、これまた異様に物騒な斧を担いだ、茶髪でオールバックな仏頂面の男性が告げた。彼の隣では、蔦のような柄の緑の和服を身に纏い、赤い和傘を差している、少しパーマのかかった女性が眠そうに立っている。
男性の話を聞いていた2人こと、炎里と柳海は困惑を隠せない。
「……えっ、開発者はあんたらなんだろ? そんなことあるか?」
「だよねりゅみくん! そんな異常事態、そうそう起こらないでしょ……ってかボク、まだ聞いてなかったっけ。あなた方、お名前なんていうんです?」
方向転換がいきなりだな……なんて呟く男性。
「俺は戸隠我夢、んでこっちの眠そうな女が俺の先輩で初杉咲夜だ」
「ふぁあ……うん、大方そんな感じですよー。ありがと」
咲夜は我夢が自身の分の紹介もしてくれたので、とことん眠そうにお礼を言う咲夜。
「……話を戻そう。そんで、運営さん方がどうして、俺たちにコンタクトを取ってるんです?」
面倒そうに呟く柳海。
「あぁ? んなもん考えなくても分かんだろーがよぉ……想定外のバグを持ち込んだ犯人がいるかもしんねーから、それの調査と注意勧告だよ」
「……ところで更間さんと東城さん、もう一人、滝沢さんだっけ? 皆さんと同じ場所に来てるはずなんですけどー……見てない?」
咲夜の話を聞いて、さっき見たよ! と声を上げたのは炎里。
「先輩ならさっきまでこの辺にいたんだけど……ミッションを達成するって言って出てっちゃったよー」
「なるほど……ふぁあ。じゃあ本題入ろっか……」
相も変わらず気だるげに咲夜はつぶやき、その『本題』を語り始めた。
「実は今回のボス……の厳密には中の人が、急に用事ができたみたいでさ? しばらく時間をつぶそうってことになったわけよ」
所変わって隣の……透たちがいるビル。美琴も、咲夜のものとだいたい同じような説明をしていた。
「なるほど、話はだいたい分かりました……つまり、問い詰めがてらあなたたちとバトルしろ、と?」
「ご名答だよ鈴蘭! 分かってんなら話は早いわね……」
美琴はさっき回していた金属……ブーメランを構え、笑った。
「早速行くわよ! そこ、もっと頭を下げなさい!」
一方その頃、ミッション目当てで早々に飛び出した光と春菜はというと。
「あーっ! 君こないだ俺のこと攻撃してきた女の子!」
「げっ……あんた、今日も来てたのね」
「そりゃ来ますともさ! しかし初手で攻撃ぶち込むくせに俺の事覚えてくれてたんだねえ、嬉しいねえ嬉しいねえ」
「うるさい! あんたの事なんて……忘れられる、わけ……あれからずっと……」
「ん? 俺たち会ったことあったっけ?」
「……マジで言ってんの?」
非難と軽蔑と、それから何故か少しだけ安堵が混ざった、そんな複雑な瞳で見つめられる理由は、光にはわからなかった。
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