イケメン仏様上司の夜はすごいんです 〜甘い同棲生活〜

24、トラブル

　広告掲載、そしてCMの放送日。

　敦美は駅地下街に来て、最終チェックをしていた。あまり広告掲載時には立ち会わないのだが、今回は最後まで見届けようと朝早くから現場に来ていた。しかし。

「え……これ、色が違う」

　背景は白に近い淡いクリーム色にしたはずなのに、何故か灰色になっている。どうしてこんな色になってしまったんだ。いや、原因はいい。とにかく修正しなきゃ。

　幸いにしてポスター広告なので修正したものを差し替えることが出来る。

　この掲載は十一時。同時にCMが街頭モニターから流れ出す。今は九時半だ。会社まで電車で約二十分。帰って修正して、印刷し直してもらって……。やばい。時間がない。間に合うかな。いや、間に合わせなきゃ。

「すいません。この広告一旦掲載するの待ってもらっていいですか。配色が違うのに気づいたので、作り直して来ます」

　すると印刷会社の設置担当者の山内が顔を顰しかめる。

「は？　どうしてもっと早く気づかなかったんですか。それに、今から直しても十一時には間に合わないでしょう」
「絶対に間に合わせます。絶対に修正したものを持ってきますから！！　だから、申し訳ないんですが、作業を一時止めてもらってもいいでしょうか？」
「……はあ」

　必死に頭を下げる敦美に、山内はぽりぽりと頭を掻いた。

「参ったなあ……。まあ、そこまで言うなら……。ちょっと作業ストップ、ストーップ！」

　一体どうしたのだろうかと、下準備していた作業員の手が止まる。

「ありがとうございます。すぐに戻ります！」

　そう言って敦美は会社に戻った。


　＊＊＊


　慌ててオフィスに駆け込んできた敦美に、異変に気がついた向井が「どうした」と声をかける。

「あ、掲載する広告の背景の色が間違ってて、修正して印刷しなおすんです」
「……」

　すると向井は敦美の近くにおいてある受話器を取って、誰かと会話し始めた。

「あ、すいません。R＆Dのデザイナーの向井ですが、久山さんいますか？　あ、久山さん、急ぎで申し訳ないんですけど、印刷をお願いできませんか？　はい。今日掲載する広告の修正が入ったので……て、もう、そんなにも怒らないでくださいよ。今度奢りますから」

　印刷会社で今回の担当をしてくれている久山さんだ。修正するので頭がいっぱいで連絡するのをすっかり忘れていた。

「向井さん、すみません。ありがとうございます」
「ああ、いいよ。久山さんと俺、仲いいから。あの人、奢ればちょっとの無理でも聞いてくれる。って、修正、終わった？」

「はい。今終わりました」
「じゃあ、これ貸しな。ま、困った時は先輩を頼れよ」

「はい。ありがとうございます。データを久山さんに送ったので、これから印刷会社に行ってきます」

　時間は十時十五分。間に合え。


　＊＊＊


　時刻は十時五十分。

「遅いなあ……」
「どうしますか、山内さん。このまま待たれます、よね？」
「まあ、待たなきゃいけないだろうな」　

　そわそわしている作業員を見ながら、山内は腕を組む。CM連動企画なのでこちらの作業が遅れるのはまずい。そんなことを思いながら、来るであろう方向を見つめていれば、遠くから走ってくる女の人が見えた。白い筒を持って爆走している。

「お待たせしました。こちらが修正版です！！　本当にすいません！！　よろしくお願いします！！」

　ぜえぜえ、はあはあ言いながら手渡された広告を確認後、山内は号令をかけた。

「よし、作業開始だ！！」