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14、やる気スイッチ

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 週明けの月曜日。

「ねえ、敦美!! 中村さんと付き合ってるって、ホント!? すごい社内で噂になってるよ!」

 出勤すると同時に菜津子に聞かれた。早い。早すぎる。

「……え、うん。付き合う事になった」
「うわ、すご! え? てか前の彼氏は?」

「あー……、その人には振られたんだ。それで……まあ、色々あって智紀さんと付き合う事になったんだ」

 さすがに変態に遭遇して襲われそうになった事は言えない。

「へえ……! そっかあ……! あんなにも好きだったのに、振られたのは悲しかったね。まあでも、仏をゲットできたから、結果オーライじゃんっ」
「そ、そうだね」

 バシバシと背中を叩かれて痛い。

「まあ、でもそっかあ……! ついに仏をゲットしたかあ……。ま、確かに仏も敦美の事気にしてる様なそぶり合ったし、そうなるのは時間の問題だったしね。ま、とりあえず、おめでとう!」

 菜津子は観察眼が凄い。よく周りと人の表情や仕草を見ていると思う。というか智紀にそんなそぶりがあったなんて、敦美は全く気づいていなかった。

「あ、ありがとう」

 それにしても菜津子は敦美の報告に嬉しそうだ。他人の幸せを手放しで喜べる人は本当にいい人だ。それに比べて……。チラッと見れば向井と目があった。絶対にあの人だ。あの人が言いふらしたに違いない。

 向井さんは口が軽いからなあ……。あの時言わなかったらよかったのかな?

 ふとそう思ったが、会社内で知れ渡ることはプラス面の方が多いのかもしれない、と考え直す。

 私と智紀さんが付き合っているということを職場の人が知れば、智紀さんを私から奪ってまで付き合おうと思う人は余程じゃない限り現れないだろう。そもそもそんなにも肉食すぎる人はこの会社にはいない。……と思う。だから、早々に智紀は人のものである認定をされた方がいいのだ!

 向井さん、ナイス! と一応心の中で感謝しておこう。

 しかしながら、智紀は会社内にファンが多いと聞く。他部署の人から嫌がらせはされないだろうが、嫌味は言われるかもしれない。

 でもそれってイケメンで人気な彼と付き合う上で宿命みたいなものよね。

 他部署で美人ともてはやされている、智紀さんとお似合いだとまで周囲に言わしめた女の人が目の前に現れて『あなた、中村さんと付き合ってるんだっけ? え、ぶっちゃけ釣り合わないんだけどw』みたいな展開になったりして?(少女漫画読み過ぎ)

 でも流石にそれはベタ過ぎよね……。

 そんなコメディめいた事を考えていたらついつい笑ってしまう。おまけに智紀と付き合っているという実感が湧いて、変にニヤけてしまう。

「こら須藤、浮かれずに、ちゃんと仕事しろよ」

 向井にノートで頭をぽこんと叩かれてしまった。

「は、はい……」

 変な事を考えていた事がバレたのだろうか。

 だめだめ。ちゃんと仕事しなきゃ。智紀さんに見合う女になるのよ、敦美!! 美人でも何でもかかって来い!! 返り討ちにしてくれる!(実際にそんなことは出来ない)

 そう考えたら、俄然やる気が出てきた。敦美はパソコンを立ち上げ、メールチェックをし始める。

「特には何も来てない、かな……お?」

 クライアントからのメールが入っている。

「先週依頼した広告の件ですが、他社さんにも依頼させていただいております。どの広告がいいかはこちらで選考して決定したいので、水曜日までには案をご提出ください……」

 ピエール製菓専門学校からのメールだ。ここは日本でも有名なパティシエの専門学校で、パティシエを目指す人なら知らない者はいない(らしい)。

 そして日本のコンテストの学生部門での優勝者を過去何度も輩出してきた、コンテストの強豪校ともいえる。

 これはまさに、広告のコンテスト……。負けるわけにはいかないわね!

 変な競争心に火がついた敦美は、送られてきた資料を元に一度考えていたデザインの構想をもう一度練り直すことにした。
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