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守護精編
33(ブリジット視点)
しおりを挟む流水に呑み込まれたブリジットは少し流されたが、それ以上流されないように近くの岩に手をかけた。
暫くその場で耐えたあと、ゆっくりと立ち上がる。
ここは海の底。
つまり私のマーメイドステージ。
天からの差し込む光はスポットライト、自身の輝きはアイドルであるが故の輝き。
ああ、私のコンサートが始まる……!
「ズンズンズンズン、ドドドドドドドド」
ブリジットがいきなりリズムを刻み出した。
何だこいつは、そう思ったヴィクターは早々にブリジットを潰してしまおうと、スカルに行けと命令を飛ばす。
「私が、私のために作った、応援歌。この応援歌が誰かを応援できるなら、とても嬉しいです。聞いてください、『MIRAI』」
スカルは透明のため見えない。けれど、何かが近づいてくる感覚がわかったブリジットはナイフを手に笑う。
「♪小さな小さな勇気、小さな小さな夢。その世界を夢見た、あの日あの頃の私。今でも心の中にある」
水圧が腹部にかかる瞬間体を捻れば、スカルの拳に吸い寄せられた水の流れに従って体が回転する。
追撃をバク宙で避け、スカルから距離を取る。
どこにスカルがいるのか見えないのなら、見えるようにすればいい。ブリジットはナイフに力を込めた。
「♪生きる意味を失って、この世界が無価値だと思えた。涙の海に沈んだ夜を繰り返す」
ブリジットは思いっきりナイフで腕を切った。
血が水中を漂い、こちらへ攻撃しようとするスカルに付着してゆく。
攻撃をよけつつも、自身で切った腕を振り続ける。
すると、徐々にスカルの姿形が見えてきた。まるで水のゴーレムみたい。
「♪それでも目を凝らして、自分に問いかけてみて。照らしているモノが必ずあるから」
スカルの拳を避け、ナイフを振るう。
胴を真横に分断したが、水の姿だからかすぐに傷は元に戻る。
だからナイフで斬りつけても、スカルは死なない。拳を何度も振るってくる。
さあ、一体どうやって倒せばいいのかしらね?
スカルは上半身だけを回転させて渦を生み出した。
これだわ、と閃いたブリジットはその渦の中へ思い切って飛び込んだ。
「血壊の乱舞!」
渦は辺りの水をどんどん呑み込んで大きくなり、ブリジットの血で真っ赤に染まってゆく。
まるでとぐろを巻く蛇のようで、赤い渦は不気味だ。
「♪決められた道はなくて、ただ、信じればいい。自分を、未来を、夢を。壁なんてない。目に見えないものは自分が作り出しているだけの幻想で。過去の自分に勝たなくてもいい。だって、過去の自分も未来の自分も全部自分だから」
歌が、響く。
突然、渦が弾けとんだ。
そして渦の中心にいたスカルがヴィクターのところへ一直線に突撃してゆく。
ごう、と拳がヴィクターを狙った。
「……?」
ヴィクターはなぜスカルが自分を攻撃してくるのか理解できなかったが、面白くなさそうに拳をひらりと避けて、スカルを破裂させた。
目の前が泡で覆われる。
「この技、私の血が全身に付くことでスカルを操れるのよ? マジックみたいで面白いでしょ?」
その泡から出てきたブリジットが勢いよくヴィクターにナイフを振り下ろした。
「♪ゆっくりでいい。俯かないで、前を見て。気づくはず。誰にも無い輝きが、自分の中にある事を」
凄まじい速さでヴィクターを切り刻もうと狙うブリジットに、ヴィクターは無表情で刃を弾き返す。
その刃はどうにも切れ味が悪そうだ。
しかし刃のぶつかる衝撃波で、ブリジットは頬を切る。
「♪夢への階段は、自分の心が誰かに届くこと。MIRAIへ届くこと」
刃を突如長くし、ブリジットは胴を裂こうと横なぎに振り抜いた。
「うるさい、黙れよ、人間が!」
「あぐっ!!」
刃はタイミングよく弾かれてしまい、ヴィクターの刃がブリジットの心臓のすぐ横を貫通する。
切れ味の悪そうに見えた刃の切れ味は、かなり良かった。
自身に剣が突き刺さったまま、ブリジットがナイフを振ろうとすると、ブリジットは水の玉に包まれてしまった。
動けないように玉の中はどんどん圧縮されてゆく。
「う……」
ブリジットは全身を押しつぶされて、息ができなくなってきた。
何とかして水の玉から逃れようと、手足をばたつかせたり、ナイフで切り裂こうとしてみるが、その玉は伸びるため簡単には破ることができない。
「お前は海の底で死ぬんだ」
「あ……う」
このままでは窒息死してしまう。
どうすれば……。
体がミシミシと嫌な音を立て始め、意識が朦朧とする中で考え続けるも、いい案が思い浮かばない。
時間稼ぎをしても恐らく助けはこないだろう。それに時間を稼げるほど体力が残っていない。
再び抵抗しようとすると。
「さっさと死ね!」
突如胸にささっていた剣を引き抜かれ、幾度となく突き刺されてしまった。
「あう……」
避けることなどできず、ブリジットは限界を迎えて意識を手放してしまった。
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