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守護精編

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「……そうか。んー、俺はいいアドバイスはできねえけど……。あ、そういえば、前にここに来た誰かが、力をコントロールをするためには、まず長距離を走っている感覚を身につける必要があるんだって言ってたぜ?」

「長距離?」

「ずっと力を使っているような感覚なんだと。それに慣れると、力をコントロールできるようになって光の力を使っても体が疲労しにくくなるとか」

「へえ……」

「まあ、聞いた話だけどな。俺も聖域で光を絶えず放出してるから、普段は体に負担とかないし気にはならん。それは精霊と人間の違いかもしれないけどな。でもな、この前ここが闇染めされたときに、俺は抵抗するのに力をかなり使った。その時に思ったんだがな、力を使うのにゼロか百かっていう力の使い方をすると、体にかかる負担は相当大きかったし、光の力にムラがどうしても出来たんだよな。光の力は強ければ強いほうがいいと思われがちだが、そういうわけじゃない。闇を浄化できる光の力に、量ってあるんだよ。知ってたか?」

「そうなのか」

「そうなんだよ。その量は詳しくはわかんねえけどな。でも人間だって精霊だって感覚でやってるから、頭ではそんな量なんて考えねえんだろうな。俺も考えるのは好きじゃねえから、んなこと考えねえけど。サラも直感で動くタイプだろうから、そんなの考えたことなかっただろ。でも、それがわかって浄化をしてる人間はたぶん祈祷師とかじゃねえのかな?」

「へえ……。そんなこと、考えたこと無かった……」

「だろ? だからな、ずっと一定の力を放出している方がなぜか疲れねえんだよ。戦闘の時とかは、その一定の力から増減をしていくことで、疲労度って結構違ってくると思うぜ」

「なるほど……」

 浄化をするのに光の力の量が関係する。

 確かに言われてみればそうだ。

 微量では浄化できない。

 サラはつねにフルパワーで浄化と特殊攻撃をしていた。

 でもそれではムラができていたってことか。

 つまり、効率よく攻撃や浄化ができるようになれば、特殊攻撃が何回も打てるということか。

 確かに前王――グライデンは特殊攻撃を何度も打っていた。

 かなりの光の力で。

 それは光の力をコントロールできているからこそなのだろう。

「自分の光の力を感じていれば、相手の闇の力の大きさも感じれるだろ。そのピアノからは闇の力なんて感じないと思うけど、光の力を感じながら、ピアノを磨いてみろ」

 サラは「わかった」と小さく頷いてピアノに向き合う。

 祈祷師はずっと力のコントロールをしているらしい。

 一体どうやって。そこでふとサラは思いつく。

 それは光脈があるからじゃないのか、と。

 そういえばアンジェリカは光脈を使っている意識なんてないと言っていた。

 もしかしたら祈祷師は幼少期から使うことで、日ごろからにある一定の光の力が体から放出されているのではないのか。

 血液の循環など気にすることなどできない。

 それと一緒なのではないのだろうか。

 初めは意識していなければ一定の光の力を放出するというのは難しいだろうが、慣れてしまえば意識しなくても出来るようになるのではないのか。

 よし、やるぞ。

 サラは体全体に集中させる。

 光脈を感じて。

 すると体全体に熱いものが駆け巡り始めたのを感じることが出来た。

 おそらくこれが光脈。

 光脈を途端に感じれば、自分の体全体が淡く光る。

 するとピアノに触れているところが急に冷たく感じた。

 まるで氷のように。つまりこのピアノは光に包まれていないということ。

 光は温かいのだ。

 それはもう既に知っている。

 けれど光でも光脈を使うときとアルグランドと共に力を使うときの光の感覚が違うことに気がつく。

 光脈の光はどちらかというと丸く包むような感覚で、アルグランドと共に使う光は鋭くとがっているような感覚なのだ。

 つまりピアノを光で磨くということは、尖っている光の力では傷がつくということか。

 サラはそんなことを考えながら集中する。

 するとピアノもサラと共に光に包まれる。

 優しく温かい光だ。

 ピアノの奥の奥までこの光で満たそう、とサラがピアノに触れると。

 触れたところからパアアと羽が飛び散るように光が走ってゆく。

 ピアノの中も、外も。

 見る見るうちに透明度が増して、きらきらと輝きだした。

 そこにピアノがあるのか無いのかわからないほど恐ろしいほどに透明で、美しい。先ほどまでのくすみが嘘のようだ。

「おい。今の……鳥肌たったぜ」

 ギルが目を真ん丸くしてピアノを眺めている。

 感動しているのか、若干目が潤んでいる。

「できたな……。ギルのおかげでコツも掴んだし、ありがとう」

「コツを掴むのが早えな。お前、センスの塊かよ。さすが光の愛娘だな」

 ギルはピアノに触れて、感嘆のため息をもらした。

「というか礼を言うのは俺の方だ。綺麗にしてくれてありがとう」

「いいんだ、それくらい。じゃあ、私は次の聖域へ行くことにする」

「ああ、サラならきっと全員の承諾を得られるだろ」

「ありがとう」

 サラが美しくなった聖域を背に、その場を去ろうとした直後。ぬ、と目の前に黒い物体が現れた。

「うわ、いらん訪問者来たああああああああああ!」

「何だ!? スカルか!?」

 サラは剣を構えてギルを庇う様にして立つ。

 すると目の前の黒い物体はどんどん人のような姿を形作ってゆく。

 歪な顔が不気味に笑っていた。

 せっかく綺麗にしたのに! というギルの叫び声を背で聞きつつサラはスカルへ向った。

 剣を振り下ろした直後、歪な剣がサラを跳ね返す。

 物凄い勢いで振られた剣からは風が生み出され、サラは壁に吹き飛ばされた。

 サラは壁にぶつかる前に体勢を立て直し、壁を蹴る。

 スカルは剣を振るってサラを追いかけるように追撃を打ち込んだ。

 サラが避けるごとに壁や床に傷が無数に入ってゆく。

 傷が入ったのを目にしたギルがショックのあまり姿を消したのを横目で見ながら、サラは攻撃を剣で叩き弾いた。

「チッ」

 確かにせっかく綺麗にしたのにな、という思いは確かにあるがスカルが出現したのでは仕方がない。

 サラが大きく踏み込もうとした時、スカルが背後から袈裟懸けに切られた。

「ぐああ……」

 スカルの背後から姿を見せたのは上官騎士のジャイルズだった。

 剣を構えつつサラへ視線を向ける。

「フレデリックから聞いた。お前は他の聖域に行け。後は俺に任せろ」

「だが……」

「こいつが闇の使者かどうかは知らないが、俺はこいつを倒す。お前は優先順位を考えろ」

「……わかった」

 スカルはサラともジャイルズとも距離を取るように飛び退った。

 その時を狙ってサラは聖域から駆け出す。

 サラと入れ替わるようにしてジャイルズは一気に間合いに入り込むように距離を詰め、思いっきり剣を振り抜いた。

「終わりだ……!」

「ぐ……!」

 スカルは身を裂かれたにも関わらず、なぜか歪むようにして笑っている。

 一体どういうことだろうか。

 すると裂かれた部分から脱皮するように表面が剥がれ、中から人が姿を見せた。

 かなり厚みのある表面だったのだろう。

 中身の人間には全くダメージが当たっていない。

 どしゃ、と脱ぎ捨てられるように表面がすべて床に剥がれ落ちた。

 途端にまがまがしい闇の気配が一気に濃くなり、聖域全体がくすんでゆく。

「ジャイルズ……」

 殻から出てきた人物の姿を見たジャイルズが頬を強張らせた。

「……兄さん」

 兄さんと呼ばれたスカルが歪むほど笑った。
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