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北都市編 前編

9(リリナ視点)

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「はああああああ!」

「当たれ!」

 リリナとリオはコーネリアの顔面に向かってケーキを投げた。

 ひゅん、ひゅん、とケーキがコーネリアに飛んでいくが、こちらに気が付いたコーネリアにひょいっと避けられて、ケーキはべしゃと屋根に落下した。

 無残につぶれたケーキを呆然と眺めること数十秒。

「……お菓子を粗末に扱うあなたたち、死刑」

 ぎろり、と睨んだコーネリアは、お菓子の杖をこちらに向けてビームを発する。

 けれど建物に隠れれば、ビームを回避することができた。

 リリナたちは家を盾に、空から降ってくるケーキを掴み、それをコーネリアの顔面に当てて、正気を取り戻そうという作戦を考えついたのだ。

 妙案を考えついたのはいいものの、まず空から降ってくるケーキを掴むのが難しい。

 手の中でつぶれてしまうケーキは投げる分量などないに等しいからだ。

 ではどうするのかというと、木々や家に使われている表面のウェハースを使って受け皿を作る。

 それを手のひらに持ち、空から降ってくるケーキをうまいことキャッチするのだ。

 失敗すれば衝撃でつぶれたケーキをかぶり、自分はケーキまみれになるだけ。

 家や木々からお菓子を剥ぎ取って投げることも考えた。しかしスポンジ部分が思った以上になかったので、投げるのには不向きだった。

 ケーキキャッチを何度か試みた結果、リリナは静電気を発生させて、落ちてくるスピードを調節して皿に受け止めるというやり方が一番うまくいくことがわかった。

 コーネリアのビームでお菓子を飴細工にしてそれを投げるのはどうかということを検討したが、飴細工が思った以上に硬いため、それでは受け止める方も投げられる方も失敗すれば怪我を負うだろうという意見にまとまった。

 コーネリアから隠れながらするというなかなか難しい作戦だが、何もしないよりはいい。

 それに入り組んでいる街路には、隠れる場所がたくさんある。

 そのため、こちらがビームに当たる確率は下がるし、時間は稼げる。

 そして家の角の死角から二人で狙えば、いつかは当たるだろう、と考えたのだ。

 試行錯誤を繰り返し、お互いケーキまみれになりなが激闘を繰り広げていた。

「やあ!」

 路地裏に駆け込んだリリナは、後ろから追いかけて来ていたコーネリアへ向かってケーキを投げつける。

「……甘い」

 しかし、バビュン、とビームが迸り、ケーキは瞬く間に飴細工と化してゴンッと地面に落下した。リリナはコーネリアの背後にいるリオに視線を送った。

「今だッ!!」

「何っ!?」

 振り向き様のコーネリアへ背後から思いっきり投げたリオ。しかしコーネリアは見事にケーキをかわしてリオへビームを放った。

「やば!」

 リオは即座にバク転するかのように体を逸らす。避けられたかと思いきや、ジュ、と顎だけが飴細工と化した。

「くぅっ!」

「終わりよ」

 ビームがリオを襲う。リオは必死に避けて路地から抜け出し姿をくらます。

「逃がさない」

「えい!!」

「!?」

 リリナがいつの間にか家に上り、コーネリアの頭上から狙った。気配に気づき、振り仰ごうとした瞬間、コーネリアを捉えた。

 美しい軌道を描いたケーキが、顔面に吸い寄せられるように飛翔。
 
 べしゃあ、と勢いよくコーネリアの顔面にぶつかったのだ。本日何度目かの投擲とうてきでやっと成功した。

「やった!」

「おおおおお! リリナちゃん、やるう!」

 もはやゲーム感覚で本来の目的を忘れている二人は、喜びのあまりハイタッチをした。

「おいこら、二人ともなにテンション上がってんだ。それに眼鏡! 俺のリリナにさりげなく触れるんじゃねーよ!」

「いや、難しいミッションにクリアしたら、お互いハイタッチするのが常識でしょ」

「何ぃ? 調子乗ってんじゃねーぞ、こら!」

「もう、いい加減にして! コーネリアさんは正気に戻った!?」

 リリナはその場で固まっているコーネリアを注視した。

 コーネリアは何が起きたのか状況を把握しているのかもしれない。

 彼女はしばらく沈黙していた。

 そしてゆっくりと、自分の顔に付いているものを拭った。指についたケーキをぺろりと舐める。

 ゆっくり息を吸って、ため息を吐くように呟いた。

「…………美味しい」

 すると堰が切れたように無心で自分の顔に付いているケーキを食べ始めたではないか。

「おーい! コーネリア! 元に戻ってよかった……」

「本当によかった……!」

 二人はコーネリアの方へ向かう。その姿を目に留めたコーネリアは少々首をひねった。

「……一体ここはどこ? どうして私はケーキをぶつけられているの?」

 どうやらコーネリアは本当に正気に戻ったらしい。

 今の状況がいまいち呑み込めていないようだ。

 それもそだろう。気がついたら顔面にケーキがついているのだ。意味不明だ。

「ここはどうやら夢の世界らしい。で、コーネリアはパイ投げをする夢をみていたんじゃないのか?」

 適当に伝えるリオに、コーネリアは別段納得する様子もないが疑う様子もない。

 興味なさ気に「……ふーん」と生返事。

 ところが熱心にケーキを食べている。

 どうやら相当お菓子が食べたかったらしい。一件落着、と言いたいところだったが。

「そういえば、ザグジー先輩は元に戻ったんでしょうか?」

「あー……そうだね」

 テカテカの飴になっちゃったからね、とリオはぽりぽり頭を掻いている。

 ザグジーと合流した後、これからどうすれば元の世界に戻れるのか、考えないとなとリリナが思っていれば。

 何やら、ゴゴゴゴゴゴゴと地面が揺れ始める。

 この感覚……!! 元の世界に戻れるかも……!?

 しかし何だか息ができない。首を絞められているような、口や鼻に何かを詰め込まれているような。

 そんな感覚に三人は襲われた。
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