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北都市編 前編

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「……グレイフォルスト、いくよ」

 コーネリアが呼んだ瞬間、そばに控えていたライオンが咆哮を上げて武器に変化する。

 彼女の手には長い柄。柄頭には球形が付いており、幾つもの刺が放射状に突き出ていた。

 重そうな武器の頭が地面にゴン、と激突。ガラス質の地面に深く突き刺さった。

 そんな攻撃性の高い武器を手に、コーネリアは駆ける。

 目の前を立ちふさぐ馬型のスカルの足をもぐように、武器を地面ギリギリで振り回した。

「死んで」

 タイミングよくジャンプできなかったスカルの足がコーネリアの武器によって抉られてゆく。

 横たえたスカルに慈悲もなく鉄槌を落そうとするが。

 抉れた四本の足からそれぞれ個体が生み出されて、四体のスカルになった。

 途端にコーネリアはスカルに囲まれてしまった。

 一体に体当たりされ、コーネリアは体勢を崩す。

 もう一体がコーネリアの腹を踏みつけて身動きを取れなくする。

 残りの二体が噛みつかんと口をかっぽり開けた。

 何という連携プレーか。

「く……」

 身動きの取れないコーネリアが、唇を噛んだ瞬間。

「スージィ」

 上から降ってきた二本の剣が、コーネリアを襲おうとしていた二体のスカルの首を斬り落とす。

 コーネリアを避けるように地面に突き刺さり、次いでリオが舞い降りた。斬りおとしたスカルの頭が落ちる間際、リオが一つをタイミングよく蹴り上げた。

 見事にコーネリアの腹を抑えていたスカルの胴に激突し、その衝撃で体が傾ぐ。

 その背後にいた攻撃しようとしていたスカルとぶつかり、二体はもつれるようにして地面を滑っていった。リオは双剣を手に戻して滑って倒れた二体の息の根を止めるかのごとく腹を突き刺す。

 華麗なる攻撃動作はほんの一瞬で、あっという間に二体は絶命した。

「コーネリア、油断したな」

「……してない。増殖するなんてわからなかっただけ」

「ま、そうだな」

 リオがコーネリアを立たせていると、リオに首を斬られたスカルがこちらへ向かって突進してきた。

「こいつ、まだ動けんのかよ。つーか頭ないのにどうして僕らの位置がわかるんだよ」

 迎撃体勢をとったリオ。だがその必要はなかった。

 ドン、と重々しい音が響いたかと思えば、スカルが二体とも吹っ飛んで地面を滑って行ったではないか。

 物凄い怪力に眉を寄せた二人は、その正体を捉えた。

「……ザグジーさん、どうも」

「いや、いいっすよ! とにかく早いとこ片付けましょうや!」

 リオに斬られた頭から増殖した二体と、コーネリアに足を抉られたスカルがゆらりと立ち上がる。

 増殖したスカルといつまで戦うんだよ、とリオはうんざりした。スカルは興奮しているのかフーフーと鼻息が荒く、リオたちを踏み潰そうと立ち上がった。

 けれど命短し。

 その三体の脳天を弾丸が貫いた。あっけなく消えてゆくスカルの背後から姿を見せたのは。

「援護は任せてください」

 銃を構えたリリナだった。

「リリナちゃん、ありがとう」

 口元がにやついているリオに、ラルクが元の姿に戻って牙を剥く。

「お前のためじゃねえええええええ!」

「は?」

「やんのか、コラ? 眼鏡、コラ?」

「ちょっと二人とも、今はそんなことしている場合じゃないでしょ!」

 ぴしゃりと叱られたラルクとリオはむすっとして「すいませんでした」と謝る。

「どうやらこのスカルたち、体の一部を切断すると、その切れた部分から傷が修復されて分身ができるみたいっすね。他のスカルも同じみたいっす」

「……なるほど、ただ単に増殖しているわけじゃないと」

 ザグジーが指をさした方向には、斬られたスカルの断裂面から傷が修復され、同じ個体が複数体出来上がった個体がいた。

「確かに。分裂は駄目そうですね」とリリナが頷く。

「串刺しして殺すしか方法がない、って感じか」とリオ。

「……じゃあ、なぶり殺す」

 無表情で呟いたコーネリアに、その場にいた皆の背筋が凍った。

「「「怖っ!」」」


 ✯✯✯


「ねえ、あたくしつまらないわ……」

 結界の向こう側で楽しく遊んでいるスカルたちを眺めながら、命の木を闇染めしているキャンヴェルが愚痴をこぼす。

「知らない」

「ねえ、あたくし」

「うるさい」

 はあ、退屈。

 闇染めはとても心躍ることだけれど、時間がかかりすぎてつまらないわ。

 外ではあんなにも遊び道具がたくさんあるというのに。

 ああ。

 遊びたいわ。

 美を保つためにはストレスは厳禁なのよ?

 はあ……。

 だめ。

 体がうずうずしちゃう……。

 全く闇染めに集中できていないキャンヴェル。

 それを感じ取ったヴォルクセンは深いため息をつく。

「遊んでくれば」

「え!?」

「ここまでくれば後は僕だけで十分。邪魔だからとっとと行け」

「あふんっ。素直じゃないのねえ」

 ヴォルクセンは妖艶に笑うキャンヴェルの方を向かない。

「きもい。変な奇声あげるな」

「ええ? いいでしょう? お子様にはあたくしの魅力がわからないのね」

「うざい。というかあいつらのせいで闇染めのスピードが落ちてる。ホント邪魔だから、全滅させて」

「うふふふ。わかってるわ」

 すう、と結界からキャンヴェルが出る。

 スカルを殴る音。

 切り刻む音。

 人間の叫び声。

 でもそのすべてが雑音。

 血なまぐさいことなんて美しくないわ。

「あたくしが甘美な夢をみせてあげる」

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