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故郷編
6
しおりを挟む小さな広場の先に森に囲まれるようにして建っている小さな聖堂。
その前に人だかりができていた。
しかも何かざわついているようで、サラは不審に思って近くで眺めていた老人に訊ねる。
「何かあったのか?」
「祈祷師様が誘拐されたらしいんじゃ……」
「は?」
もしかして、サラの言葉を真に受けたカイが想いを寄せていた祈祷師を攫ったのだろうか。
何やってんだ、あいつは……。
小さくため息をつくと、隣にいたエスティが「なかなかやりよるのお」と感心していた。
「……感心している場合じゃないだろ。これ、大問題なんじゃないのか?」
「まあ、そうじゃろうが……どこへ行ったのか見当がつかんから、捜しようがないじゃろう?」
もっともなことを言われ、サラは「そうだな」としか頷けなかった。
にしても王族騎士の慌てっぷりが尋常じゃない。
子どもが祈祷師を誘拐したのなら、そんなにも遠くに行けるはずはないし、すぐに捕まえることができるだろう。
それでも見つけることができないとなれば。
隠れるのが上手いか、追手を巻くことができたか、だ。
しかし、祈祷師の協力がなければそれは不可能だ。
祈祷師が抵抗すれば王族騎士にただちに取り押さえられる可能性が高いからだ。
攫う、などできやしないだろう。
なのに姿を見つけることができない、となれば。
何かおかしい。
「おい、誰が祈祷師を攫ったんだ?」
老人に聞こうとすると。
「黒いローブを羽織った男だよ」
背後から耳をくすぐるような声がした。
サラが振り返れば、そこには王族騎士のシリウスが苦い顔をして立っていた。
「黒いローブを羽織った男だと!?」
あいつしかいない。
これは誘われている。
あの場所へ、こい、と。
サラはギリッと歯ぎしりする。
今の私ではどうすることもできない。
でも、祈祷師を見殺しにするわけにはいかない。
「君、心当たりがあるみたいだね」
「……ああ。奴がどこにいるのか、大体検討がつく」
「なるほど。じゃあ、僕をそこに案内してくれない?」
「は?」
「一緒に護衛できていた他の騎士はこの街にちりじりになって探しているし、他の祈祷師の護衛もしている。今動けるのは僕しかいないんだ。案内してくれたら、あとは僕が片付けるから。さあ、早く案内して」
にこやかに笑っているが、目が全く笑っていない。
高圧的な笑み、そして相手は王族。
サラに拒否権はない。
あの場所には人を寄せ付けたくはなかったが。
サラが躊躇っていると。
「あああああああ! マリア……! マリア……! 僕のマリアアアアアアアアアアアアア!」
血走った目でこちらへふらふらと歩み寄ってくる男がいた。
その男も純白の騎士団服――王族だ。
一体何なんだ、こいつは、とサラがドン引きしていれば。
「シリウス!」
叫ぶようにしてシリウスの名を呼び、思いっきりシリウスの肩を掴んで揺さぶり始めた。
「あああああああ! 僕のマリアがあああああ! シリウス! どこに行ったと思う!? 僕の愛しい妹は……!」
「……これから探しに行くから、君はきちんと他の祈祷師の護衛をしていてよ」
「あああああああ! 僕が妹を愛しすぎたから、どこかへ消えてしまったのか!?」
「いや、そういうことでは――」
「シリウス! わかっているんだ! マリアも僕をひどく愛しているから、きっとお互いに近くにいると意識しすぎて、マリアが苦しいんだ……! マリアは繊細な子だからね……! しかも、禁断の兄妹愛だから……! きっとそうだ!」
「え、あ、うん。そうだね」
「ああ……! マリアがいなくて寂しすぎて死んでしまう……! シリウス! 早く、早く僕のマリアを探してくれ……!」
「うん。わかったから」
「真面目に探してくれえええええ!」
「わかったから、探すから」
シリウスからは面倒くさいなあ、という雰囲気が醸し出されている。
「……君の大切な妹を探しに行くから、離れてくれないかな?」
「ああ……! そうだね……! 任せたよ……!」
そう言って、青い顔をしてまたふらふらと戻ってゆく。
一体何なんだ……?
あいつは……。
「すまないね。そういうことだから、早く案内してくれるかな?」
何かを言い訳にして拒否するなどできないため、もはや案内するしかない。
エスティに行ってくると伝えようとしたが、彼女の姿がどこにも見当たらなかった。
どこに行ったんだ、とサラは首を捻るも、シリウスに「早く」と催促されたので、サラはあの場所へ王族を連れて行くことになった。
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