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中央都市編

18(敵視点)

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 聖域が復活したせいで、スカルが消え去った。

 破壊された街を見下ろしながら、グラヴァンは深いため息をつく。

「中央の聖域を闇落ち出来なかったのは残念だけど、本当の目的はここじゃないから……まあ、いいとしよう」

 にしても、あの光の力と浄化能力……。

 私たちには相当危険だ。

 早々に潰すべきか。

 避けたつもりが、思ったほど深く傷が体に入っていた。

 少しだけ休息が必要か。

「あー知ってるヨ。今回の俺らは陽動だったんダロ?」

「向こうは順調みたいだね。……って君、知らないんじゃなかったのか?」

「いや、知らないとかありえないダロ!」とライヴンは驚いているが、別にこいつがノヴァ様の目的を知らなくても全然問題ない。

 ――私もだ。

 なぜなら、私たちはあの方のただの駒にしか過ぎないのだから。

 けれどあの方の意向は知っておかなければ、忠実な働きができないだろう。

 それを考えると、やはり駒は駒でも、意向は知っておくべき、か。

「演技に決まってるダロ! ペラペラしゃべる程、俺も馬鹿じゃないってことダゼ! やっぱ俺って天才!?」

「……いや、馬鹿なのは変わりないけどねえ」

「馬鹿って言った方が馬鹿なんダゼ!」

「はいはい。じゃあ、君はちょっと次へ行ってくれないか?」

「あれ? お前は? 行かないのカ? もしかしてサボり?」

「私は用事ができたんだよ。傷の回復も兼ねて、ね。それに、スムーズにあの方の計画をすすめるためでもある」

「ふーん……アッソ。まあ、俺は俺で今回はやりたいことができたから、次回に期待ダナ!」

「……そのない頭で何がわかったんだい?」

「ハ!? ない頭ダト!? 髪の毛は生えてるヨ!」

 どうして話が噛みあわないんだ、とグラヴァンは頭を抱えたくなった。

「…………そうだね。で? 失敗したんだろ? 一体何がわかったんだい?」

「あれは失敗じゃなイ! 一部を断裂されたら詰め込んだスカルが逃げ出すってことがわかったから、失敗じゃなイ!」

「はいはい。そうだね。ほら、さっさと行きなよ。じゃないと……目ん玉抉ろうか? とっても痛くて気持ちいいかもね。そのアホ面がいい表情を浮かべるだろうし」

「うげえ……。わかったヨ、行く行く」

 マジで気持ち悪いゼ、とぼそぼそ言いながらライヴンは姿を消した。

「……本当にうるさい奴だった」

 邪魔なんだよね。

 ああいうごちゃごちゃしゃべるタイプ。

 しかもいいところで邪魔するし。

 まあいい。

 これで心置きなく、ぞくぞくする戦いができる。

 抉った時の歪んだ顔と、苦しく喘ぐ甘美な吐息が脳裏によぎる。

 この手でできると考えただけでも、ぞくぞくする。

「くふふ。楽しみだなあ……」


 ✯✯✯


 ガラスでできたような木々たち。

 呼吸するたびに、青く淡く光る。

 角度によっては深い緑色にも見える。

 地面もガラスのような質感で、木々たちを映していた。

 迷い込めば、上も下もない感覚に包まれて、その森から出られなくなるだろう。

 そんな神秘的な森の中心には、一際目立つ木が生えていた。

 どの木よりも大きく、太く、生命力にあふれている。

 ひんやりとした空気の中で、ゆっくりと息をする。

 世界の中心と呼ばれる、この光の世界を支えている、命の木だ。

 光を生みだし、闇を浄化する。

 つまり、精石を生み出すいしずえ

 けれど、その美しい木の先端から、徐々に黒く染まってゆく。

 グラヴァンたちが中央を攻めている頃、キャンヴェルたちは北に来ていた。

「この木を闇に染めちゃえばいいんでしょう? 今、中央の聖域を潰しているところだから、この世界の闇への配分が少しは上がってるって考えてもいいのよね?」

「……」

 キャンヴェルの当たり前すぎる質問に、ヴォルクセンは答えない。

 闇にとって超絶邪魔な聖域は、闇に染まる、もしくは攻撃を受けている時、その聖域を守ろうと、他の聖域たちが光の力をその聖域へ送り込もうとする。

 つまり、光の力が一つに集中するため、力を送り込んでいる聖域の浄化能力が普段に比べて落ちるのだ。

 前回の南の聖域の闇染めもあり、今回は中央の聖域も攻撃を受けている。

 おまけに、こちらはノヴァ様も目覚めて闇の力が格段に強くなっているのだ。

 いくら強力な浄化能力を持つ命の木でも、さすがに闇の力を防ぎきれないだろう。

 不快な光が、この世界から消えてしまえばいい。

 キャンヴェルはそう思いながら、無反応なヴォルクセンに対し小さくため息をついた。

「まあ、いいけどお……。ねえ、邪魔されないように結界は張ったの?」

「……うるさ。もう結界は張り終えてる」

「ふうん、じゃあ、あとは時間の問題ってわけね」

 命の木が自身を必死に浄化しているため、闇染には時間がかかる。

 この透明感で、黒曜石のように美しく染まった姿を早く見てみたいわ。

 うっとりとして、キャンヴェルは上を見上げた。

 わずかだが、闇が浸透している。

 でも、じれったいと思うほどの速さ。

「はあ……。大人しくし染まりなさいな」

 キャンヴェルが、そ、と手を振れた瞬間。

 ピシッと幹に亀裂が入った。
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