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中央都市編

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 薄暗い、森の中。

 何かに呼び寄せられるようにして、まだ幼い私はおどおどしながら先へ進む。

『姉さん……?』

 ききききっ、と妖しく鳴く鳥が恐怖を掻き立てるが、それでも前へ進まねばと、サラはゆっくりと歩を進めた。

 しばらく薄暗い森の中を歩いていたら、古い碑石があった。

 そこだけ、空気が淀んでいるのを感じ、なぜか、胸がざわついた。

 ここには来てはいけないと、そう本能的に後退しようとした時。

『サラ』

 名を呼ばれた。

 辺りを見渡しても、声の主はいない。

 でも、その声は懐かしく、忘れるわけがない。

 姉――ルナの声だ。

 しばらくきょろきょろしていれば、碑石から黒い涙が溢れているのに気が付いた。

『!?』

 その碑石は、先ほどまでただの四角い石だったのに、女性の形をしているではないか。

 しかもその姿は姉の姿とそっくり。

 幼い私は急に怖くなって、助けを求めるように周りに視線を向ける。

 けれど、景色は先ほどとは全く違っていた。

 薄暗い森だったのに、全てが石化している。

 生命を宿していた木々も、動物も。

 何もかもが、息をしていない。

 黒色と灰色の、まるで色を失った世界だ。

 ひび割れた白く硬い石像が、黒い涙を流しながらゆっくりと立ち上がる。

『ひっ……!』

『サラ……あなたは……ここに来てはいけない』

 するとサラの足が同じように石化してくる。

 ぴきぴきぴき、と冷たくなってゆく。

 だんだんと呼吸ができなくなってくる。

『あ……あ……』

 助けて……。

『サラ……』

 ルナがサラの心の中を見透かしたように、優しく語り掛ける。

『サラ……』

 そっと、ルナがサラの頬に手を当てた。

 硬くて、冷たいのに。

 涙が溢れそうだった。

『……ごめんね』

 悲しそうに微笑む姉の表情を見て、サラはハッとする。

 急速に意識が、幼い頃のサラではなくなる。

 どうして。

 どうして謝るの。

 どうして、姉さんが謝るんだ……!

 私は、力を得たんだ。

 姉さんを助けるために。

 だから、姉さんは謝らなくていいんだ。

 私は、もう何もできないままじゃない。

 何か、出来るはずだ。

 目の前に姉さんがいる。

 やっと、見つけたんだ。

 急に石化の速度が上がった。

 胸のあたりまで一気に押し寄せる。

 考えろ。

 この石化を止めて、姉さんを助ける方法を。

『サラ』

 意識の中に語り掛ける、安心できる声。

 そうだ。

 アルと私の力でこの世界を浄化できれば……!

 できなくても、私と姉さんだけでも……!

 時間が、もう残されていない。

 たとえ自分の体が最大限に引き上げた光の力に耐えきれなくても。

『アル、行くぞ……!』

 サラはカッと目を見開いて、光の力を最大限解放した。

 体の芯から熱いものが駆け巡る。

 まるで熱を持った別の生き物が体の中を蠢いているようで。

 体が焼けきれそうだった。

 それでも力を止めることなどしない。

 そのせいで体が破裂しそうだと思った直後。

 ぱあん、と自身を包んでいた硬い石がはじけ飛び、サラは解放される。

 姉を石化から解放しようと手を伸ばすが、この世界からはじき出すようにサラの体が激しく飛ばされてしまった。

 どうやら、光の力が強すぎるサラはこの世界にはいられないらしい。

 どうして。

 姉さんが目の前にいるのに……!

 でも。

 ここが一体どこなのかはわからないが、サラは誓う。

『姉さん! 絶対に助けに来るから……!』


 ✯✯✯


 爆発的な光の力が、サラから放たれる。

 目を開けていられないような物凄い光量が空間を満たした。

 その光にかき消されるように、炎がずざああ、と消滅する。

「うお!?」

 バートルもウィルソンも目を手で覆う。

「なっ……! 一体、何なんダ!?」

 今まで傍観していたライヴンが後ずさる。

「ありえないね……。これじゃ、闇染めなんてできないよ」

 姿を消していたグラヴァンまでもが姿を見せた。

 闇に染められていた聖域は、完全には浄化できていないが自浄作用の機能を取り戻す。

 まばゆい光の中で元に戻ったサラはすう、と目を覚ました。

 私は、もとに戻ったのか……。

「……一体どういうことだよ?」

 バートルがわけわかんねえ、とサラを睨んでいる。

「中央長……どうしてここに……って、おいっ! ウィル! 大丈夫か!?」

 力尽きてバートルの後ろでぐったりとしているウィルソンにサラが駆け寄ると、「スカルになっていたてめえがやったんだろ」とバートルに鋭く言われた。

「……私のせいか……すまない」

「サラちゃん……よかった……。俺は……大丈夫だから」

「おい、心配してる場合じゃねえ。あいつら倒すぞ」 

「っしゃー! 来いヨ!」

「…………」

 ノリノリのライヴンに、ちょっと、とグラヴァンは声をかける。

「彼女の光の力は今かなり引き上げられている。危険だ、一旦――」

「逃がさねえぞ!」

 バートルがライヴンに向かって駆けてゆく。一気に間合いに入り込んだバートルが力の限り踏み込めば、ボゴ、と床がめり込んだ。

 思いっきり腕をしならせて剣を振り抜いた。

 空気を振動させた斬撃はライヴンの体を捉える前に、避けられてしまった。

「ユーの攻撃、ヨユーのテンポ」

 ラップ調でふざけながら、それでも確実にバートルの攻撃を避ける。

 バートルは攻撃を止めなかった。

 幾度となく切り伏せてゆく。

 そんな中、サラがグラヴァンの存在を目で確認しながらリプニーチェに声をかける。

「リプニーチェ、すまないがそばにいてやってくれ。私はあいつらを倒す……!」

「ええ、わかったわ」

 しっかりと頷いたリプニーチェがウィルソンのそばに寄り添った。

 それを確認したサラは「すまない……」と呟き、剣を構えて飛翔した。

 やれやれ、と剣を構えるグラヴァンに、サラは閃光の如く斬撃を打ち込んだ。

 繰り出す一閃一閃に、抑えきれない光がはじけ飛ぶ。美しく空間に散る光はこの聖域に幻想的な演出をもたらした。

「くっ……!」

 苦い顔でグラヴァンは自身の剣でサラの剣を受け止めるが、サラの力に負けて後退してゆく。

「勝負はまた今度にしよう」

「させない……! ここで倒す……!」

 剣と剣がぶつかり合った衝撃でお互いの髪を揺らす。

 鍔迫り合いになっていたところを、サラは思いっきり押し切った。

「くらえ……! 月光の刃ムーンライトブレイド!」

「しまっ……!」

 猛烈な光の刃が放たれた瞬間。

 光の力に体が掻き消える前に、グラヴァンとライヴンは姿を消した。

「ぐ……」

 途端、サラは地面に倒れ伏した。

 スカル化を浄化するために力を解放しすぎたせいと、今までにないほどの光の力で特殊攻撃をしたせいで、体への負担がかなり大きかった。

「おいおいおい、二人ともやべえな!」

 一人では運べないために、誰かを呼ぼうと無線をつなげた直後、ぱたぱたと足音が近づいてきたのに気が付いたのか、バートルは背後を振り返る。

「サラ先輩! スカルが突如すべて消えたので、先輩の様子を見に来ました……って、お二人とも大丈夫ですか!?」

「こりゃやばいっすね!」

 どうやらリリナとザグジーが一向に帰らないサラを心配して、応援に来てくれたようだ。

 バートルはリリナとザグジーの到着を確認次第、「二人を早く病院へ運べ!」と指示を出す。それからどこかへ無線で連絡をしていた。

「私は……大丈夫だ。それよりもウィルを早く運んでやってくれ」

「わかったっす」

 ザグジーがウィルソンを担いで、近くの病院へ急いで運んだ。

 運ばれている途中、ウィルソンは意識を失いぐったりとしていた。

 頼む。

 どうか、死なないでくれ。
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