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中央都市編

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「サラさん!」

 やっと現場に到着したザグジー。バーバラたちの姿もそこにあった。

 サラは今の状況とスカルの特徴を伝える。

「遅くなって申し訳ないわ」

「いや、いい」

「じゃあ、全員配置について」というバーバラの一声に、ステラは精霊のインコ、メイは精霊の羊に呼びかける。

 盾と槌を手にメイは、危うく棍棒で叩かれそうになるウィルソンを棍棒から盾で守る。

 ステラは槍を手に高く跳躍し、関節に出来る鎧の隙間部分を狙って鋭い刺突を繰り出してゆく。

「サラさんは一番動けそうだから、首を狙って頂戴ねえ。腕よりも細そうだわ。だから、首の継ぎ目を狙えば恐らく斬りおとせるでしょう。硬いかもしれないけれど、頑張って頂戴。首を撥ねれば、動きが止まるかもしれないわ」

「首……か」

 サラがバーバラに言われて首へ視線を向ければ、確かに腕等の関節よりも細く、だいぶ楽そうだ。

 けれど、首ももちろん鎧で覆われているため、攻撃はタイミングを見計らう必要はある。

「……なるほど。分かった」

「アタシとザグジーで胴を狙って、動きを止めるから」

「え!? 俺、姉貴と……?」

「当たり前でしょうがっ! 大好きな姉さんと一緒に戦えること、喜びなさいよお!」

「わ、わかったっす……!」

 びくびくと怯えるザグジーを横目に、リリナはおずおずと手を上げる。

「あの、私はどうすれば……?」

「そうねえ。リリナちゃんは物陰に隠れて、援護射撃を頼めるかしら?」

「……わかりました」

「大丈夫よ、リリナちゃん。無事に任務完了しましょうねえ」

 バーバラは安心させるように肩に手を置いた。

「はい……」

 弱弱しく頷くリリナは、ブサイクな猫を追いかけていたときのような覇気はなく、心配になる程顔が青白い。

 そんな姿に、サラは少しばかり引っかかるものがあった。

 けれど振り下ろされた棍棒に、思考が強引に切り替えさせられる。

 ずごおん、と響く音と爆風。

 攻撃が当たらなかったのは、バーバラが一人で棍棒を受け止めていたからだ。

 なんという怪力。馬鹿力にも程がある。

「んもう! 危ないわねえ!」

 ふんっ、と力の限り押し返せば、棍棒が勢いよくスカルの方へ跳ね返った。しかもその跳ね返った棍棒の動きが早すぎて、そのまま棍棒で自身の頭を激打した。

 そのおかげか、スカルは目を回したようで、突っ立ったままでふらふらしている。

「姉貴、や、やばいっす……」

「だな……」

「バ、バーバラ先輩……すごいです……」

 一同は唖然とバーバラを見るが、バーバラはどこ吹く風だ。

「アンタたちが、か弱すぎるのよお!」

 おほほほ、と笑っているが、バーバラ基準で考えられるのは困る。

 サラたちを普通だとすれば、バーバラはもはや人外なのだから。

 バーバラと比べれば、誰だってありんこ以下の力となるだろう。

 先ほどの腕っぷしを見れば、それぐらいの違いがわかる。

「さあ、今のうちよ!」

 棍棒がぶつかった衝撃でスカルの頭部の鎧がずれて、首のあたりがさらけ出されていた。

 毛むくじゃらの地肌。

 バーバラの掛け声を合図に、サラは駆けだした。

 鎧のでこぼこに足をかけて跳躍する。

「アル! 行くぞッ!」

 光り出した剣は獲物を捕らえるように、さらけ出された首を狙う。

 サラは力の限り剣を振り抜いた。

 スパアアン、と勢いよく首が飛ぶ。

 やったか、そう思った瞬間、断面からもやが溢れだしてきたではないか。

 なんだ……?

 訝し気に眉根を寄せた瞬間、スカルが勢いよく飛び出してきた。まるで押さえつけられていたものが解放されたかのように。

 サラはそのうちの一体に弾かれてバランスを崩す。

「なっ」

 サラは体を立て直し、地面を滑りながら着地した。

 もしかして、何体かのスカルがわざと一体になっていたのか?

 形を保つための、鎧だった……?

 確認するように視線を上げれば、鎧が崩れて、さらさらと塵となって消えてゆく。

 やはりそうだったのか……。

「どうやら、あの鎧は多くのスカルを一つの形にしておくためのものだったようねえ」

 バーバラが自分の方へ飛んできたデビル型スカルを殴って昏倒させる。

「そうみたいだな……」

 それにしても量が多い。

 まあ、これぐらいのスカルだったら、騎士がこの人数いるのだ。すぐに片付けられるだろう。

「じゃあ早いとこ、こいつらの掃除をするわよお!」

 バーバラの地響きのような掛け声に、皆が頷く。


 ✯✯✯


 おそらく巨人型スカルの元になったのだろう、その鎧を着たスカルが、サラの目の前にいた。

「汝、我ノ敵」

 ゆるりと剣を構えて、サラに焦点を当てる。

「望むところだ……ぶった切ってやるよ」

 サラも剣を構える。

 緊張で空気がピリつく。

 びゅ、と風が二人の間を通り過ぎた瞬間、剣と剣がぶつかり合った。

 剣と剣のぶつかり合う音はまるで音楽を奏でるように、リズミカル。

 鍔迫つばぜり合いになっても、力は拮抗。

 スカルに力強く押し返されバランスを崩し、切り伏せられても、サラは見事にバク転で華麗に躱す。

 お互いに隙がなく、激しい攻防は止まることを知らない。

 けれど先に集中力が切れたのがスカルだった。

 一発撃たれた銃弾が、鎧にめり込みそちらへ気が逸れたのだ。

 サラはそれを見逃さなかった。

 胴のつなぎ目に向かって鋭く刃を突き刺す――が、剛腕に弾かれできた隙に、回し蹴りを入れられてしまった。

 強烈な回し蹴りでサラは後方へ吹っ飛んだ。

 スカルは標的をサラから別へ向け、猛突進してゆく。

「なっ……!?」

 そう、スカルの標的となったのは陰から援護射撃をしていたリリナだ。

 怯えきってしまったリリナは、銃先が定まっていない。

「あ、あああああ……!」

 乱射するも、スカルには銃弾がかする程度。スカルは避けることなく一直線でリリナへ向かっていく。

 サラは、ずざざざ、と体が摩擦で擦れたが、すぐに起き上がり地を駆けた。

 あの状態じゃ、まともに戦えない……!

 でも、この距離じゃ間に合わない……!

 リリナに容赦なく振り下ろされる鉄の刃。

 サラはその刀を持つ手に向かって、思いっきり剣を投げた。

 ひゅん、と凄まじい速さで飛んだ剣は、見事にスカルの手に突き刺さった。

「アアアアアア……!」

 動きが止まっている間に、サラはすかさず足払いをする。

 スカルは見事に倒れ、サラは自身の剣を引き抜いてスカルの胴の隙間に串刺した。

「おい! 早く逃げろ!」

「あ……で、でも……」

「何を迷っているんだ!」

 リリナが戸惑っている間に、スカルにガシッと剣を握られて、物凄い力で押し返される。

「く……」

 剣はゆっくりと胴から引き抜かれ、スカルはゆるりと立ち上がった。

 こいつ、あの状態からよく立ち上がったな。

「汝ハ我ヲ倒セナイ」

 ギロッと兜の奥の瞳が光る。

 途端、スカルの手に自身の刀が吸い寄せられた。

 やばい。

 そう思った瞬間。

 肩に痛みが走った。

 鋭く刺突された刀が、サラの肩を貫いたのだ。

 こいつ……ダメージが全く効いていない……?

 それに、もう一撃が来る……!

 スカルに剣を握られている限り、サラは自分の剣をどうすることもできない。

 刀が引き抜かれ、もう一度サラに繰り出される。

 くそ、なら……!

 サラは自分の剣を手放し、刀の軌道から体を逸らせる。

 そのまま回転し、勢いで首を手刀で狙ったが、硬い兜に守られた首はびくともしない。

 叩打した衝撃がびりびりと腕に響き、肩の傷口が逆に痛んだ。

「く……っ」

 スカルはサラの剣を握ったまま、好機だと言わんばかりに斬り込んでくる。

 それを後退しながら避け続けるが、サラは壁に追い詰められていくのを感じた。

 このままだと逃げ場が無くなるな。

 リリナはおそらく動けない。

 どうする。

 アルを元の姿に戻してもいいが、その瞬間アルが斬られる可能性がある。

 剣を自分の手元に戻してもいいが、斬り合いが続くだけだ。

 何か、決定的な攻撃で一撃を与えたい。

 振り下ろされる刀の風圧で、頬がチリッと切れ、髪の毛が数本ハラハラと切れてゆく。

「……」

 完全に避けきれているわけじゃない、か。

 それにこのままだと、だんだんと風圧が強くなっているため、避けきれなくなる。

 そうなると恐らく私だけではなく、リリナにも斬撃が当たるだろう。

 だったら……。

 一か八か……やってみるか。

 切り上げられた瞬間、サラはバク転で避け、その勢いで腕を蹴り上げる。

 勢いよく蹴り上げたので、その衝撃でスカルの手から刀が吹っ飛んだ。

 そこでサラの剣を握り直したスカルがサラの剣で斬りかかってきた。

 よし。

 自身の手に剣を呼び寄せようとした瞬間。

「サラ先輩っ!!」

 真横から力強く押されて。

 リリナが目の前に飛び出し。

「な……!?」

 振り下ろされる剣の先。

 目の前を染めるほどの血が、飛び散った――。

「おい!!! リリナアアアアア―――――――――――――ッ!!」
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