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汽車編

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「リプ!」

「ジュリアナ!」

 精霊の名を呼び、ウィルソンとザグジーはそれぞれ武器を手に持つ。

「行くよー! 龍清螺旋ドラゴン・スパイラル!」

 ザン、と車体に剣を突き刺せば、ウィルソンの周りに水の竜巻が生み出される。

 何本もの水の竜巻は勢いよくスカルを狙う。まるで水龍がスカルを呑み込まんとするかのようだ。

 スカルは水柱から逃げるように円弧状に飛行。

 そのまま上空を逃げるのではなく、こちらに向かって急下降してきた。

「うおおおおお!?」

 ザグジーの頭部すれすれを突き抜ける。

 その風圧でザグジーが汽車から落とされてしまった。

「わああ! ザグさん!!」

「ザグさん!」

「剛・岩」

 吹っ飛んだザグジーは体勢を整えて地面に着地と同時に拳を叩きつけた。爆裂した地面から、粉砕された岩が無数に浮かぶ。

「飛・翔!!」

 浮いた岩がスカルに向かって飛んだ。

 猛烈な速さで飛んでゆく岩は肉眼では目で追うことができない程だ。

 ザグジーはその一つを掴んで、汽車の屋根に舞い戻ってきた。

「俺は大丈夫っす! それよりもスカルを!」

「ああ!」

 水柱はうねりながらスカルを追い、岩はスカルの行く手を阻んでゆく。

 スカルは旋回しながら避けて、誘導されるがままにサラの方へ方向を変えてきた。

「サラちゃん! 今だ!」

「ああ! 行くぞ!」

 サラは神経を集中させる。

 その時、歌が聞こえた。

 祈りを捧げる歌。

 そして精霊の力が増幅する歌だ。

 サラの剣と体が光り出す。

月光の刃ムーンライト・ブレイド!」

 最大限に溜め込んだ光を一気に剣から放った。

 煌めく一閃がスカルを真っ二つに両断。

 スカルが傷を回復しようと汽車へ接近するも、回復は追いつかず。

 断末魔を上げながら、ほろほろと光の粒となって消えていった。

「……やったな」

「初めての共同作業成功じゃない!?」

「やったっすね! まあ、こんなもんっすよ!」

「確かに今回のチームワークはよかった。でも、この戦闘において一番大切なのは私たちのチームワークではなかった気がする」

「ん? どういうこと?」

 サラの言葉にウィルソンとザグジーが首を捻った。



「みなさん、スカルは無事に討伐しましたので、安心して席に戻ってくださーい」

 ウィルソンの指示で安堵の表情を浮かべた乗客たちが、一斉に席へ戻っていく。

 サラは頬が上気しているジャクリーンの方へ歩いてゆく。

 彼女の表情が先ほどとは打って変わっていた。

「歌、最高だった。ありがとう」

「え!? 聞こえていたんですか!?」

「ああ、少しだけだが……。それに、あんたが歌ってくれたおかげで、ここにいた乗客の気持ちを動かした。それが歌になって私たちの力になった。そのおかげでスカルを討伐することができたからな。感謝する」

「そ、そんな……! 皆さんの恐怖心を少しでもなくせたらいいなと思って歌っていただけです。それに、ここにいたみんなが歌い始めた時は本当に驚きました」

「でも、それがあんたの力だぞ」

「ありがとうございます……! あの、私」

「どうしたんだ?」

 ジャクリーンは深呼吸すると、決心した表情でサラに告げる。

「中央都市にある大きな事務所でオーディションがあるんですけど、私、それを受けてみようと思います。本当は前からそのオーディションがあるって知ってたんですけど、自信もなかったし、受ける勇気が出なくて……」

 ジャクリーンは「でも」と続ける。

「私、今日思いっきり歌を歌って気づいたんです。自分の声で、歌で、みんなを元気にしたい。母を元気にしたいって。父にも、それを認めてほしいんです」

「そうか。頑張れよ」

「はい。やっぱり挑戦してみないことには、わかりませんから! 頑張ります。ありがとうございます!」

 にっこりと笑うジャクリーンに、もう迷いはない。

 確かに不安はあるのかもしれない。

 でも、彼女は勇気と希望を胸に、前へ進んでいくだろう。

 自分のなりたい姿へ向かって。

 彼女の姿を眩しそうに見つめたサラは、小さく笑う。

 私もここで立ち止まっていてはいけない。

 前へ進まなければ。

 姉さんを取りもどすために――。

 すると丁度タイミングよく中央都市の駅に着く。

 汽車から降りれば、ホームは人でごった返していた。

 近代的な建物でこの世界で最も大きな駅だが、人が多すぎて狭く感じる。

 行きかう人々を縫うようにして、サラたちは駅から出た。

「では、私は事務所に行ってみます」

「ああ、頑張れよ」とサラははにかみ。

「頑張ってね」とウィルソンは肩を叩く。

「応援してるっす」とザグジーが大きく頷いた。

「はい、頑張ります。本当にありがとうございました」と礼を言ってジャクリーンは歩いてゆく。

 彼女は振り返ることもなく、意気揚々とした足取りで前へ進んでいった。

「よし、私も行くか……」

 サラも目的の場所へ行こうとするが――。

「あ、ちょっとそこを退いてくださあああああい!」

「は?」

 ひゅん、と足元を何かが通り抜けたかと思えば、横から猛スピードで駆けて来た少女に、サラは思いっきり突き飛ばされてしまった。
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