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南都市編

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 サラは一人足早に移動する。

 少し高いところから全体を見渡せるところへ移動しよう。

 パーティの警備と言えど、一応は任務だ。

 会場内を見渡せるテラスへ移動してきたサラは、全体へくまなく視線を向けた。

 すると会場の中央あたりに人だかりができていたのに気が付く。

「なんだ……?」

 人だかりの中央には一人の女性。

 その周りには群がる筋肉隆々の男たち。

 けれど、なぜかそこだけ異様な熱を帯びていた。

 おそらく魅力的な女性が中央にいるのだろう。

 サラは注意深く眺めていた。

 女性は体のラインが強調されるような派手なドレスを着ていた。胸のあたりが大きく開いており、豊満な胸が零れ落ちそうだ。

 その女性は自分の魅力を見せつけるように男にしなる。

「その筋肉見せてくださらない?」

 女性の要望に応えるべく、見た事のある顔ぶれが、いきなり団服を脱ぎ始めた。

「は、はい! まずは俺から!」とリアム。

「俺の筋肉を見てくれ、俺の筋肉を!」とガッツェ。

「いや、俺の筋肉の方が素晴らしいぞ!」とフィリップ。

 なぜか上半身裸になって、その女性に対して見せつけているではないか。

 何やってんだ、あいつらは……。

 サラは何か見てはいけないものを見てしまった気がしてならない。

 女性は手に持っていた扇子で顔を覆い、しらけたように笑った。

「全然ダメねえ。もっと美しくて、大きくなきゃ」

「な、何!?」

「手厳しいな……!」

「この俺の筋肉を全然だめだと……!? じゃあ、一体どうすれば君は振り向いてくれるんだ!」

 リアム、ガッツェ、フィリップは頭を抱える。

「んー……そうねえ」

 女性はパチン、と扇子をたたんで「そうよ、あれよお」と何かを提案した。

「海底洞窟っていう、有名な場所がこの都市にはあるでしょ? そこで取れる青くてきれいな宝石が欲しいわあ」

「海底洞窟だな!」

「俺が取ってくる!」

「いや、この俺だ!」

 三人がそろいもそろって、わらわらと外へ出て行こうとする。

 その行動をほほえましく眺めていた女性から、サラは呆れたように視線を外した。

 今のところつつがなくパーティは進んでいるし、特に問題は起きていない。

 不審な人物もいない。

 まあ、こんなパーティで問題は起きないだろう。

 あるとすれば酔っぱらった奴らが騒ぐぐらいか……。

 というか、なんで私がこんなことをしないといけないんだ。

 早く姉さんへの手がかりを見つけないといけないのに。

 そんなサラの不満などお構いなしに、平穏なパーティは続いた。


 ✯✯✯


 翌朝。

 ジェイソンは昨日のパーティに満足し、その余韻に浸りながら今朝から職務に精を出していた。

「ふーん、ふーん」

 鼻歌を歌いながら書類にハンコを押してゆく。

「南長! 大変です!」

「どうしたんだい? そんなにも慌てて。余裕のある男が、やはり女性を魅了するんだよ?」

 訳の分からないこと言い始めたジェイソンに、騎士は「そんなことはどうでもいいのです!」とぴしゃりと遮った。

「……?」

 部下のただならぬ雰囲気に、ジェイソンは至極真面目な顔になった。

「どうかしたのかな?」

 先ほどとは打って変わったジェイソンに、騎士は敬礼をして姿勢を正した。

「はい。報告します。リアム、ガッツェ、フィリップの騎士三名と連絡が取れません!」
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