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故郷編

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「…まず、どうやって話しかけたらいいかな?? 仲良くなれるかな?」

「堂々と声をかければいい」

「ポップコーンをおすそ分けして、そこから仲良くなる作戦はどうじゃ?」

「……自己紹介とか、いつ時間を作ったらいいかな?」

「タイミングを見極めろ」

「ポップコーンを買った後、冷めないうちがいいと思うぞ」

「…………ずっと見てるだけなんだけど、どうやったら想いを伝えられると思う?」

「好きだって、大声で叫べ」

「ポップコーンを渡しながら伝えるのはどうかのお?」

 回答を聞けば聞くほど、カイのイライラした様子がひどくなり、終いには怒りが爆発してしまった。

「あんたら、ふざけてる? というか、あんたはいい加減ポップコーンから離れてくれ!」

 ビシッとエスティの方を指さす。

「え? 我か?」

「あんただよ! あんた以外に誰がポップコーンポップコーン言うかっ! 本当に全然だめだな! 全然タメになるアドバイスなんてもらえねえし!」

「私は割と真面目だったぞ」

 サラはふん、と鼻を鳴らす。

「あんたは適当に答えすぎ。堂々と声をかけられたり、タイミングをうまく見極めれたら、こんなにも悩んでねえよ!」

「まあ、それもそうだな。というか……あんた、男だろ」

「だ、だったらなんだよ?」

「常識を捨ててタックルしてこい。何うじうじ悩んでんだ。面倒くさい。変なことして聖堂からつまみ出されても、護衛で付いている王族騎士に殺されかけても、その子が好きなら体張って自己紹介してこい。それをしてから悩め」

 あまりにも常識外れなサラの案に「勇者じゃなあ」とエスティがくすっと笑った。

 祈祷祭の間、祈祷師は日中聖堂で祈りを捧げている。

 祈祷師の祈りは光の加護を強め、この世界と人々の心に安寧を与えるのだ。

 確かに一般市民はその場を謁見えっけんできるが、そんな重要な業務の最中に、いきなり「僕の名前はカイです! あなたの事が好きです!」など発言できる雰囲気は存在しない。

 粛々と行われる神聖なる儀式だからだ。

 そもそも、祈祷の業務を妨害するものは刑罰が科される。

 それを知ってか知らずか、サラは続ける。

「知られていないなら、知ってもらえばいい。向こうは王族なんだ。立場は対等じゃない。その分あんたが頑張らないと駄目だろ。時間がないなら、悩まずに行動しろ」

 何かを言い返そうと口を開いたカイは、静かに口を閉じた。

「……そ、そうだな」

「どうしたいかはあんたの勇気次第だ」

 カイは何かを決めたように頷くと、聖堂の方へ駆けて行った。

「よし、とりあえず彼を奮い立たせることはできたな! よしよし! 成功するか、みまもるぞ!」

「は……? もういいだろ?」

「よくない! どうなったか気になるじゃろうが!」

「はあ……」

「ほら、行くぞい!」

 陽気な音楽が街中に響き渡る中、楽し気にエスティがサラを思いっきり引っ張ってゆく。

「ちょ、ちょっと……」

 横顔を見ると、エスティは本当に笑顔だった。

 まあ、いいか。

 もうしばらく付き合おう。

 それからでも遅くない。

 サラはエスティに引っ張られるがままに聖堂へ向かった。

 この後、事件が起きるとも知らずに。
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