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南都市編

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 鳥たちが囁く静かな空間に、暖かな……ではなく少々きつい日差しが降り注ぐ。

 心洗われるさざ波が、ゆっくりと耳に届いた。

 平穏な時間が流れゆく中で、暑苦しい男たちの掛け声が響き渡る――。

「バアニングゥゥゥゥゥ、ミラクルアタァァァァァァァック!」

「ハッ! そんなヤワなアタックじゃ俺らには勝てねえぞ!」

 すさまじい勢いでボールが滑空するが、筋肉で鍛え上げられた男――リアムの腕に衝撃は吸収され、真っ青な空に打ちあがる。

「ガッツェ!」

 セッターをしていたフィリップがそのボールをきれいに頭上へ送り出し、

「任せろ!」

 強靭なバネで空へ高くジャンプしたガッツェが、渾身の一撃を叩き込む。

 動けないでいるウィルソンの体のすぐそばをびゅん、と過ぎれば、真っ白な砂浜に砂を巻き上げてめり込んだ。

「ピピ―――ッ!」

「や、やべえ……! さすが筋肉自慢の南都市部の人たちだ……」

 ウィルソンの顔が真っ青になる。

「今のアタックを体に受けたら絶対に骨折する……」

「そんなことはないっすよ? ウィルさんが、ひょろっひょろ過ぎるんすよ!」

 ビーチバレーのチームに一緒にいるザグジーが笑い出す。

「えー……? そんなことないけどなあ……」

 ウィルソンは自分と南都市部の人たちの体格の違いを黙視する。

 確かに体格差はあるけど、俺だって鍛えてるからひょろひょろってわけじゃないんだけどな、と口をへの字に曲げた。

「おい、お前ら、次来るぞ! 集中集中!」

 男たちの熱きビーチバレーが繰り広げられている中、サラは一人、パラソルの下でビーチベッドに横たわっていた。

 けれどその表情はビーチに似つかわしくない程、険しい。

「これは何なんだ一体……!」

 手に持っていた水をガン、とビーチベッドの備え付けのカップ置きに叩き置けば。

「あれ? サラちゃんも一緒にする?」

 砂まみれになったウィルソンが、頬を上気させながらこちらへ駆け寄ってきた。

 何とも楽しそうな奴だ。

 その姿を見たサラは、気温の熱さと、怪我の痛みで、かなり苛ついた。

「するわけないだろ! こっちは怪我人なんだッ!」

 包帯姿の痛々しいサラの姿に、ウィルソンは目を伏せた。

「だよね……。病院の服のままだし……水着じゃないし。でも、ずっと病室にいるのもどうなのかあって思って誘ったんだけど……やっぱりしんどい?」

「当たり前だろ! 熱いし日光は焼けるように痛いし! 少しは気分転換にもなるかと確かに思ったが、そんなことは全くない!」

「……だよねー。ごめん……」

「それにこれは一体なんなんだ……。何がイベントだ……何が療養も兼ねて、だ……。療養も何もないだろ。これはただの地獄だ……!」

 サラは頭が痛いというように額を押さえる。

 実際に傷口以外で頭も痛かった。

 熱さか、それともこの目の前の吐きそうになる光景のせいか……。

 サラはビーチにいる筋肉隆々の男たちを見遣った。

 鍛え抜かれた肉体美を自慢しているのか、海パンが全員ティーバック。浅黒く日焼けした体は、オイルを塗っているのかテカっている。

 ビーチにいる連中は全員そうだった。

 むさい。むさい。むさ過ぎる……!

「この場所も熱いし、南の奴らは全員暑苦しい……!」

「えー……そんなこと言わないでよ……」

 ウィルソンが困っているとビーチバレーを再開しないのか、とわらわら男たちが寄ってきた。

「あれ? サラさん、大丈夫っすか? 顔色悪いっすよ」

「俺が担いで病院まで運ぼうか?」

「飲み物、何か持ってくる?」

 心配してくれるのはありがたい。

 だが……。

「自分で帰れるし、飲み物は必要ない。寄るな。暑苦しい」

 ぎろり、と睨みを利かせれば、「おお、蔑んだような冷たい女性の瞳ってすげーな!」と大きな笑い声が頭に響く。

 う、うるさい……。

「くそ……なんでこんなことになったんだ……!」

 サラは一人頭を抱えた。
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