136 / 148
第3部2章 饗宴あるいは狂宴
127 死都再生
しおりを挟む
死の都の様相を呈したグラティアの街で最初におこなわれたのは火葬だった。
大広場は臨時の火葬場となっていた。
ソやオークを含めて、この地では火葬の習慣はない。
基本的に土葬だ。
ただ、今回は死者の数が多すぎる上に、一人ひとりを土葬にするだけの人手も足りない。多少涼しくとも遺体というのは少しずつ分解され、自然へ還っていこうとするものだ。そのままにしておくと疫病が発生しかねないということで火葬となった。
とはいえ、火葬の習慣がないというのは平時でのこと、疫病が発生したときには火葬で対処していたようで、残った々にも過度の拒否反応はなかった。
涙が乾いた者がまだ涙を流し終えていない者のために遺体を集め、別れを告げる火の中に横たえていった。別れを終え、涙が乾いた者は別の者のために遺体を集めにと行った。
街の中心近くに今回の事件の慰霊碑を作り、遺灰はそこにまとめて埋葬するらしい。
怪物の死体は郊外に運ばれ、そこで燃やされた。
人と一緒に葬らない。
念入りに叩き潰し、炎の中に焚べる。
焼かれたものは野ざらしにされ、風にとばされていくままにした。
ソやオークの遺体は広場の方で火葬された。
当たり前といえば当たり前であるが、命をはって助けに来た相手を無下に扱うようなことを街の人々はしなかった。
街なかの遺体が片付いたあと、広場では王国がなくなり、共和国の一部となることが人々に告げられた。王は共和国の議員の1人となり、貴族は行政官として登用されるということだった。
人々の反応はどうでも良いというものだった。
一応お付き合いとして歓声はあげるが、市井で暮らす人々にとって、支配者が誰かなどということは正直なところどうでも良い。俺もごく最近まで王の顔すら知らなかった。
人々は自分の家とその近所から復興をはじめようとしていた。
ぐちゃぐちゃになった家を修繕する、あるいは建て直す。
日々の生活を送るのに必要な道具をそろえ直し、商売のための道具もそろえ直す。
元の生業に戻る、あるいは新しい生業を見つける。
共和国は街の再建のための労働力を募集する、いわば公共事業をたくさん発注するという形で人々の生活を支援した。
また貴重な働き手を戦いに出し、失った家庭には功労金という形で報いた。
戦いに駆り出され生き残った者たちにも功労金は出され、彼らが新しい生活をスタートさせるための資金となった。
論功行賞はほとんどが褒美を受けるという形で終わったが例外もあった。
元「先遣隊」の生き残りは、自分たちの「隊長」とその側近たちが敵前逃亡で処刑されたのを知った。
のうのうと生きていたら俺がぶっ殺してやると思うぐらいにはむかついていたが、実際によくわからないうちに処刑されてしまうと複雑な気分だ。
俺と同じ気持ちのやつは多かったのかもしれない。
論功行賞の場で話を聞かされた時、俺を含めて多くの者が肩をすくめて左右の仲間と顔を見合わせた。
ちなみに俺たち元先遣隊員が受け取ったのは給料を含めて1人頭金貨2枚であった。約1ヶ月の仕事量としてはかなり払いが良いが、あの悪夢の代償としてはかなり安く感じる。そんな額だ。
ソとオークは共和国の指揮下ではなかったので、論功行賞の対象とはならなかったが、謝礼という形で金品が支払われたようだ。
彼らはそれを受け取った。
ただ受け取るだけではなく、復興の支援のためにということで連れてきたウシの大部分を街に寄付し、共和国との友好関係を結ぶことを提案した。
共和国側はこれを受け、彼らの支援について大広場で大々的に宣伝した。
急に改善するということはないのだろうが、彼らに向けられる差別や恐れは少しずつ減っていくのかもしれない。
後で聞いたところ、ここらへんの絵図を描いたのはタルッキさんだったそうだ。
かなりの利益をあげている家畜取引関連の利権を手放すことになりそうだが、そのほうが皆得して自分も得すると見たのだろう。
少なくとも今回、草原からの援軍を引き出した功績は共和国上層部にも伝わっているらしく、今後、彼の権益は増すようだ。ただの一商会の経営者から有力な商会経営者にして政治家にも顔が利く。そう考えると、確かにやり手らしい決断なのかもしれない。
草原からの援軍は街なかの瓦礫が片付いたところで帰還していった。
帰還の前日、俺たちは近くの店まで借り切って送別会を開いた。
誰でも出入り自由な祭りのようにしてあったので、街の人も彼らと酒を酌み交わしていた。
言葉が通じなくても酒さえあればなんとかなるみたいだ。
まぁ、そのうち、言葉もなんとかなるだろう。直接商売をするようになれば、街で使われている言葉を学びたい者も増えていくだろう。あの酒飲み宣教師たちも大忙しになるに違いない。
翌日、俺たち以外にもたくさんの人が草原の戦士たちの見送りに出ていた。
チュオじいさんは別れ際に俺に言った。
「お前はおかしなやつだが面白い。顔は悪いが運は良い。頭は悪いが、妙なところで面倒見が良い。また、そのうち顔を見せに戻ってこい」
頭はともかくとして、顔が悪いというのは余計だ。
◆◆◆
今日は二度目の大宴会である。
今回は元「先遣隊」、現共和国グラティア所属「特別探索隊」の人々の集まりだ。
見知った顔も大分減ってしまったが、それでも店が埋まるくらいの人々が集まった。
「ええ、私は死地での宣言の通り、カツラを買いました!」
酔ったサゴさんが椅子の上に立って叫ぶ。
歓声のあがる中、彼は俺のターバンをばっととく。
そして、俺が被って保管しているカツラをさっそうと取り上げると被る。
落ち武者が長髪の怪しいおじさまに変身する。
カツラを外された俺は五厘刈りである。サゴさんはここらへんでも宣言を実行している。
先日の市街戦で彼を死ぬかもしれない殿に誘ったら、彼は快諾してくれたが、その代わり「五厘刈りにしろ」とのたもうた。
冗談だと思いきや、本気だったようで今日俺は市場に連れて行かれて髪の毛をごっそりと刈り取られた。
ちなみに彼のカツラの材料は俺の髪の毛ではない。
一瞬本気で疑い問いただしてしまったが、彼の返事は「こんな汚い癖っ毛はいらない」というにべもないものであった。
歓声と笑いがあたりにわきおこる。
笑いを取ろうとして滑るのが日課みたいなサゴさんが久々に笑いをとっていた。
彼は満面の笑みだった。仕込みの1つとして髪の毛を提供した俺も嬉しいさ。俺はすーすーする頭を撫でながら、微妙にずれたヅラを頭に乗せて酒を飲むサゴさんを眺める。
撤退戦で「指輪を買うこと」と「パーティーを開く」宣言をしていたチュウジの左手の小指にきらきら光る指輪が光っている。
生意気にもサチさんとペアリングだ。
2人が死亡フラグ台詞の内容を実行しているが、俺だけはできていない。
俺だけちょっと重すぎるものを宣言してしまった。
「帰ったら」は元の世界に「帰ったら」という意味だとか「今回まだその時と場所の指定まではしていない。そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい」とか屁理屈をこねた俺は仲間2人にぽかぽかと頭を殴られた挙げ句、「ヘタレ」、「ナ○も度量も小さい」、「ハゲ」とかバカにされた。
「ヘタレ」は認めるが、それ以外については事実ではないと反論したかったが、分が悪すぎて何も言い返せなかった。悔しい……。
パーティー全員無事生還したタダミが大声で歌いはじめた。
ブーイングが飛び、店の中が工事現場のような騒音で満たされる。
今日ぐらいは苦情きませんように。
あとやっぱりあいつの出禁を考え始めないといけないかもしれない。
俺はそんなことを考えながら酒を飲む。
「そこで気持ち悪い笑顔でこっちを見つめるハゲ! こっちにきて歌え!」
騒音の中心が叫ぶ。
やっぱりあいつは今すぐ出禁にしようかしら。
◆◆◆
タダミの歌につきあわされて、「音痴」とか「耳が腐る」とか素敵な声援をいただいた俺は「帰れ! 下手くそ!」というみんなの温かいツンデレアンコール宣言を無視して中庭に出てきている。
騒音から早々に逃れてきたサゴさんとチュウジと3人で体育座りをしながら、ぼけっと空を見ている。
今日の月はニヤニヤ笑いを浮かべている猫の口のようだ。
これくらいだと月と星の双方を楽しめるから、俺はこんな日が好きだ。
「人間万事塞翁が馬。そんな故事成語がありますね。何がよくて何が悪いかはわからないものです」
「バタフライエフェクトというものもある」
珍しく2人もまだ酔いつぶれていない。
「今回共和国が動けたのは鉄の王国と草原の関係とかが色々関係しているみたいだしな」
鉄の王国、正確にはその地で勢力を持つ教会の一派と草原の牧畜民たちはかつて大規模な戦いをしたことがある。
あのとき、俺たちは作戦立案やら敵の指揮官を打ち取るやらでそこそこに活躍した。
あれが草原側の勝利に終わらなかったらどうなっていただろう。
そもそもあのときの狂った指揮官が出世したのは、彼が審問官として「異端派」を一網打尽にしたからで、俺たちはそこにも関わっている。
何もできないまま流されていながらも、俺たちの羽ばたきがいろいろなところに影響を及ぼしているのかもしれない。
そして、その結果なのか、少なくとも今現在俺たちは誰1人欠けることなく、今晩酒を飲んでいる。何が良いのか悪いのかは本当にわからない。
「俺の美しい羽が世界を動かしているのか……」
「チャドクガだろ」「チャドクガですよね?」
死線をともに乗り越えた仲間から温かい言葉が飛んでくる。彼ら2人の息もぴったりのようだ。
2人そろってハゲてしまえ。片方はもうハゲてるけど。
「あっ3人でこんなとこに逃げてきてーずるいっ。あたし歌わされたんだよ」
聞き逃したのが悔やまれる。
「ミカちゃん、結構のりのりでしたよね……ああ、いい風」
「ほれ、君たちクソガキには出来すぎた女の子たちが来ましたよ。おじさんはもう少しここで星を眺めていますから、はやく戻りなさい」
「そんなこと言わないで、ここでみんなで星を見ましょうよ」
月も星もとても綺麗なんだ。
俺たち5人は横一列に並んでぼけっと夜空を眺める。
気持ちの良い風が頬をなでる。
大広場は臨時の火葬場となっていた。
ソやオークを含めて、この地では火葬の習慣はない。
基本的に土葬だ。
ただ、今回は死者の数が多すぎる上に、一人ひとりを土葬にするだけの人手も足りない。多少涼しくとも遺体というのは少しずつ分解され、自然へ還っていこうとするものだ。そのままにしておくと疫病が発生しかねないということで火葬となった。
とはいえ、火葬の習慣がないというのは平時でのこと、疫病が発生したときには火葬で対処していたようで、残った々にも過度の拒否反応はなかった。
涙が乾いた者がまだ涙を流し終えていない者のために遺体を集め、別れを告げる火の中に横たえていった。別れを終え、涙が乾いた者は別の者のために遺体を集めにと行った。
街の中心近くに今回の事件の慰霊碑を作り、遺灰はそこにまとめて埋葬するらしい。
怪物の死体は郊外に運ばれ、そこで燃やされた。
人と一緒に葬らない。
念入りに叩き潰し、炎の中に焚べる。
焼かれたものは野ざらしにされ、風にとばされていくままにした。
ソやオークの遺体は広場の方で火葬された。
当たり前といえば当たり前であるが、命をはって助けに来た相手を無下に扱うようなことを街の人々はしなかった。
街なかの遺体が片付いたあと、広場では王国がなくなり、共和国の一部となることが人々に告げられた。王は共和国の議員の1人となり、貴族は行政官として登用されるということだった。
人々の反応はどうでも良いというものだった。
一応お付き合いとして歓声はあげるが、市井で暮らす人々にとって、支配者が誰かなどということは正直なところどうでも良い。俺もごく最近まで王の顔すら知らなかった。
人々は自分の家とその近所から復興をはじめようとしていた。
ぐちゃぐちゃになった家を修繕する、あるいは建て直す。
日々の生活を送るのに必要な道具をそろえ直し、商売のための道具もそろえ直す。
元の生業に戻る、あるいは新しい生業を見つける。
共和国は街の再建のための労働力を募集する、いわば公共事業をたくさん発注するという形で人々の生活を支援した。
また貴重な働き手を戦いに出し、失った家庭には功労金という形で報いた。
戦いに駆り出され生き残った者たちにも功労金は出され、彼らが新しい生活をスタートさせるための資金となった。
論功行賞はほとんどが褒美を受けるという形で終わったが例外もあった。
元「先遣隊」の生き残りは、自分たちの「隊長」とその側近たちが敵前逃亡で処刑されたのを知った。
のうのうと生きていたら俺がぶっ殺してやると思うぐらいにはむかついていたが、実際によくわからないうちに処刑されてしまうと複雑な気分だ。
俺と同じ気持ちのやつは多かったのかもしれない。
論功行賞の場で話を聞かされた時、俺を含めて多くの者が肩をすくめて左右の仲間と顔を見合わせた。
ちなみに俺たち元先遣隊員が受け取ったのは給料を含めて1人頭金貨2枚であった。約1ヶ月の仕事量としてはかなり払いが良いが、あの悪夢の代償としてはかなり安く感じる。そんな額だ。
ソとオークは共和国の指揮下ではなかったので、論功行賞の対象とはならなかったが、謝礼という形で金品が支払われたようだ。
彼らはそれを受け取った。
ただ受け取るだけではなく、復興の支援のためにということで連れてきたウシの大部分を街に寄付し、共和国との友好関係を結ぶことを提案した。
共和国側はこれを受け、彼らの支援について大広場で大々的に宣伝した。
急に改善するということはないのだろうが、彼らに向けられる差別や恐れは少しずつ減っていくのかもしれない。
後で聞いたところ、ここらへんの絵図を描いたのはタルッキさんだったそうだ。
かなりの利益をあげている家畜取引関連の利権を手放すことになりそうだが、そのほうが皆得して自分も得すると見たのだろう。
少なくとも今回、草原からの援軍を引き出した功績は共和国上層部にも伝わっているらしく、今後、彼の権益は増すようだ。ただの一商会の経営者から有力な商会経営者にして政治家にも顔が利く。そう考えると、確かにやり手らしい決断なのかもしれない。
草原からの援軍は街なかの瓦礫が片付いたところで帰還していった。
帰還の前日、俺たちは近くの店まで借り切って送別会を開いた。
誰でも出入り自由な祭りのようにしてあったので、街の人も彼らと酒を酌み交わしていた。
言葉が通じなくても酒さえあればなんとかなるみたいだ。
まぁ、そのうち、言葉もなんとかなるだろう。直接商売をするようになれば、街で使われている言葉を学びたい者も増えていくだろう。あの酒飲み宣教師たちも大忙しになるに違いない。
翌日、俺たち以外にもたくさんの人が草原の戦士たちの見送りに出ていた。
チュオじいさんは別れ際に俺に言った。
「お前はおかしなやつだが面白い。顔は悪いが運は良い。頭は悪いが、妙なところで面倒見が良い。また、そのうち顔を見せに戻ってこい」
頭はともかくとして、顔が悪いというのは余計だ。
◆◆◆
今日は二度目の大宴会である。
今回は元「先遣隊」、現共和国グラティア所属「特別探索隊」の人々の集まりだ。
見知った顔も大分減ってしまったが、それでも店が埋まるくらいの人々が集まった。
「ええ、私は死地での宣言の通り、カツラを買いました!」
酔ったサゴさんが椅子の上に立って叫ぶ。
歓声のあがる中、彼は俺のターバンをばっととく。
そして、俺が被って保管しているカツラをさっそうと取り上げると被る。
落ち武者が長髪の怪しいおじさまに変身する。
カツラを外された俺は五厘刈りである。サゴさんはここらへんでも宣言を実行している。
先日の市街戦で彼を死ぬかもしれない殿に誘ったら、彼は快諾してくれたが、その代わり「五厘刈りにしろ」とのたもうた。
冗談だと思いきや、本気だったようで今日俺は市場に連れて行かれて髪の毛をごっそりと刈り取られた。
ちなみに彼のカツラの材料は俺の髪の毛ではない。
一瞬本気で疑い問いただしてしまったが、彼の返事は「こんな汚い癖っ毛はいらない」というにべもないものであった。
歓声と笑いがあたりにわきおこる。
笑いを取ろうとして滑るのが日課みたいなサゴさんが久々に笑いをとっていた。
彼は満面の笑みだった。仕込みの1つとして髪の毛を提供した俺も嬉しいさ。俺はすーすーする頭を撫でながら、微妙にずれたヅラを頭に乗せて酒を飲むサゴさんを眺める。
撤退戦で「指輪を買うこと」と「パーティーを開く」宣言をしていたチュウジの左手の小指にきらきら光る指輪が光っている。
生意気にもサチさんとペアリングだ。
2人が死亡フラグ台詞の内容を実行しているが、俺だけはできていない。
俺だけちょっと重すぎるものを宣言してしまった。
「帰ったら」は元の世界に「帰ったら」という意味だとか「今回まだその時と場所の指定まではしていない。そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい」とか屁理屈をこねた俺は仲間2人にぽかぽかと頭を殴られた挙げ句、「ヘタレ」、「ナ○も度量も小さい」、「ハゲ」とかバカにされた。
「ヘタレ」は認めるが、それ以外については事実ではないと反論したかったが、分が悪すぎて何も言い返せなかった。悔しい……。
パーティー全員無事生還したタダミが大声で歌いはじめた。
ブーイングが飛び、店の中が工事現場のような騒音で満たされる。
今日ぐらいは苦情きませんように。
あとやっぱりあいつの出禁を考え始めないといけないかもしれない。
俺はそんなことを考えながら酒を飲む。
「そこで気持ち悪い笑顔でこっちを見つめるハゲ! こっちにきて歌え!」
騒音の中心が叫ぶ。
やっぱりあいつは今すぐ出禁にしようかしら。
◆◆◆
タダミの歌につきあわされて、「音痴」とか「耳が腐る」とか素敵な声援をいただいた俺は「帰れ! 下手くそ!」というみんなの温かいツンデレアンコール宣言を無視して中庭に出てきている。
騒音から早々に逃れてきたサゴさんとチュウジと3人で体育座りをしながら、ぼけっと空を見ている。
今日の月はニヤニヤ笑いを浮かべている猫の口のようだ。
これくらいだと月と星の双方を楽しめるから、俺はこんな日が好きだ。
「人間万事塞翁が馬。そんな故事成語がありますね。何がよくて何が悪いかはわからないものです」
「バタフライエフェクトというものもある」
珍しく2人もまだ酔いつぶれていない。
「今回共和国が動けたのは鉄の王国と草原の関係とかが色々関係しているみたいだしな」
鉄の王国、正確にはその地で勢力を持つ教会の一派と草原の牧畜民たちはかつて大規模な戦いをしたことがある。
あのとき、俺たちは作戦立案やら敵の指揮官を打ち取るやらでそこそこに活躍した。
あれが草原側の勝利に終わらなかったらどうなっていただろう。
そもそもあのときの狂った指揮官が出世したのは、彼が審問官として「異端派」を一網打尽にしたからで、俺たちはそこにも関わっている。
何もできないまま流されていながらも、俺たちの羽ばたきがいろいろなところに影響を及ぼしているのかもしれない。
そして、その結果なのか、少なくとも今現在俺たちは誰1人欠けることなく、今晩酒を飲んでいる。何が良いのか悪いのかは本当にわからない。
「俺の美しい羽が世界を動かしているのか……」
「チャドクガだろ」「チャドクガですよね?」
死線をともに乗り越えた仲間から温かい言葉が飛んでくる。彼ら2人の息もぴったりのようだ。
2人そろってハゲてしまえ。片方はもうハゲてるけど。
「あっ3人でこんなとこに逃げてきてーずるいっ。あたし歌わされたんだよ」
聞き逃したのが悔やまれる。
「ミカちゃん、結構のりのりでしたよね……ああ、いい風」
「ほれ、君たちクソガキには出来すぎた女の子たちが来ましたよ。おじさんはもう少しここで星を眺めていますから、はやく戻りなさい」
「そんなこと言わないで、ここでみんなで星を見ましょうよ」
月も星もとても綺麗なんだ。
俺たち5人は横一列に並んでぼけっと夜空を眺める。
気持ちの良い風が頬をなでる。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる