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第1部1章 はじめてづくし
026 ゴブリン掃討戦後始末
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相手の戦闘要員は全滅したのだろう。こちらに向かってくる者はおらず、ゴブリンの野営地は混乱している。
ヒュンッ!
矢の放たれる音がした。
放ったのはいつの間にか姿を現した狩人ステンさんだった。
小さなゴブリンを連れて逃げようとしていたゴブリンが倒れ込んだ。
彼(彼女?)は武装していなくて、ボロ布でつつんだ片手は手首から先がないようだった。
多分、先日、俺が手首を切ったやつだろう。
「後始末をしないといけません。負傷者の手当をする人以外は手伝ってください」
ステンさんは二の矢で小さなゴブリンも射つと、さらに矢をつがえながら叫ぶ。
ミカさんが俺のところの駆け寄ってきて、残りの2人はステンさんについていく。
「大丈夫? あたしがてまどったせいで……足も背中もお腹も痛いよね。ごめんね。ごめんね」
泣きながら俺の鎧を外すと傷を自分のハンカチらしき布でおさえたり、服の一部を割いたものを使ってしばったりしてくれる。
ちゃんとハンカチとか持っているところが女の子だよな。
ミカさんはくりっとした大きな目をしている。無茶苦茶な美人というわけではないけど、クラスに居たら男女問わず人気が出そうな娘だ。まぁ、俺、男子校だから、そんな夢のような青春はゲームの中にしか存在しないものだと思ってるけど。
彼女がうつむくと、肩まで伸びた髪が顔を隠してしまう。もうちょっとよく見ていたいのになんか残念だ。
なんか可愛いなぁ……いや吊り橋効果ってやつなのか。よくわからない。矢が刺さって熱くなったのは太ももと背中と脇腹だけなのに、顔まで熱くなってきた。あれ、気づいていないだけで、もしかして、顔にも何か刺さってる?
「あのさ、俺、生きて帰れたら君と……」
「いつでもデートくらいしてあげるから、変なフラグ立てないでっ!」
泣き笑い顔でミカさんがささやく。
遠くでサゴさんとステンさんの言い争いの声が聞こえる。
「無抵抗だし、ゴブリンと言えども幼いんですよっ!」
「私たちはこの地で生きていかないといけないんです。禍根の種は残しておけないんだっ!」
チュウジの声がそこに加わる。
「我にまかせよ。我は非情な暗黒の騎士。この地をゴブリン共の血で染め抜こうではないか。全て黒衣の女神への贄としてやろう」
ゴブリンだって生物だから、子どもがいる。
事前にわかっていたはずだし、こうなることも十分頭ではわかっていた。でも、その現場に居合わせると、こんなのはあまり楽しくない。
怪我をして動けないのは幸いだ。
そして、そんなことを思ってしまう俺は卑怯者だ。
でも、今は卑怯者で居させてほしい。遅れて襲ってきた痛みを必死に堪えながら、俺は目をつぶった……。
すべてが終わったとおぼしきあとに目が覚めた。あたり一面血なまぐさい。
目覚めた俺は木と布を噛ませられる。
捕虜になったわけではないのに、何が起こってるんだろう。
「……矢を抜きますよ。我慢してください」
誰かが手を握ってくれている。柔らかくて温かい手だ。
激痛、木がおれんばかりに噛みしめる。涙が流れる。
この痛みは手を汚すことをこばんだ俺に対する罰なのか。
手を握る。
再び激痛。スイッチを押すと、動く人形のように俺は動いている。
手を握りしめる。握りしめた手に水滴が落ちる。
そして、意識をうしなう……。
夢を見た。
俺は鬼ヶ島で暮らしている鬼で友だち鬼と必死に逃げている。
友だち鬼が倒れると、悪鬼のような顔をした桃太郎がその頭を踏み潰した。
俺はキジに腿をついばまれ、犬に脇腹をかじられ、サルは俺の背中にぐりぐりと錐をねじこんだ……。
俺は泣き叫ぶ。
泣き叫びながらも冷静に夢にツッコミをいれる。
陳腐だよ、こんなの。
錐をねじ込まれた俺の意識は遠のき……。
再び目を覚ますと、ミカさんがすぐ横についていてくれた。泣きはらした顔をしている。
「目、覚めた? 大丈夫、矢は抜けたよ。よく頑張ったね。本当はもうすこし休ませてあげたいけど……動ける? 暗くなると野生動物が来るから、その前に移動しないといけないってステンさんが」
「大丈夫だよ、ありがとう」
「良かったぁ。脇腹のは掠めただけで内蔵とかに刺さったりしていないから傷が閉じれば比較的すぐに回復するって。太ももと背中もそこまでひどくないみたい」
「手、握っててくれたのミカさん?」
彼女はこくりとうなずく。
「手、痛かったでしょ? ごめんね」
彼女はふるふると首を横にふる。
「ありがとう。手、握っててくれたから耐えられた、と思うんだ。今度、尻に矢が突き刺さったときもお願いね」
「ばかっ」
ミカさんはぷいっと横を向く。
「シカタよ、目が覚めたか。我の暗黒闘気解放を貴様に見せてやりたかったわ」
泣きはらした顔でチュウジが声をかけてくる。
「チュウジ、ありがとな。そして、ごめん。俺、自分がやらずに済んでほっとしている。俺、卑怯者で臆病者だ。ほんとごめん」
「シカタ、お前はただのバカだ。それ以上でもそれ以下でもないから安心しろ」
「ここは火をつけていきます。今日中に村に戻るのは無理そうですから、半分ほど戻ったあたりで火を炊いて一晩過ごしましょう」
ステンさんに返事をすると、俺たちは無言でゴブリンの集落だった場所を後にした。
ヒュンッ!
矢の放たれる音がした。
放ったのはいつの間にか姿を現した狩人ステンさんだった。
小さなゴブリンを連れて逃げようとしていたゴブリンが倒れ込んだ。
彼(彼女?)は武装していなくて、ボロ布でつつんだ片手は手首から先がないようだった。
多分、先日、俺が手首を切ったやつだろう。
「後始末をしないといけません。負傷者の手当をする人以外は手伝ってください」
ステンさんは二の矢で小さなゴブリンも射つと、さらに矢をつがえながら叫ぶ。
ミカさんが俺のところの駆け寄ってきて、残りの2人はステンさんについていく。
「大丈夫? あたしがてまどったせいで……足も背中もお腹も痛いよね。ごめんね。ごめんね」
泣きながら俺の鎧を外すと傷を自分のハンカチらしき布でおさえたり、服の一部を割いたものを使ってしばったりしてくれる。
ちゃんとハンカチとか持っているところが女の子だよな。
ミカさんはくりっとした大きな目をしている。無茶苦茶な美人というわけではないけど、クラスに居たら男女問わず人気が出そうな娘だ。まぁ、俺、男子校だから、そんな夢のような青春はゲームの中にしか存在しないものだと思ってるけど。
彼女がうつむくと、肩まで伸びた髪が顔を隠してしまう。もうちょっとよく見ていたいのになんか残念だ。
なんか可愛いなぁ……いや吊り橋効果ってやつなのか。よくわからない。矢が刺さって熱くなったのは太ももと背中と脇腹だけなのに、顔まで熱くなってきた。あれ、気づいていないだけで、もしかして、顔にも何か刺さってる?
「あのさ、俺、生きて帰れたら君と……」
「いつでもデートくらいしてあげるから、変なフラグ立てないでっ!」
泣き笑い顔でミカさんがささやく。
遠くでサゴさんとステンさんの言い争いの声が聞こえる。
「無抵抗だし、ゴブリンと言えども幼いんですよっ!」
「私たちはこの地で生きていかないといけないんです。禍根の種は残しておけないんだっ!」
チュウジの声がそこに加わる。
「我にまかせよ。我は非情な暗黒の騎士。この地をゴブリン共の血で染め抜こうではないか。全て黒衣の女神への贄としてやろう」
ゴブリンだって生物だから、子どもがいる。
事前にわかっていたはずだし、こうなることも十分頭ではわかっていた。でも、その現場に居合わせると、こんなのはあまり楽しくない。
怪我をして動けないのは幸いだ。
そして、そんなことを思ってしまう俺は卑怯者だ。
でも、今は卑怯者で居させてほしい。遅れて襲ってきた痛みを必死に堪えながら、俺は目をつぶった……。
すべてが終わったとおぼしきあとに目が覚めた。あたり一面血なまぐさい。
目覚めた俺は木と布を噛ませられる。
捕虜になったわけではないのに、何が起こってるんだろう。
「……矢を抜きますよ。我慢してください」
誰かが手を握ってくれている。柔らかくて温かい手だ。
激痛、木がおれんばかりに噛みしめる。涙が流れる。
この痛みは手を汚すことをこばんだ俺に対する罰なのか。
手を握る。
再び激痛。スイッチを押すと、動く人形のように俺は動いている。
手を握りしめる。握りしめた手に水滴が落ちる。
そして、意識をうしなう……。
夢を見た。
俺は鬼ヶ島で暮らしている鬼で友だち鬼と必死に逃げている。
友だち鬼が倒れると、悪鬼のような顔をした桃太郎がその頭を踏み潰した。
俺はキジに腿をついばまれ、犬に脇腹をかじられ、サルは俺の背中にぐりぐりと錐をねじこんだ……。
俺は泣き叫ぶ。
泣き叫びながらも冷静に夢にツッコミをいれる。
陳腐だよ、こんなの。
錐をねじ込まれた俺の意識は遠のき……。
再び目を覚ますと、ミカさんがすぐ横についていてくれた。泣きはらした顔をしている。
「目、覚めた? 大丈夫、矢は抜けたよ。よく頑張ったね。本当はもうすこし休ませてあげたいけど……動ける? 暗くなると野生動物が来るから、その前に移動しないといけないってステンさんが」
「大丈夫だよ、ありがとう」
「良かったぁ。脇腹のは掠めただけで内蔵とかに刺さったりしていないから傷が閉じれば比較的すぐに回復するって。太ももと背中もそこまでひどくないみたい」
「手、握っててくれたのミカさん?」
彼女はこくりとうなずく。
「手、痛かったでしょ? ごめんね」
彼女はふるふると首を横にふる。
「ありがとう。手、握っててくれたから耐えられた、と思うんだ。今度、尻に矢が突き刺さったときもお願いね」
「ばかっ」
ミカさんはぷいっと横を向く。
「シカタよ、目が覚めたか。我の暗黒闘気解放を貴様に見せてやりたかったわ」
泣きはらした顔でチュウジが声をかけてくる。
「チュウジ、ありがとな。そして、ごめん。俺、自分がやらずに済んでほっとしている。俺、卑怯者で臆病者だ。ほんとごめん」
「シカタ、お前はただのバカだ。それ以上でもそれ以下でもないから安心しろ」
「ここは火をつけていきます。今日中に村に戻るのは無理そうですから、半分ほど戻ったあたりで火を炊いて一晩過ごしましょう」
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