道化の世界探索記

黒石廉

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003 能力測定

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 げしっ
 痛っ?
 ごつ
 っ!?
 ぎゅーっ

 「痛っ!つねんな痛えー!」
 蹴られて殴られて……つねられたところで意識が戻った。

 「にやけづらで寝てやがるから、サービスして起こしてやったんだよ」
 目覚めた俺の目の前にいるのはヒゲを蓄えたモヒカンのおっさん。
 
 普通こういうときは乱暴な口調は乱暴な口調でも萌える女の子が来るのが約束じゃないの?
 なのに、萌えはこないし、魅惑する流し目ドン・ファンも当たらない。転生したらイージーモードスタートするべきだろ。なんだよこの二度目の人生クソゲー
 
  目の前のおっさんは布の袖なし貫頭衣っぽいシャツから、ごつごつした上腕を見せびらかしてくる。
 見ていて……ぜんぜん楽しくないっ!
 おっさんは長く伸ばしたアゴヒゲとトサカみたいなモヒカン、繋がった眉毛とちょび髭のせいで顔をひっくりかえして首につけても誰も気づかなそうだ。
 ひっくり返してもヒゲダルマ、もう一度ひっくり返してもやっぱりヒゲダルマ。
 気づくとちょっとだけ楽しくなったっ!
 でも、モヒカンのおっさん見て楽しくなってる自分が悲しくもある。

 「よし、おまけ野郎が起きたところで、説明を始めるっ!」
 上下対照モヒカンが耳が痛くなるような声でがなり立てる。その内容はモヒカンのモヒカン以上にやばそうな内容だった。

 「お前らは、誰にも望まれず流れてきたものである。海辺に流れ着いた死んだ魚程度のものだ」
 モヒカンはいきなりかましてきた。ハー○マン軍曹かよ。変なあだなとかつけられたりしないよな。

 「役に立たない上に臭うしょうもない代物であるが、我が共和国はお前らに準市民権、当座の生活費および生活用品を与える。また、ある種の才能に恵まれた者については訓練過程を無償で提供するものである。また、才能に恵まれない者についてもこの地で共和国に貢献し、豊かな暮らしを築き上げていくために必要な事柄について知識を提供する。共和国の市民たちの厚意に感謝してもらいたいっ!」
 モヒカンは誇らしげに言い放つと、黙る。するとモヒカンの後ろに控えていた小柄な男が前に出てきて細かな説明をおこなった。
 
 準市民権というものは居住区域が制限され、市民区には許可なく入ることができないこと、その他移動や生活に一部制限がかかること、選挙権が与えられないこと等。
 生活費と生活用品は居住区に移動する際に手渡されること、これから「ある種の才能」についての検査がおこなわれること。

 余裕ができたところであたりを見回す。
 高校のクラスだと2クラス分弱くらいだろうか、70名前後。老若男女とまではいかないがおっちゃん、おばちゃんや俺より年下も混じっているみたいだ。たぶん、みんな日本から送られてきたんだろう。

 「ホームにいたら、突然後ろの人が倒れ込んできたと思ったら、変なじいさんに煽られて、気がついたら、ここはどこなんですか?」
 「信号無視のトラックからの走馬灯で最後に若い女性に煽てられて、世界を救う力を与えるからとか言われて……」
 「この漆黒の左ジェットブラックレフトで英雄となる……クックッククク……」

 誰にあったかは人それぞれだが、周囲の人もどうやら俺と同じような経験をして、ここで目覚めたらしい。
 もっと、色々と情報収集をしたかったが、「話すな、テントの前に三列に並べ」と大きな声でモヒカンが怒鳴り始めたので、情報収集は後にする。

 俺は、3列目1番、本当は2番だったのだが、前のおばちゃんに順番代わってあげると言われて1番に押し込まれた。
 この俺のポジション、デスゲームとか始まったら、よくわからないまま真っ先に死ぬモブパターンだよな。
 気の滅入ることを考えながら、大きなテントの中に入る。
 中で待っていたのはフードにローブの魔法使いスタイルの男だった。
 「次の方、前にお進みください」
 顔はよく見えないが、声からしてフードに隠れた顔が美少女である可能性は限りなくゼロに近い。
 彼の前にある机の中央には幾何学模様の描かれた金属の板が置かれている。横には赤銅色のメダルと鉄色のメダルが山積みされている。

 「はい、板の上に手を置いてください」
 板が光ると男は手元の紙を見て言った。
 「もういいですよ。このメダルを……」
 と鉄製らしき首掛けメダルを手にとって、こちらに渡そうとしたところで、慌てて手をひっこめて、メダルを机の上に置く。
 「???」
 「ああ、静電気でバチッとくるの、嫌ですからね」
 さっきの板でこちらの能力が把握できるのか。
 「で、俺の能力値ってどんなものなのですか?知力、筋力は多少高め?あ、魅力、魅力とかどうなってんすか?」
 フードの男はこちらにわざと聞かせるように大きなため息をついて答える。
 「たまにその手の質問してくるのがいるのですが、考えてください。そんなもん測れるわけないでしょう?」
 えっ、出ないの能力値?技能《スキル》は測れるのに?
 お話的には人差し指でこうやって空をこするといつでも見られるようになって、それがヴァイマル共和国のハイパーインフレみたく上がっていって、伝説級の強さを実感してしまうみたいな感じじゃないの?
 顔の前で人差し指を虚しく振り回す俺をフードの男は鼻で笑う。
 「まぁ、その手の質問をする方は、測らずとも知力が低そうなのは明らかな方ばかりでしたよ」
 「……」
 うつむく俺にフードの男は追い打ちをかける。
 「それにしても、タワシ出すとか静電気出すとかふざけた能力もらいましたね。正直どんな気持ちですか?」
 「……すごく……悔しいです……」

 打ちひしがれた俺にフードの男はメダルについて説明をした。
 「最後に親切なアドバイスです。能力について、むやみやたらと人にしゃべらないほうが良いですよ。どのような能力があるかを知られると値踏みされたり、対策を取られたりしやすくなりますからね」
 フードの男は続ける。
 「こちら側もあくまで人員管理のためで、機密レベルが高い情報として扱ってますから。よほどのことが無い限り現場の人間には知らせませんしね」
 「……ありがとうございます」
 「まっ、タワシ出せる能力とかならどうでも良いですけどね!」
 最後に煽ってくるのかよ!
 俺は会釈して、鉄のメダルを首からかけると、とぼとぼとテントを出た。やはり、とても悔しいです。
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