王子と男爵令嬢

②サラ男爵令嬢とヴアカ侯爵令嬢

「おい。なにやら中庭が騒がしいようだが何かあったのか？

「はっ。少々お待ち下さい。見てまいります。」
側近のローバーはそういうとすぐに様子を見に行った。

「うーん。今度の側近君は有能だな。気にいったぞ。」
暫くしてローバーが戻ってきた。

「殿下。サラ男爵令嬢とヴアカ侯爵令嬢が殿下の髪の毛のことで揉めております。」

「なに？私の髪の毛のことで？」

「はい。」

「ほう。詳しく申してみよ。」

「はっ。国王様はハゲているので殿下もハゲるに決まっていると。」

「え？」実は王子もそれは少し気になっていた。

「ヴアカ侯爵令嬢がハゲると。サラ男爵令嬢がハゲないと。それで揉めております。」

「ほう。サラ男爵令嬢がハゲないと言っていることがびっくりだ。面白そうだな。見に行こう。」

「はっ。」

二人はそーっと人だかりになっているところの隙間から覗いてみた。

「サラ男爵令嬢。身分をわきまえなさい。男爵家の分際で、私に口答えするなんてもってのほかです。」

「ごめんあそばせ。バアカ侯爵令嬢様。」

「バアカではありません。ヴアカですわ。ヴ・ア・カ。」

「バ・ア・カ。」

「あなたわざとやっているわね？」

「オホッオホッオホッ！すみませんねー。私、元平民ですので、まだお貴族様の発音が出来ませんの。バアカ侯爵令嬢様！」

王子が側近に尋ねる。
「おい。ハゲの話はやっておらんぞ？」
「もう、飽きたのではないでしょうか？」　
「うーん。まあ、令嬢が男のハゲの話をしていても楽しくないだろうしな。」

「ところでサラ男爵令嬢。あなたネロ殿下に求婚したそうね？」

「ええ。私の想いをお伝えしました。」

側近に尋ねる王子。
「お伝えしたってあの正拳突きのことか？」
前側近から情報を受け継いでいるローバー。

「好きと突きを掛けたラブアタックでございますな。」

「ラブアタックって、お前が名付けたのか？」
「はっ。」顔を赤らめるローバー。
「おい、ローバー。お前、その名前気にいっているのか？」
「はっ。」

　ローバーの耳元で囁く王子。
「ラ～ブ」
「は～」顔を歪めるローバー。

「アタ～ック」
「は～」更に顔を歪めるローバー。
「うーん。お前も頭のネジがとれかかっているな。」
「は？」

　サラはまたしても高く高く飛び上がった。謁見の間での殿下への求婚を思い出して、体がムズムズしてきたからだ。

　「な、なんですの？突然。」
ヴアカ侯爵令嬢が驚く。そして着地をするために下を見たときネロ王子とサラの目が合った。

「ま、不味い！逃げるぞ。ローバー。」ネロ王子とローバーは急いでその場を立ち去った。

　またしても相撲の四股を踏むポーズで着地。正拳突きをしながらネロ王子がいた場所まで突き進むサラ男爵令嬢。

「間違いない。ネロ殿下はここにいた。」ネロ王子の残り香を「スーハースーハー」嗅ぎながら確信をするサラ男爵令嬢であった。

「サラ男爵令嬢ーー！」
「お待ちなさーーい！」

　サラ男爵令嬢はお腹が空いたので頭の中は晩御飯のことばかりで、ヴアカ侯爵令嬢の言葉は耳に入って来なかった。


「ちょっとーーーお待ちなさーい。」