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第三章 赤ちゃんのデービッド編

⑮デービッド

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カレンとロバートは互いに顔を見合わせて「女の幽霊なの?」とカレンは言ったあとロバートに話しかけた。
「ロバート、もうやめましょうよ。なんだかこのまま続けちゃいけない気がする。」
「俺もそんな気がする。カレン催眠術を解いてくれ。」

  ピンッ

催眠術用の指輪が横に弾け飛んだ。

「あ、指輪が!」
カレンが慌ててしゃがんで指輪を拾って立ち上がるとロバートが顔を引きつらせて目を大きく開いていた。
カレンはロバートの視線の先、デービッドを見た。
「ヒーッ!」
カレンは体が固まってしまった。

デービッドが立ち上がっていたからだ。

デービッドの顔がゆっくりと横を向いてカレンを見た。そして喋った。
「私に用でもあるのか?カレン。」
震えながらロバートの所まで行くとロバートにしがみついて涙声で「ロ、ロバート。どうしよう、悪霊が取り憑いてしまったわ。」
「ああ、大変なことになった。私たちの悪ふざけのせいで。」

デービッドが笑っていた。

おほほほほほほほほほほほ
あははははははははははは
うふふふふふふふふふふふ

突然、笑い声が止まってデービッドが前のめりに倒れた。

  ドスン

慌てて駆け寄るロバート。デービッドを抱っこしようとした瞬間にロバートは両手をデービッドにつかまれた。がっしりと、強く。

「ロバート、つかまえた。」

デービッドがニヤリと笑っていた。

 ロバートはショックで気を失い、膝から崩れ落ちた。崩れ落ちたロバートをベッドの上から立ち上がってデービッドは見つめていた。

 その光景を見ていたカレンを見てデービッドが言った。

「カレン。余計な真似はするな。ふふふふふ。」

 カレンも膝から崩れ落ち、気を失ってしまった。

暫くして公爵が部屋にやって来て

「ん?カレン?ロバート?」

ベビーベッドの側で横たわるカレンとロバートを発見した。デービッドはべビーベッドの中でグッスリと眠っていた。



 カレンとロバートは同時に目が覚めた。二人共ベッドに寝かされていた。
 目は覚めたが互いに顔を見ないで、ただ天井を見つめていた。

 公爵夫人が気がついた。
「二人共、一体どうしたの?覚えてる?床で眠っていたのよ。」
ローバートが先に起き上がった。

公爵も声をかけた。
「二人共疲れているのかもしれない。しばらくの間はデービッドのことは乳母のメリーに任せておきなさい。」
横になったままのカレンが言った。
「お父様、お母様・・・。」
涙をこぼすカレン。ロバートがカレンの側へ行った。
「カレン。父上と母上に話そう。」
カレンが頷いた。そっとハンカチでカレンの涙を拭いてあげながらロバートは話し出した。

「父上、母上。今、デービッドはメリーのところにいるのですか?」
なんだか深刻そうにしているカレンとロバートを見ていた夫人が答えた。
「そうだけど。あなたたち心配事があるんじゃないの?デービッドのこと?」
公爵も聞いた。
「私もエイミーも子育て経験者だ。何でも相談にのるぞ。」

「父上、母上。驚かないで下さい。デービッドが・・・悪霊に取り憑かれてしまいました。私のせいです・・・。」

公爵夫妻は予想外の言葉に返事が出来なかった。

「メリーが言ったんです。デービッドが姿の見えない誰かと話しているような感じがすると。」

「だからデービッドに直接聞いてみようと、私がカレンに言ったんです。デービッドに催眠術を掛けて話しを聞いてみようって。」

「催眠術は上手くかかったのですが、でもなんだかこのまま続けるのは不味い気がして。カレンもそう感じたみたいで。」

「でもその時、催眠術に使う指輪が弾き飛んで。カレンがしゃがんだ瞬間デービッドが立ち上がって。私を見たんです。そしてカレンが立ち上がってデービッドを見たらデービッドが首をゆっくりと横に動かしてカレンを見て、しゃべったんです。私に用でもあるのかカレンって。」

「カレンがびっくりして、すぐに私のところへ来ました。デービッドが笑い始めて・・・・笑い声が止まったと思ったら、デービッドが急に倒れたので、私は急いで抱き起こそうしたのですが、デービッドの小さな手が私の腕を握って、ロバート捕まえたって言ったのです。見て下さい。これを。」

ロバートは自分の両腕を公爵夫妻に見せた。小さな手の痕が残っていた。 

「その後、私は気を失ったので・・・わかりません。」

 いつの間にか起き上がっていたカレンが話しを引き継いだ。

「ロバートが倒れたあとデービッドが私に言ったんです。カレン、余計な事はするなって。そしてまた笑ったんです。そこで私も気を失いました。」

ずっと黙って聞いていた公爵夫妻は互いに顔を見て、信じられないという表情をしていたが・・・。

 公爵が「デービッドが立ち上がったり、しゃべったり、と信じがたい話しではあったが、ロバートの両腕についていた手形は確かにデービッドのものだろう。あんな小さな手形はデービッドしかおらんしな。」

「カレン、ロバート。屋敷中の者を集めてデービッドに取り憑いている霊を呼び出して、話しを聞いてみないか?」

「父上・・・。」絶句するロバート。
「お父様、本当にするおつもりですか?」
「ああ。カレン。お前はいいのか?一生デービッドに霊が取り憑いたままで。」
「そ、それは・・。」

「心配するな。私たちだけでとは言わんよ。助っ人を頼むことにするから。」

「助っ人?」ロバートが聞いた。

「それは誰ですか?父上。」

「王国一の霊能者ダミアン・グリンスリーを招く。」

「すぐに手配をするから。3日以内には呼べるようにする。」

公爵夫妻は静かに部屋を出て行った。

「なあ、エイミー。デービッドが催眠術にかかったという事は我々の言葉を理解していると言うことにならないか?」
「ええ。もし催眠術の話しが本当なら、今度から気をつけて話さないとね。デービッドとは。」
「そうだな。」


二人の目は少しだけキラキラしていた。これから起こることへのワクワク感とデービッドのことが心配なのが混ざって、心からワクワク出来ない二人だったが・・・。

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