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第三章 赤ちゃんのデービッド編

⑭デービッド

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 一泊しただけで終わった別荘から戻って3日経った。

 授乳を終えて部屋を出ようとしたメリーが二人に話しかけた。
「あのう、カレン様ロバート様・・・。」
「なあに?メリー。」
「デービッド様のことでお話があるのですが。」
 カレンはロバートの顔を見た。ロバートは椅子から無言のまま立ち上がるとカレンが座っていたソファに座った。二人は並んで一緒にメリーを見た。カレンが尋ねた。
「デービッドがどうかしたの?」
「はい。実はそのう、私の思い過ごしかと思うのですが・・・。」
 ロバートが口を挟んだ。
「授乳に関係あることかい?」
「は?いえ違います。」
「あ、そう。ごめん。続けて。」
「はい。デービッド様なんですが、デービッド様はまだ話せないはずなのに、話していると言うか会話をしていると言うか、そんな不思議な感じがするのです。」
 カレンが聞き返した。
「メリー。今、会話って言ったわね?」
「あ、はい。そうですが。」
「会話って言うことは相手がいるはずよね?それは誰なの?お父様?お母様?」
「それが誰もいません。一人です。」
 ロバートが聞いた。
「デービッドは、ばうばう。とかばう。って言ってるんだろ?」
「そうです。たまに、ばう?って語尾が上がって聞き返すというか質問しているような感じがします。」
「メリー、それはいつも同じ時間にあるの?それとも時間は決まっていないの?」
「最初は夜中でしたが昨日は授乳中に、その会話のようなことをデービッド様がされたので、ちょっと心配になりまして。それで。」
 ロバートが聞いた。
「授乳中って、こういう感じか?」
 そう言ってデービッドの真似をするロバート。
 口を大きく開けて吸い付き離して、ばう。また吸い付いて離し、ばうばう。ばう?
「こんな感じか?」
「はい。そうです。」
「わかったわ。メリー。教えてくれてありがとう。これからもなにか変ったことがあったら教えてね。」
「はい。それでは失礼致します。」
 メリーが部屋から出て行った。
 カレンがロバートの顔をジッと見て言った。
「デービッドが吸い付く真似をする、必要なかったんじゃないの?」
「え?」
「ロバートがしたことは、つまりあなたがメリーの胸に顔をうずめて吸って、ばうばうって言ったのと同じことよ?」
「・・・。」
 
 暫くの間、沈黙が続いてロバートがパン!と手を叩いてカレンに言った。
「カレン。デービッドは私たちの言葉を理解している。でも返事は出来るわけだろ?」
「ええ。それが?」
「たぶん。普通に質問しても答えてくれるだろうけど。」
 
 ロバートは公爵がワクワクするときのような目でカレンに言った。
「ロバートに催眠術をかけよう。カレン。」
「え?催眠術・・・?」
「駄目かい?」
 カレンも公爵がワクワクするときのような目つきで答えた。
「それ。おもしろそうね。」


 そして今二人はベビーべっどに静かに横たわるデービッドを見おろしていた。

  「ばう?(なに?)」
「デービッドちゃ~ん。」
 カレンはそう言うとデービッドの目の前にゆらりゆらりと紐で吊るした指輪を揺らした。

「ほ~らなにかが目の前をゆらりゆらりと動いていま~す。」
 デービッドの目が指輪を追う。
「デービッドちゃ~んはだんだんと~眠くなって~きた~。」
 デービッドが目をつむった。
「眠いのに~意識ははっきりして~いる~。」
「さあ~今から私の質問に答えなさい~。いいですね~。さあ返事をして下さい~。」

「ばうばう(YES)」・・・。」

カレンとロバートが顔を見合わせて頷いた。

ロバートがデービッドに尋ねた。

「デービッドには話し相手がいる。」

「ばうばう(YES)・・・。」

「それは男ですか?」

「ばう(NO)・・・。」

「話し相手は女ですか?」

「ばうばう(YES)・・・。」


    
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