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新生の奇跡
Ⅶ:剣神リズ=セン
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一つの場所から放射線状に広がり、かつ左右非対称という西洋剣史上最も複雑な形状の護拳を持つ、片手剣。その護拳を絡ませて相手の刺突剣をへし折ることも、攻撃を受け止めることもできる。その刃は突き、斬る両用が可能で、空いた片手との組み合わせにより攻撃手段は無限に広がる。攻、防、さらには美術的な観点を総合して、西洋刀剣でも特別優秀な部類の武器といえる。
「その……出し抜けで申し訳ないんですが、お願いがあって来たんスけど?」
マダスカと似たような文句になってしまったことに、クッタは苦笑いを浮かべる。
それに少女は――まるで刀剣のように鋭い視線を向けて、
「出し抜けだな。その非礼、理解しつつ何を望む」
「あ……っと、そのですねぇ……」
そのあまりに凛とした言葉と態度に、クッタは言葉が詰まった。ここまでか、と感心した。見た目と中身は、この少女の場合は全く違う。
気持ちを引き締め、
「……その、僕たち、魔王ヘルフィアを討伐しようという集団に所属しているんです。そのためには、力がいるんですよ。だから、その、リズ=センさんに――」
「断る」
予想通りの言葉だった。クッタは苦笑いを浮かべ、
「……そうですか。あの、よろしければ理由を」
「我々はこの地にて、永く聖女アレ=クロアの復活に備えている。よって、他の脅威にかまけている暇はないとしている」
そこまでは、調べてあった。聖女というものが何を指すかはわからなかったが、オルビナも過去に黒魔女と戦っている。なにがあるかは、この広い世界わからない。
「でしたら、その……よろしければですが僕に、『神技』を伝授してはくださらないでしょうか?」
「ほぅ」
すぅ、と少女――剣神リズ=センの目が細まる。周りで世話する侍女、召使いたちの動きに滞りはない。それにこの場の絶対の支配力を感じさせられて、居心地が悪くなる。
「――男、貴様それを得てなんとする?」
「……僕の現状の力では、魔王討伐になんの助力も加えることは叶いません。ですが、剣神リズ=センに伝わるという四つの神技の一角を再現することが出来れば、対魔王戦においても絶大な威力を……」
「如何にしてだ」
リズ=センの言い回しは、既に問いかけから尋問へと形式を変えていた。
「そ、それはもちろん必死に努力して……」
「笑わせてくれる。貴様は、神技という領域を、大いに甘く見てくれているな。貴様のような、身なりを整え、体裁を整え、毎日面白おかしく生きてきた人間が、到達できるような代物ではないわ。必死に努力? 必死とは、必ず死ぬと書く。貴様に必ず死ぬような覚悟があるのか?」
徹底的にまくしたてられ、マダスカは交渉の終わりを察した。そして同時にその通りだと思ってもいた。神技なる技術、そう容易く得られるのなら世界中の名だたる剣豪たちが習得していることだろう。しかもこの空中都市で守られているということは、つまりは教授されることは実質ほぼ不可能ということに――
「――死ぬ覚悟があれば、いいんですね?」
耳を疑うような言葉が、聞こえてきた。
「お、おい……」
マダスカは宥めようと試みたが、既にクッタの充血した瞳は目の前の"剣神"しか捉えてはいなかった。
「死ぬ、覚悟を見せればいいんスよね、今のを要約すれば。なら、どうすればいいっスか? やっぱ、ここでオレがどういう想いで"必死で"生きてきたかを見せるには、一手ご指南いただければ嬉しいんスけど?」
「……いいだろう」
もはや半狂乱となったクッタの言葉に、リズ=センは短く、低い言葉で答えた。そして侍女を押しのけ、立ち上がり、
「……見せてもらおうか、その、覚悟を」
二人は表で、向かい合う。それを入口側から見るマダスカは、既視感を覚えていた。男というやつは、一度痛めつけ合わないと納得できない人種らしい。
周囲には、村人たちが集まっていた。その数、全村民に達する40名前後。みな、この事態に興味があるのか、娯楽に飢えているのか、それとも剣神の妙技を見逃さないようにしているのか、判断が難しいところだった。
クッタは、β戦で砕かれた長年愛用してきたものの代わりに見つくろってきた新しいセイバーを、その鞘から音を立てて抜き、放つ。
「では、まずはこちらから――」
「遅い」
こめかみに――今まで味わったことがないような衝撃が、襲ってきた。
「――かッ!?」
身体が、宙を舞う。その最中、まるで頭の上半分が無くなったような感覚を味わった。頭蓋骨が、無くなったようだった。脳が、粉々に粉砕されたようだった。
頭から、地面に着地する。
「い"――――」
そのままずりずりと、まるで聞いたことがないような音で、地面を滑っていく。信じられなかった。まるで自分が雑巾かなにかになった心地だった。がりがりと、頭が削られていく。
「その……出し抜けで申し訳ないんですが、お願いがあって来たんスけど?」
マダスカと似たような文句になってしまったことに、クッタは苦笑いを浮かべる。
それに少女は――まるで刀剣のように鋭い視線を向けて、
「出し抜けだな。その非礼、理解しつつ何を望む」
「あ……っと、そのですねぇ……」
そのあまりに凛とした言葉と態度に、クッタは言葉が詰まった。ここまでか、と感心した。見た目と中身は、この少女の場合は全く違う。
気持ちを引き締め、
「……その、僕たち、魔王ヘルフィアを討伐しようという集団に所属しているんです。そのためには、力がいるんですよ。だから、その、リズ=センさんに――」
「断る」
予想通りの言葉だった。クッタは苦笑いを浮かべ、
「……そうですか。あの、よろしければ理由を」
「我々はこの地にて、永く聖女アレ=クロアの復活に備えている。よって、他の脅威にかまけている暇はないとしている」
そこまでは、調べてあった。聖女というものが何を指すかはわからなかったが、オルビナも過去に黒魔女と戦っている。なにがあるかは、この広い世界わからない。
「でしたら、その……よろしければですが僕に、『神技』を伝授してはくださらないでしょうか?」
「ほぅ」
すぅ、と少女――剣神リズ=センの目が細まる。周りで世話する侍女、召使いたちの動きに滞りはない。それにこの場の絶対の支配力を感じさせられて、居心地が悪くなる。
「――男、貴様それを得てなんとする?」
「……僕の現状の力では、魔王討伐になんの助力も加えることは叶いません。ですが、剣神リズ=センに伝わるという四つの神技の一角を再現することが出来れば、対魔王戦においても絶大な威力を……」
「如何にしてだ」
リズ=センの言い回しは、既に問いかけから尋問へと形式を変えていた。
「そ、それはもちろん必死に努力して……」
「笑わせてくれる。貴様は、神技という領域を、大いに甘く見てくれているな。貴様のような、身なりを整え、体裁を整え、毎日面白おかしく生きてきた人間が、到達できるような代物ではないわ。必死に努力? 必死とは、必ず死ぬと書く。貴様に必ず死ぬような覚悟があるのか?」
徹底的にまくしたてられ、マダスカは交渉の終わりを察した。そして同時にその通りだと思ってもいた。神技なる技術、そう容易く得られるのなら世界中の名だたる剣豪たちが習得していることだろう。しかもこの空中都市で守られているということは、つまりは教授されることは実質ほぼ不可能ということに――
「――死ぬ覚悟があれば、いいんですね?」
耳を疑うような言葉が、聞こえてきた。
「お、おい……」
マダスカは宥めようと試みたが、既にクッタの充血した瞳は目の前の"剣神"しか捉えてはいなかった。
「死ぬ、覚悟を見せればいいんスよね、今のを要約すれば。なら、どうすればいいっスか? やっぱ、ここでオレがどういう想いで"必死で"生きてきたかを見せるには、一手ご指南いただければ嬉しいんスけど?」
「……いいだろう」
もはや半狂乱となったクッタの言葉に、リズ=センは短く、低い言葉で答えた。そして侍女を押しのけ、立ち上がり、
「……見せてもらおうか、その、覚悟を」
二人は表で、向かい合う。それを入口側から見るマダスカは、既視感を覚えていた。男というやつは、一度痛めつけ合わないと納得できない人種らしい。
周囲には、村人たちが集まっていた。その数、全村民に達する40名前後。みな、この事態に興味があるのか、娯楽に飢えているのか、それとも剣神の妙技を見逃さないようにしているのか、判断が難しいところだった。
クッタは、β戦で砕かれた長年愛用してきたものの代わりに見つくろってきた新しいセイバーを、その鞘から音を立てて抜き、放つ。
「では、まずはこちらから――」
「遅い」
こめかみに――今まで味わったことがないような衝撃が、襲ってきた。
「――かッ!?」
身体が、宙を舞う。その最中、まるで頭の上半分が無くなったような感覚を味わった。頭蓋骨が、無くなったようだった。脳が、粉々に粉砕されたようだった。
頭から、地面に着地する。
「い"――――」
そのままずりずりと、まるで聞いたことがないような音で、地面を滑っていく。信じられなかった。まるで自分が雑巾かなにかになった心地だった。がりがりと、頭が削られていく。
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