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破邪の閃光
Ⅹ:王族の在り方
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突然のそれに、マダスカは驚く。クッタはいつもは見せない激しい表情で、右腕一本でセイバーを構えβへと突進していた。それにマダスカは、昨晩のことを思い出す。彼はいつもはクールぶっているが、その胸の内に上下に揺れる激しい心を持っている。それが仲間の劇的場面を目の当たりにしたことで、そのタカが外れたのか――
胸元に、飛び込んでくる光。
【ge、gedeoura(聖剣の守護者よ)ッ!?】
それにクッタは、咄嗟に己が使えうる最上級補助魔法を、その剣に顕現させていた。スタミナ配分などという悠長なことを考えている余裕はない。エリューの二の舞は、ごめんだった。
それが、剣ごと木っ端微塵に砕かれる。
「ッ、が……ッ!!」
そしてそのまま――突風のように10メートルの距離を床と水平に飛び、壁にべったりと叩きつけられた。そのまま、泥水のようにずるずると滑り落ちる。
それにマダスカ、オルビナは戦慄する。
「……」
後ずさる。オルビナは考える。全ては、私の失策だ。やはり、早すぎたのだ。この局面を脱するには――
「――オルビナさま」
「マダスカ……」
「わたしが……なんとか、囮になってみようと思います。その隙に、どうか」
「……そんな真似、私が許すとでも思っているのかね?」
「しかし、他に手だてはありません。幸いわたしの象形魔法でしたら、もっとも時間を稼ぐことに向いております。それにオルビナ様の混合魔法でしたら、この場を脱する可能性もあるかと。その御力で、どうかエリューとクッタを……」
「マダスカ……」
最悪だ……ここまでようやく鍛えたパーティーを、こんな形で――
困惑するオルビナ。しかし現状、マダスカの案を採用するしかないのも事実だった。
そこで、
「――青隊、白隊、お行きなさい」
ここに来て初めて、ルーマの"号令"が、轟いた。
「な……!」
それにオルビナが振り返ると――先ほど留まることをお願いした騎士団現在200名弱が、突進を始めていた。
『ウォオオ――――――――ッ!!』
轟く雄叫び。多数の騎馬と鎧を着込んだ重騎士の突進に、地面が揺れ騒音が鼓膜を蹂躙する。それにβは目を細め、
「雑多な芸術は……見苦しいな」
後方から振りかぶられた掌――から発生した衝撃波が、それらをまとめて薙ぎ、払う。
「ギャ!」「がァ!」「う、うわあああ!」「た、隊を整えろ!」「冷静を保て!」「突撃しろオ!!」
騎馬の首を捻じ曲げられ、兜を消し飛ばされ、鎧を砕かれてなお、騎士たちは突進を続ける。そこにさらに、今度は下からの突き上げ。足場を失った騎馬たちは穴に落ちていき、従士たちはそれを避け、騎士は騎馬を捨て、なおも追いすがる。
「前へ前へ前へ!」「撤退するな!」「ここで粉骨砕身せよ!」「総員、玉砕覚悟でことに当たれぇ!!」
「や、やめさせろ!」
その事態にマダスカは、ルーマの襟首を掴み上げた。だがルーマは冷めた態度で、
「――なぜですの? "ワタクシの"エリューさまが、痛みを伴ったお返し。是非ともあの青色さんには、受けてもらわないと?」
「そ、それが無理だと言っている! 並みの人間に、魔族に立ち向かう力はない……ましてやアレは、世界を作りし発端のスペルの一角だ! あなたがやっているのは兵に、ただ死にに行けと言っているのと同義なのですよ!!」
「それがなぜ、不都合があるのです?」
その言葉に、マダスカは言葉を失った。
「な……な、な……?」
「姫であるワタクシが命じる言葉は、兵にとっては命を賭して叶えるべき言葉ではなくて?」
「…………」
もう、何も言えなかった。今まで静かに言葉を発さず見ていた原因が、わかった気がした。まるで自分とは、精神構造が違っていた。
これこそが、王族。
「っ、お、オルビナさま……っ」
「…………」
オルビナは、人生何度目かわからない無力感に苛まれていた。自分には、何もできない。魔力があり、三つの魔法陣の公式を作り上げ、混合魔法を生みだし、賢者と呼ばれ、慕われた。
だからなんだ?
まただ。自分は、目の前にいる人間ひとり、救えない。こうして塵屑のように無惨に殺されているというのに、なにも手が出せない。久しい感覚だった。それが久しくなった理由を思い出そうとして――
エリューが、立っていた。
「! え、エリュー! 無事だったの……」
「――待て。様子がおかしい」
驚き、喜び勇んで駆けだそうとしたマダスカを、オルビナは手で制する。
「…………」
エリューは、焦点の合っていない目で虚空を眺めていた。手も足もダラリと垂らされ、力が感じられない。猫背で、口元からはよだれまで垂れて、まるで意識のようなものがないように見えた。
「エリュー……?」
マダスカが声をかけるなか、エリューはゆっくりと、その手足を前に動かし、大乱闘が起こっている最中(さなか)へと向けて歩きだしていた。まるで亡者のように。それにオルビナが、
「ま、待てエリュー! もはや勝敗は、決した。我々はこの機に撤退を……」
胸元に、飛び込んでくる光。
【ge、gedeoura(聖剣の守護者よ)ッ!?】
それにクッタは、咄嗟に己が使えうる最上級補助魔法を、その剣に顕現させていた。スタミナ配分などという悠長なことを考えている余裕はない。エリューの二の舞は、ごめんだった。
それが、剣ごと木っ端微塵に砕かれる。
「ッ、が……ッ!!」
そしてそのまま――突風のように10メートルの距離を床と水平に飛び、壁にべったりと叩きつけられた。そのまま、泥水のようにずるずると滑り落ちる。
それにマダスカ、オルビナは戦慄する。
「……」
後ずさる。オルビナは考える。全ては、私の失策だ。やはり、早すぎたのだ。この局面を脱するには――
「――オルビナさま」
「マダスカ……」
「わたしが……なんとか、囮になってみようと思います。その隙に、どうか」
「……そんな真似、私が許すとでも思っているのかね?」
「しかし、他に手だてはありません。幸いわたしの象形魔法でしたら、もっとも時間を稼ぐことに向いております。それにオルビナ様の混合魔法でしたら、この場を脱する可能性もあるかと。その御力で、どうかエリューとクッタを……」
「マダスカ……」
最悪だ……ここまでようやく鍛えたパーティーを、こんな形で――
困惑するオルビナ。しかし現状、マダスカの案を採用するしかないのも事実だった。
そこで、
「――青隊、白隊、お行きなさい」
ここに来て初めて、ルーマの"号令"が、轟いた。
「な……!」
それにオルビナが振り返ると――先ほど留まることをお願いした騎士団現在200名弱が、突進を始めていた。
『ウォオオ――――――――ッ!!』
轟く雄叫び。多数の騎馬と鎧を着込んだ重騎士の突進に、地面が揺れ騒音が鼓膜を蹂躙する。それにβは目を細め、
「雑多な芸術は……見苦しいな」
後方から振りかぶられた掌――から発生した衝撃波が、それらをまとめて薙ぎ、払う。
「ギャ!」「がァ!」「う、うわあああ!」「た、隊を整えろ!」「冷静を保て!」「突撃しろオ!!」
騎馬の首を捻じ曲げられ、兜を消し飛ばされ、鎧を砕かれてなお、騎士たちは突進を続ける。そこにさらに、今度は下からの突き上げ。足場を失った騎馬たちは穴に落ちていき、従士たちはそれを避け、騎士は騎馬を捨て、なおも追いすがる。
「前へ前へ前へ!」「撤退するな!」「ここで粉骨砕身せよ!」「総員、玉砕覚悟でことに当たれぇ!!」
「や、やめさせろ!」
その事態にマダスカは、ルーマの襟首を掴み上げた。だがルーマは冷めた態度で、
「――なぜですの? "ワタクシの"エリューさまが、痛みを伴ったお返し。是非ともあの青色さんには、受けてもらわないと?」
「そ、それが無理だと言っている! 並みの人間に、魔族に立ち向かう力はない……ましてやアレは、世界を作りし発端のスペルの一角だ! あなたがやっているのは兵に、ただ死にに行けと言っているのと同義なのですよ!!」
「それがなぜ、不都合があるのです?」
その言葉に、マダスカは言葉を失った。
「な……な、な……?」
「姫であるワタクシが命じる言葉は、兵にとっては命を賭して叶えるべき言葉ではなくて?」
「…………」
もう、何も言えなかった。今まで静かに言葉を発さず見ていた原因が、わかった気がした。まるで自分とは、精神構造が違っていた。
これこそが、王族。
「っ、お、オルビナさま……っ」
「…………」
オルビナは、人生何度目かわからない無力感に苛まれていた。自分には、何もできない。魔力があり、三つの魔法陣の公式を作り上げ、混合魔法を生みだし、賢者と呼ばれ、慕われた。
だからなんだ?
まただ。自分は、目の前にいる人間ひとり、救えない。こうして塵屑のように無惨に殺されているというのに、なにも手が出せない。久しい感覚だった。それが久しくなった理由を思い出そうとして――
エリューが、立っていた。
「! え、エリュー! 無事だったの……」
「――待て。様子がおかしい」
驚き、喜び勇んで駆けだそうとしたマダスカを、オルビナは手で制する。
「…………」
エリューは、焦点の合っていない目で虚空を眺めていた。手も足もダラリと垂らされ、力が感じられない。猫背で、口元からはよだれまで垂れて、まるで意識のようなものがないように見えた。
「エリュー……?」
マダスカが声をかけるなか、エリューはゆっくりと、その手足を前に動かし、大乱闘が起こっている最中(さなか)へと向けて歩きだしていた。まるで亡者のように。それにオルビナが、
「ま、待てエリュー! もはや勝敗は、決した。我々はこの機に撤退を……」
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