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洗礼の聖堂
Ⅷ:魔法剣
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「俺は、勇者になるんだ! 確かに技量では昨日今日修行を始めた俺じゃ敵わないかもしれないけど、気持ちでは……勝負では、勝つ!」
「げっ……て、てめ……っ」
三発目の拳を喰らい、クッタの顔は血に染まっていた。なんとか追撃を防ごうとエリューの腕を掴む手にも、力は無い。それを振り払い、エリューは四発目を打ち込もうと――
「そこまで」
その腕をオルビナの号令で、マダスカに掴まれる。それにエリューは驚き、
「な……なんで止めるんです!?」
しかしオルビナはそれには取り合わず、ニコリと優しく微笑みを作ってクッタを覗き込み、
「『魔法剣』、か。素晴らしい技術だ……それはいかようにして会得したものなのかね?」
エリューにのしかかられたままのクッタは殴られ溢れた口元の血を拭い、
「ぐ、ち……父の血、です」
そこでオルビナの顔色が、変わった。
「ほう、となると……聖騎士スラブ」
「さすが賢者オルビナ、よくご存知で……おいお前、いい加減どいてくれないか?」
「…………」
下からのその声に、エリューは仕方なく横に降りる。マダスカも掴んでいた手首を、無言で話す。その仕草はもう二、三発殴らせても? という態度に見えた。
「あー、痛かった……」
「となるときみは、彼の末裔ということかね?」
「はい。あなたのパーティーの仲間の、です」
『…………』
二人だけの話に、エリューとマダスカは押し黙る。というかいけすかないこの男が尊敬するオルビナとこうして親しげに喋っているという状況に、なんともいえない感情を処理できずにいた。
「聖騎士スラブ……懐かしい名だね。となると、きみの職業(クラス)は?」
「はい、魔法剣士です」
「ほう……得意系統は?」
「一応四元素を中心として、補助も少し」
「なるほど……」
そしてオルビナは、エリューとマダスカに振り返り、それに二人は姿勢を正し、
「私が一応、賢者をやっている。そしてマダスカが象形魔使となり、エリューが武剣士となった。それに魔法剣士のきみが加われば、実にバランスが取れた理想的なパーティーになりうるね」
その言葉にクッタの瞳が輝き、
「と、ということは……!」
エリューとマダスカが、噛みつく。
「……お前、負けたら俺の靴舐めてマダスカの周りを三回まわってワンって鳴いてから尻尾見せるって言ってなかったか?」「言ってない、尻尾振って失せるって言ってたんだ……にしても、わたしは反対です」
オルビナはマダスカの方を向いて、
「なぜ反対なんだね、マダスカ?」
「この男は、わたしたち二人のことを戦力外と断じました。確かにわたしたちの力はその男には及ばないかも知れませんが、そのように他を排しては、適切な連携は望めないと考えます。口ははばったいですが、わたしたちが今まで生き残ってきたのには、魔族の隙をつく協力体制があったからだと考えています」
「なるほど……それで、エリューは?」
「いや、尻尾はどうなったのかなって……」
「オレは負けたとは思ってないけど?」
頬にもう一発入れてやりたくなった。
「……あんだけ殴ってやって、まだ足りないのか?」
「あんなのは、決闘とは言えないな。拳で決めるなど、単なる野蛮な喧嘩だ。剣技とはもっと崇高な――」
そこでオルビナが、
「武剣士とは、そもそもそういう職業(クラス)なのだがね。剣技のみではなく、肉体そのものを砲台、武器として持ちうる職種。その破壊力、受けたきみなら文字通り身にしみて理解していると思うが?」
「……はぁ、まぁ」
不承不承、クッタは認める。不意に頬に、手をやった。未だアゴがガクガクしていて、まったく全身に力が入らない。それにマダスカも、頷く。拳で人が3メートルも飛ばされるのを見たのは、生まれて初めてのことだった。
「しかし、エリューはその前に武器を解除されその顔に切っ先を突きつけられているね?」
「う……」
「それは実戦だったら、どうなっていただろうね?」
「それは、その……」
「と、いうわけで――」
オルビナはクッタとエリューの手を取り、
「すべて水に流し、仲良くしようじゃないか」
それをくっつけた。
「……ヘヘ」「…………」
せせら笑うクッタと、無言のエリュー。
「ね?」
「……ハハ」「…………」
「くく……っ!」
作られる険悪な空気に、思わずマダスカは口元を抑えた。笑える状況だった。まるで喧嘩して、先生に仲直りさせられる子ども――
手を掴まれた。
「……へ?」
「これで、仲直りだね」
そして引っ張られ、クッタとエリューの手に合わせられる。それにオルビナも加わり、円陣となる。
「さて、これから四人、仲良くやっていこうじゃないか」
『…………』
「はい、おー」
「おー!」「……おう」「――はい」
クッタ、エリュー、マダスカ。三者三様の応えながら、ここに一応のパーティーが結束された。
そしてぎこちない様子の三人を先に聖堂敷地内から出して、オルビナは一人至聖所に向かった。
「……トピロ司教、いらっしゃいますでしょうか?」
「――オルビナ=アトキンか」
中には入らず、扉越しに会話は進む。
「げっ……て、てめ……っ」
三発目の拳を喰らい、クッタの顔は血に染まっていた。なんとか追撃を防ごうとエリューの腕を掴む手にも、力は無い。それを振り払い、エリューは四発目を打ち込もうと――
「そこまで」
その腕をオルビナの号令で、マダスカに掴まれる。それにエリューは驚き、
「な……なんで止めるんです!?」
しかしオルビナはそれには取り合わず、ニコリと優しく微笑みを作ってクッタを覗き込み、
「『魔法剣』、か。素晴らしい技術だ……それはいかようにして会得したものなのかね?」
エリューにのしかかられたままのクッタは殴られ溢れた口元の血を拭い、
「ぐ、ち……父の血、です」
そこでオルビナの顔色が、変わった。
「ほう、となると……聖騎士スラブ」
「さすが賢者オルビナ、よくご存知で……おいお前、いい加減どいてくれないか?」
「…………」
下からのその声に、エリューは仕方なく横に降りる。マダスカも掴んでいた手首を、無言で話す。その仕草はもう二、三発殴らせても? という態度に見えた。
「あー、痛かった……」
「となるときみは、彼の末裔ということかね?」
「はい。あなたのパーティーの仲間の、です」
『…………』
二人だけの話に、エリューとマダスカは押し黙る。というかいけすかないこの男が尊敬するオルビナとこうして親しげに喋っているという状況に、なんともいえない感情を処理できずにいた。
「聖騎士スラブ……懐かしい名だね。となると、きみの職業(クラス)は?」
「はい、魔法剣士です」
「ほう……得意系統は?」
「一応四元素を中心として、補助も少し」
「なるほど……」
そしてオルビナは、エリューとマダスカに振り返り、それに二人は姿勢を正し、
「私が一応、賢者をやっている。そしてマダスカが象形魔使となり、エリューが武剣士となった。それに魔法剣士のきみが加われば、実にバランスが取れた理想的なパーティーになりうるね」
その言葉にクッタの瞳が輝き、
「と、ということは……!」
エリューとマダスカが、噛みつく。
「……お前、負けたら俺の靴舐めてマダスカの周りを三回まわってワンって鳴いてから尻尾見せるって言ってなかったか?」「言ってない、尻尾振って失せるって言ってたんだ……にしても、わたしは反対です」
オルビナはマダスカの方を向いて、
「なぜ反対なんだね、マダスカ?」
「この男は、わたしたち二人のことを戦力外と断じました。確かにわたしたちの力はその男には及ばないかも知れませんが、そのように他を排しては、適切な連携は望めないと考えます。口ははばったいですが、わたしたちが今まで生き残ってきたのには、魔族の隙をつく協力体制があったからだと考えています」
「なるほど……それで、エリューは?」
「いや、尻尾はどうなったのかなって……」
「オレは負けたとは思ってないけど?」
頬にもう一発入れてやりたくなった。
「……あんだけ殴ってやって、まだ足りないのか?」
「あんなのは、決闘とは言えないな。拳で決めるなど、単なる野蛮な喧嘩だ。剣技とはもっと崇高な――」
そこでオルビナが、
「武剣士とは、そもそもそういう職業(クラス)なのだがね。剣技のみではなく、肉体そのものを砲台、武器として持ちうる職種。その破壊力、受けたきみなら文字通り身にしみて理解していると思うが?」
「……はぁ、まぁ」
不承不承、クッタは認める。不意に頬に、手をやった。未だアゴがガクガクしていて、まったく全身に力が入らない。それにマダスカも、頷く。拳で人が3メートルも飛ばされるのを見たのは、生まれて初めてのことだった。
「しかし、エリューはその前に武器を解除されその顔に切っ先を突きつけられているね?」
「う……」
「それは実戦だったら、どうなっていただろうね?」
「それは、その……」
「と、いうわけで――」
オルビナはクッタとエリューの手を取り、
「すべて水に流し、仲良くしようじゃないか」
それをくっつけた。
「……ヘヘ」「…………」
せせら笑うクッタと、無言のエリュー。
「ね?」
「……ハハ」「…………」
「くく……っ!」
作られる険悪な空気に、思わずマダスカは口元を抑えた。笑える状況だった。まるで喧嘩して、先生に仲直りさせられる子ども――
手を掴まれた。
「……へ?」
「これで、仲直りだね」
そして引っ張られ、クッタとエリューの手に合わせられる。それにオルビナも加わり、円陣となる。
「さて、これから四人、仲良くやっていこうじゃないか」
『…………』
「はい、おー」
「おー!」「……おう」「――はい」
クッタ、エリュー、マダスカ。三者三様の応えながら、ここに一応のパーティーが結束された。
そしてぎこちない様子の三人を先に聖堂敷地内から出して、オルビナは一人至聖所に向かった。
「……トピロ司教、いらっしゃいますでしょうか?」
「――オルビナ=アトキンか」
中には入らず、扉越しに会話は進む。
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