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絆との再会
Ⅱ:三段攻撃
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だからまず本命の方に会いに行こうかと思ったが、しかし本命の方は不在にする期間だけを告げるだけで、目的地を教えることはないという話だった。仕方なくエリューはその地で宿を取り、帰還を待とうかと話したところ、一も二も無く、その場での逗留を願い出られた。その勢いたるや凄まじく、恐縮する母ともどもエリューは首を縦に振らざるを得なかった。本人は実感なかったが、世界を救った英雄の威光は現在進行形といって差し支えなかった。
そんなこんなを経て、一週間を迎えるか否かという頃。
「よう」
とぼとぼ、とどこか覚束無い足取りで、玄関の前に仁王立ちで待つエリューの前に現れたその女性に対して、片手を挙げる。
その女性は、掛けられた声に俯き加減の顔を、ゆっくりと上げる。
「? ……お、まえ――ハ?」
お前は、と問おうとしたところがビックリし過ぎて最後が"わ"ではなく"は"の発言になってしまった辺りで、ここまで来たかいがあったというものだった。エリューは満面のニヤケ顔で、その名を呼ぶ。
「うぷぷ……おうよ。久しぶり、だな。"マダスカ"」
まず、なにがくるかと思っていた。最初に浮かんだのが、罵声だった。とつぜん、なにしに、どういうつもり、辺りがありそうなところか。もしくはいきなり手が出るとか。ありえない訳ではないが、いくらなんでも、と言う気がしなくもない。
そして一番妥当で、真っ当そうなのが感動の再開の、抱擁と、キ――
頬、
「おふっ?」
どてっ腹、
「げふっ!?」
向こう脛、
「あいってぇええええ!!」
という、まさかの三段攻撃だった。完全に予想の斜めそれこそ三段上くらいをいくさすがのマダスカっていうかマダスカ様だった。
「って、っつ、くああああああ……!?」
「……なぜお前が、ここにいる?」
「や、いやっていうかそれ以前にいきなり平手打ちにボディブローにトーキックってご挨拶もなかなかなもん……!」
「質問に答えろ。というか今のは挨拶でもなんでもない」
「だっ、だったらなんだっていう……!?」
「とつぜんの闖入者の出現に身体が自動的に反応しただけだ、攻撃魔法でなかっただけありがたく思うんだな」
「ちょ、おまっ、なんか前よりキツくなってねぇか!?」
「気のせいだ、というよりお前にわたしが心を許したことなど、一度も――」
そこで突然、母が前に出てきた。
「失礼します」
「…………」
それにマダスカも今までのノリを抑えて、黙し、会釈で応えた。誰かは名乗ってはいないが、その雰囲気に只者ではないと察したのだろう。それはあながち間違ってはいなかった。なにしろ母は、伝説のパーティーの一人である――
「わたくし、エリューの母であるレッセル=オブザードと申します。お見受けしたところ話に聞く、エリューと一緒に魔王ヘルフィアを倒したお仲間のひとりであるという、マダスカ=ハイエルンさんかと存じますが?」
「あ、はい……僭越ながら……」
「その節はエリューが大変お世話になったそうで、遅ればせながら心から御礼申し上げます」
深々と頭を下げる母に、マダスカも慌てて続く。そんな異様な光景をエリューは頬とどてっ腹と向こう脛を擦りながら眺めていた。
なんだコレ、どうしたっていうんだ?
そんなこんなを経て、一週間を迎えるか否かという頃。
「よう」
とぼとぼ、とどこか覚束無い足取りで、玄関の前に仁王立ちで待つエリューの前に現れたその女性に対して、片手を挙げる。
その女性は、掛けられた声に俯き加減の顔を、ゆっくりと上げる。
「? ……お、まえ――ハ?」
お前は、と問おうとしたところがビックリし過ぎて最後が"わ"ではなく"は"の発言になってしまった辺りで、ここまで来たかいがあったというものだった。エリューは満面のニヤケ顔で、その名を呼ぶ。
「うぷぷ……おうよ。久しぶり、だな。"マダスカ"」
まず、なにがくるかと思っていた。最初に浮かんだのが、罵声だった。とつぜん、なにしに、どういうつもり、辺りがありそうなところか。もしくはいきなり手が出るとか。ありえない訳ではないが、いくらなんでも、と言う気がしなくもない。
そして一番妥当で、真っ当そうなのが感動の再開の、抱擁と、キ――
頬、
「おふっ?」
どてっ腹、
「げふっ!?」
向こう脛、
「あいってぇええええ!!」
という、まさかの三段攻撃だった。完全に予想の斜めそれこそ三段上くらいをいくさすがのマダスカっていうかマダスカ様だった。
「って、っつ、くああああああ……!?」
「……なぜお前が、ここにいる?」
「や、いやっていうかそれ以前にいきなり平手打ちにボディブローにトーキックってご挨拶もなかなかなもん……!」
「質問に答えろ。というか今のは挨拶でもなんでもない」
「だっ、だったらなんだっていう……!?」
「とつぜんの闖入者の出現に身体が自動的に反応しただけだ、攻撃魔法でなかっただけありがたく思うんだな」
「ちょ、おまっ、なんか前よりキツくなってねぇか!?」
「気のせいだ、というよりお前にわたしが心を許したことなど、一度も――」
そこで突然、母が前に出てきた。
「失礼します」
「…………」
それにマダスカも今までのノリを抑えて、黙し、会釈で応えた。誰かは名乗ってはいないが、その雰囲気に只者ではないと察したのだろう。それはあながち間違ってはいなかった。なにしろ母は、伝説のパーティーの一人である――
「わたくし、エリューの母であるレッセル=オブザードと申します。お見受けしたところ話に聞く、エリューと一緒に魔王ヘルフィアを倒したお仲間のひとりであるという、マダスカ=ハイエルンさんかと存じますが?」
「あ、はい……僭越ながら……」
「その節はエリューが大変お世話になったそうで、遅ればせながら心から御礼申し上げます」
深々と頭を下げる母に、マダスカも慌てて続く。そんな異様な光景をエリューは頬とどてっ腹と向こう脛を擦りながら眺めていた。
なんだコレ、どうしたっていうんだ?
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