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第十四章 異世界で成長できました
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早々にブーケトスを終えた私は(ちなみにマリアがゲットした)、グレゴールと共に宮殿へと向かった。離宮なら何度も出入りしたが、主宮殿に来るのは初めてだ。一歩足を踏み入れると、広さといい調度品といい桁違いの豪華さで、私はドキドキしながら廊下を歩んだ。
クリスティアンは、謁見の間で私たちを出迎えた。マルガレータ妃も、一緒である。
「おお、大切な挙式の日だというのに、悪かったな」
「まったくですわ。花嫁さんに、着替える時間くらい差し上げなさいな」
マルガレータが、眉をひそめる。そのまま移動したため、私はウェディングドレス姿なのである。衛兵も、妙な顔をしていた。
「すまない……。だが、これは早く伝えるべきと思ってな。喜べ。ギュウドンの話だ」
「「ギュウドン?」」
グレゴールと私は、同時に聞き返していた。そうだ、とクリスティアンが頷く。
「知っての通り、ロスキラから米を輸入できるようになった。そしてグレゴールのおかげで、値下げ交渉も進んでいる。順調にいけば、イルディリア王国を代表する料理として普及することだろう」
クリスティアンは、興奮気味に語った。
「それでだ。先般、妃の父上……つまりロスキラの国王陛下が、イルディリアへ来られた際、ギュウドンを振る舞ったところ、たいそうお気に召されたようでな。ギュウドン談義で、盛り上がったのだ」
ロスキラ国王といえば、五十代だったか。牛丼がおじさんに人気なのは、万国(万世界?)共通なのかな、と私は思った。
「義父上は、このレシピを教えて欲しいと仰った。だが私としては、先ほど言ったように、イルディリア名物としたいわけだ。そこで話し合った結果、大豆を安価にロスキラから買い付ける代わりに、レシピを提供することで、話がまとまったのだ」
もしや、と私は思い出した。
「調味料の話を、覚えてらっしゃったのですね」
最初にクリスティアンに振る舞った際、私は、本来は大豆がベースの調味料を用いるのだ、と説明したのだ。
「むろんだ。『ショウユ』とかいったか。それを用いれば、本来に近い味が再現できるのであろう?」
クリスティアンは、目をらんらんと輝かせている。名物うんぬんより、彼本人が食べたいだけでは、と私は密かに思った。
「それで、だな。義父上もその思いは同じだったようで、実は今日早速、ロスキラから大量の大豆が届いたのだ」
ひょえっと私は声を上げそうになった。
(おじさん、牛丼への意欲、熱すぎでしょ……)
「というわけで、ハルカ嬢……、いや、もうハイネマン夫人であったな。そなたには、『ショウユ』を作って欲しいのだ。そこで急ではあるが、来てもらったという次第だ」
「はい、それはもちろんでございますが。醤油を作るには、かなりの労力と時間がかかります。早急に、取り組みはいたしますが……」
するとクリスティアンは、意外なことを言い出した。
「うむ。そなたが以前そう申しておったのは、覚えておる。というわけで、私は考えた。修道院を、『ショウユ』作りの作業場としようかと。人手が必要であろう? 修道女たちを、動員すればよい。大豆はすでに、そこへ送ってある」
クリスティアンが告げた修道院の名前を聞いて、私はドキリとした。カロリーネが入れられた所だったのだ。彼女は今、どうしているのだろうか……。
クリスティアンは、謁見の間で私たちを出迎えた。マルガレータ妃も、一緒である。
「おお、大切な挙式の日だというのに、悪かったな」
「まったくですわ。花嫁さんに、着替える時間くらい差し上げなさいな」
マルガレータが、眉をひそめる。そのまま移動したため、私はウェディングドレス姿なのである。衛兵も、妙な顔をしていた。
「すまない……。だが、これは早く伝えるべきと思ってな。喜べ。ギュウドンの話だ」
「「ギュウドン?」」
グレゴールと私は、同時に聞き返していた。そうだ、とクリスティアンが頷く。
「知っての通り、ロスキラから米を輸入できるようになった。そしてグレゴールのおかげで、値下げ交渉も進んでいる。順調にいけば、イルディリア王国を代表する料理として普及することだろう」
クリスティアンは、興奮気味に語った。
「それでだ。先般、妃の父上……つまりロスキラの国王陛下が、イルディリアへ来られた際、ギュウドンを振る舞ったところ、たいそうお気に召されたようでな。ギュウドン談義で、盛り上がったのだ」
ロスキラ国王といえば、五十代だったか。牛丼がおじさんに人気なのは、万国(万世界?)共通なのかな、と私は思った。
「義父上は、このレシピを教えて欲しいと仰った。だが私としては、先ほど言ったように、イルディリア名物としたいわけだ。そこで話し合った結果、大豆を安価にロスキラから買い付ける代わりに、レシピを提供することで、話がまとまったのだ」
もしや、と私は思い出した。
「調味料の話を、覚えてらっしゃったのですね」
最初にクリスティアンに振る舞った際、私は、本来は大豆がベースの調味料を用いるのだ、と説明したのだ。
「むろんだ。『ショウユ』とかいったか。それを用いれば、本来に近い味が再現できるのであろう?」
クリスティアンは、目をらんらんと輝かせている。名物うんぬんより、彼本人が食べたいだけでは、と私は密かに思った。
「それで、だな。義父上もその思いは同じだったようで、実は今日早速、ロスキラから大量の大豆が届いたのだ」
ひょえっと私は声を上げそうになった。
(おじさん、牛丼への意欲、熱すぎでしょ……)
「というわけで、ハルカ嬢……、いや、もうハイネマン夫人であったな。そなたには、『ショウユ』を作って欲しいのだ。そこで急ではあるが、来てもらったという次第だ」
「はい、それはもちろんでございますが。醤油を作るには、かなりの労力と時間がかかります。早急に、取り組みはいたしますが……」
するとクリスティアンは、意外なことを言い出した。
「うむ。そなたが以前そう申しておったのは、覚えておる。というわけで、私は考えた。修道院を、『ショウユ』作りの作業場としようかと。人手が必要であろう? 修道女たちを、動員すればよい。大豆はすでに、そこへ送ってある」
クリスティアンが告げた修道院の名前を聞いて、私はドキリとした。カロリーネが入れられた所だったのだ。彼女は今、どうしているのだろうか……。
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