上 下
53 / 110
第六章 実はもふもふは苦手なんです

10

しおりを挟む
「何をする!」
 エマヌエルは、グレゴールを振り払おうとしたが、グレゴールは彼の胸ぐらをつかんで放そうとしない。文官である彼の、どこにこんな腕力が潜んでいたのだろう、と私は目を見張った。しかもエマヌエルは、一応軍人だというのに。
「北山さん、こっちへ」
 男二人が揉み合っている隙に、榎本さんは私の腕を引っ張ると、離れた所へ避難させてくれた。エマヌエルが、わめく。
「何か心得違いをしているんじゃないのか、グレゴール! 僕の身分を忘れたか。いくら王太子殿下の信頼厚き宰相とはいえ、気軽に触れていい相手ではないぞ!」
 それでもグレゴールは、引き下がらなかった。
「乱暴な目に遭わされている女性を助けるのは、男として当然のことだ」
「乱暴? まさか。合意の上だよ」
 エマヌエルは、ぬけぬけと言い放った。
「君も、見ただろう。ハルカ嬢は抵抗していなかったじゃないか」
「それは、あなたが王弟の息子という立場だから……」
「セシリアを人質に取られたんです!」
 私は、思わず叫んでいた。
「今この離宮で、聖獣を扱えるのは、王族であるエマヌエル様だけだから……」
 すると、私の腕がぐいと引っ張られた。榎本さんだ。険しい顔をしている。
「どういうこと? エマヌエル殿下に、あの子たちは扱えないよ?」
 え、と私はきょとんとした。グレゴールが、忌々しげに舌打ちする。
「よくもまあ、ぬけぬけと大それた嘘を! ハルカ、聖獣を扱えるのは、聖女だけだ。王族とはいえ、エマヌエル様にその能力は無い!」
「ちょっ……、それじゃセシリアは!?」
 私は、愕然とした。ふてくされたように、エマヌエルが答える。
「白猫もどきなら、馬車の中だよ!」
 榎本さんが、馬車へとすっ飛んで行く。そんな彼女を見ながら、エマヌエルはなぜか薄笑いを浮かべた。
「聖獣を外へ逃がす聖女か。職務怠慢もいいところだ」
 私は、ぎょっとした。
「彼女のせいじゃありません! 私の不注意です」
「一般の人間、それも異世界から来たような君に、聖獣を任せたのは彼女だろ」
「それは、マキさんのせいじゃなくて……」
 私が、動物好きだなんて嘘をついていたせいだ。私は、必死に榎本さんを庇おうとしたが、エマヌエルはこう言い放った。
「いずれにせよ、聖獣を放ったらかしにしたのは事実。無責任な聖女と、そんな聖女を召喚した人間は、相応の処分を受けるべきだと僕は思うがねえ。そうは思わないかい、グレゴール?」
 勝ち誇ったように、エマヌエルがグレゴールを一瞥する。グレゴールは、ぐっと唇を噛むと、彼から手を放したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伝説の国のもふもふ白銀狼皇帝に捕らえられ、ラブ抜き結婚を迫られています

手塚エマ
BL
写真家の蓮はミュージシャンの親友に頼まれ、アルバムの写真を撮るため北欧へと旅立った。 針緑樹の森を散策するうち意識が遠のき、気づいた時には宮殿の一室に寝かされていた。 漣が紛れ込んだ『森』が伝説の国バウラウス帝国皇帝の妃になれと命じていると、皇帝自身から告げられる。 その結婚相手の皇帝イグジストは『森』の命に従って、恋愛感情なしでも蓮を妃として迎えると言い出すが……。

もう無理! もふもふライフを送りたいので、来世はテイマーで。

のり
ファンタジー
もふもふ生活に憧れる女性の独り言やら冒険やらなんやら。

求婚はスイーツで

浅葱
恋愛
ケモ耳、しっぽ有りの亜人族が多い国。 亜人族の村の家族に引き取られた人族の娘は到着したその日男性たちに声をかけられまくる。 それというのも亜人族は女性が極端に少ないからだった。 そして成人したその日、たくさんの男性が甘いものを持ってやってきた。 困った彼女が選ぶのは誰のスイーツ? 亜人×人。安定のあまらぶハッピーエンドです(笑) 「プチプリ、〜 Sweet Love 〜 TL短編小説コンテスト『スイーツ』」で入選した作品です(プチプリは6/30閉鎖予定です)

強がり男子大学生はもふもふ熊獣人に絆される

鑽孔さんこう
BL
田舎の実家暮らしである大学生の川上理善(かわかみりぜん)は、家の裏山へ、気の向くままに訪れることが度々ある。世の中を騒がせる野生動物の人化現象、それが裏山でも起こっていることが分かり、立ち入ることも難しくなった。久々に裏山の隠れたあばら家を覗いてみると、中にはツキノワグマの獣人が居て…!**獣人が発生し出した世界線です。熊獣人は途中から出てきます。 作者がハピエン好きなのでハピエン確約致します。 ※感想を頂けると狂喜乱舞します。誤字脱字の指摘も頂けますと幸いです。

もふもふしてもいいですか❓

夜ト
ファンタジー
異世界で新しい生活が始まる、微笑ましいのんびりもふもふしてゆっくりと遊んで幸せを掴む。 可愛いいは正義のショタはもふもふ動物大好き、ええっ運命の番は一人じゃないって本当なの、運命の番は唯一無二の大切な存在の筈でしょう。 この世界は運命の番を大切に護る為に、何人もの運命の番がいて大切な番を屋敷に閉じ込めて大切に護るのが常識。 もふもふ、ふわふわ、可愛い、ショタ、天然、天使、のんびり、まったりが盛りだくさんのはず、 誤字脱字は指摘しないで、スルーして下さい。

ヤンデレトナカイと落ちこぼれサンタクロースの十二月二十四日

橙乃紅瑚
恋愛
落ちこぼれと呼ばれるサンタクロースの女の子と、愛が重いトナカイの獣人が、子供の願いを叶えるために奮闘する話。 ※この小説は他サイトにも掲載しています。 ※表紙画像は「かんたん表紙メーカー」様にて作成しました。 ※性的描写が入る話には「★」をつけています。 (フリースペースに小ネタへのリンクを貼り付けています。よろしければ見てみてください!※ネタバレ有)

女神に可哀想と憐れまれてチート貰ったので好きに生きてみる

紫楼
ファンタジー
 もうじき結婚式と言うところで人生初彼女が嫁になると、打ち合わせを兼ねたデートの帰りに彼女が変な光に包まれた。  慌てて手を伸ばしたら横からトラックが。  目が覚めたらちょっとヤサグレ感満載の女神さまに出会った。  何やら俺のデータを確認した後、「結婚寸前とか初彼女とか昇進したばっかりと気の毒すぎる」とか言われて、ラノベにありがちな異世界転生をさせてもらうことに。  なんでも言えって言われたので、外見とか欲しい物を全て悩みに悩んで決めていると「お前めんどくさいやつだな」って呆れられた。  だけど、俺の呟きや頭の中を鑑みて良い感じにカスタマイズされて、いざ転生。  さて、どう楽しもうか?  わりと人生不遇だったオッさんが理想(偏った)モリモリなチートでおもしろ楽しく好きに遊んで暮らすだけのお話。  中味オッさんで趣味が偏っているので、昔過ぎるネタや下ネタも出てきます。  主人公はタバコと酒が好きですが、喫煙と飲酒を推奨はしてません。  作者の適当世界の適当設定。  現在の日本の法律とか守ったりしないので、頭を豆腐よりやわらかく、なんでも楽しめる人向けです。  オッさん、タバコも酒も女も好きです。  論理感はゆるくなってると思われ。  誤字脱字マンなのですみません。  たまに寝ぼけて打ってたりします。  この作品は、不定期連載です。

従者♂といかがわしいことをしていたもふもふ獣人辺境伯の夫に離縁を申し出たら何故か溺愛されました

甘酒
恋愛
中流貴族の令嬢であるイズ・ベルラインは、行き遅れであることにコンプレックスを抱いていたが、運良く辺境伯のラーファ・ダルク・エストとの婚姻が決まる。 互いにほぼ面識のない状態での結婚だったが、ラーファはイヌ科の獣人で、犬耳とふわふわの巻き尻尾にイズは魅了される。 しかし、イズは初夜でラーファの機嫌を損ねてしまい、それ以降ずっと夜の営みがない日々を過ごす。 辺境伯の夫人となり、可愛らしいもふもふを眺めていられるだけでも充分だ、とイズは自分に言い聞かせるが、ある日衝撃的な現場を目撃してしまい……。 生真面目なもふもふイヌ科獣人辺境伯×もふもふ大好き令嬢のすれ違い溺愛ラブストーリーです。 ※こんなタイトルですがBL要素はありません。 ※性的描写を含む部分には★が付きます。

処理中です...