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番外編:その時、アルベールは~①

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※本編第八章~九章にかけてを、アルベール視点で語ります。
その時、アルベールは何を考えていたのか……的なお話です。
ネタバレ含みます。


 アルベール・ド・ミレーがシモーヌの弔問を終えて帰ろうとすると、一人の女性がスッとすり寄って来た。シモーヌの妹、ニコルである。

「アルベール様、本日はありがとうございましたわ。わざわざ、姉の弔問にお越しいただいて」

 向こうから寄って来たのならチャンスだな、とアルベールは思った。シモーヌの両親からは、何も得ることができなかったのだ。娘は人の恨みを買うような人間ではない、と繰り返すばかりだった。

(早く、真犯人を挙げねばならないというのに……)

 それはひとえに、愛しいモニクのためだった。彼女への懐疑に凝り固まっている上司・モンタギューは話にならない。アルベールは自ら犯人を見つけるべく、こうして動き回っているのである。

「この度は、お悔やみ申し上げます」

 まずは型どおりの挨拶をすると、ニコルは顔をしかめた。

「まったく、死ぬ時まであのバールと一緒だなんて、腐れ縁というのかしら。せっかく、縁を切ったというのに」
「何ですと?」

 アルベールは、思わず聞き返していた。するとニコルは、けろりと答えた。

「姉とバールは、一年前に別れておりますのよ」

 アルベールは、目を見張った。同時に、頭が忙しく回転し始める。ではあれは、逢い引きではなかったということか。ということは、真犯人の仕業だろう。逢い引きを目撃し、カッとなったモニクが二人を殺した、と見せかけるための……。

(なら、犯人の目的は、バールとシモーヌ、どちらだ……?)

 アルベールは、とっておきの笑顔をニコルに向けた。

「ニコル嬢、さぞお辛いことでしょう。私は是非、お姉様を殺した犯人を捕まえたいと思っているのです。思い出せることなら、何でもいい。私に聞かせていただけませんか。お姉様に、恨みを持つ人間がいなかったか……」

「あら。アルベール様って、お優しいのね」

 吐息がかからんばかりの距離にまで、ニコルが近付いてくる。彼女は、その豊満な胸を、さりげなくアルベールに押し付けた。

「でもねえ……。そんな話、うかつに人に聞かれては困りますわ。ね、二人きりでお話しませんこと?」

 生理的な嫌悪感が走る。振り払いたいのを、アルベールはぐっと我慢した。ここで有益な証言が得られれば、モニクの濡れ衣は晴れるのだから……。

「ええ、是非」

 内心の罵詈雑言を押し隠して、アルベールは微笑んでみせた。ニコルが、声を落とす。

「では、私の部屋ではいかがかしら?」

 ニコルは、ほぼアルベールにしなだれかからんばかりの体勢になっていた。じゃらじゃらした装飾品にまみれた手が、馴れ馴れしく頬を撫でる。アルベールは、苦渋の決断を下した。

「――わかりました。三日後の夜、また参ります。部屋の窓を開けておいていただけますか」

 そう答えたとたん、二人の傍を、アルベールがよく知る男性が通り抜けた。アルベールは、ドキリとした。

(――ドニ第二王子殿下……!? 今の話、聞かれたか……?)
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