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第十六章 もう一人の候補
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「いや、あれは言葉の綾というか……」
「色事師みたいな真似を、なさってたんですものねえ」
微笑みながらずんずん近付くと、アルベール様は後ずさった。
「ですからあれは、昔のことで……」
「さあ、どうかしら。よく考えたらアルベール様は、あのジョゼフ五世陛下の血を引かれているのですものねえ。嫌ですわよ、私。あなたの肖像が入ったロケットを持った女性が大勢現れたり、あなたによく似た幼子が大量出現したりしたら」
「そんなことあるわけないでしょう!」
ヤケクソのように、アルベール様がわめく。
「恋愛している暇なんて無かったって言ったでしょう。女性には、バールのことを調べる目的で近付いただけですよ。そこに感情なんて無かったし、後腐れ無く別れて……」
言葉の途中で、アルベール様はハッとしたように口をつぐまれた。
「……どうされたのです?」
「いえ。俺のしてきたことは、ドニ殿下と同じだな、と今さらながら気付いて……」
アルベール様のお顔が曇る。ふう、と私はため息をついた。
「さすがご兄弟ですわね」
「モニク……」
アルベール様が、どんどん青ざめていく。くっと私は笑った。
「冗談ですわよ。殿下とあなたは違います。無関係な人を陥れたり、殺したりはしていないでしょ? 誰も愛することが無かった彼と違って、あなたには人を思いやる心がありますわ」
彼は、ほっとしたように微笑んだ。
「そう言ってくれて、嬉しい。確かに、過去に俺がした所業は褒められたものじゃありません。でも、女性を愛したのはあなたが初めてだし、これからもずっと、あなた一人です。誓いますよ」
じわりと、胸が熱くなる。赤くなった顔を見られないように、私は後ろを向いた。アルベール様が、私を背後から優しく抱きしめる。
「じゃあ、食事の続きを……」
私の機嫌が直ったと思ったのか、アルベール様は、打って変わって弾んだ声音でそんなことを言い出された。何だかカチンときた私は、そっと彼を振りほどいた。
「左手で召し上がってくださいませ」
言い捨てて、部屋をスタスタと出る。やっぱり、少しだけ意地悪をしてやりたい気分だったのだ。
「色事師みたいな真似を、なさってたんですものねえ」
微笑みながらずんずん近付くと、アルベール様は後ずさった。
「ですからあれは、昔のことで……」
「さあ、どうかしら。よく考えたらアルベール様は、あのジョゼフ五世陛下の血を引かれているのですものねえ。嫌ですわよ、私。あなたの肖像が入ったロケットを持った女性が大勢現れたり、あなたによく似た幼子が大量出現したりしたら」
「そんなことあるわけないでしょう!」
ヤケクソのように、アルベール様がわめく。
「恋愛している暇なんて無かったって言ったでしょう。女性には、バールのことを調べる目的で近付いただけですよ。そこに感情なんて無かったし、後腐れ無く別れて……」
言葉の途中で、アルベール様はハッとしたように口をつぐまれた。
「……どうされたのです?」
「いえ。俺のしてきたことは、ドニ殿下と同じだな、と今さらながら気付いて……」
アルベール様のお顔が曇る。ふう、と私はため息をついた。
「さすがご兄弟ですわね」
「モニク……」
アルベール様が、どんどん青ざめていく。くっと私は笑った。
「冗談ですわよ。殿下とあなたは違います。無関係な人を陥れたり、殺したりはしていないでしょ? 誰も愛することが無かった彼と違って、あなたには人を思いやる心がありますわ」
彼は、ほっとしたように微笑んだ。
「そう言ってくれて、嬉しい。確かに、過去に俺がした所業は褒められたものじゃありません。でも、女性を愛したのはあなたが初めてだし、これからもずっと、あなた一人です。誓いますよ」
じわりと、胸が熱くなる。赤くなった顔を見られないように、私は後ろを向いた。アルベール様が、私を背後から優しく抱きしめる。
「じゃあ、食事の続きを……」
私の機嫌が直ったと思ったのか、アルベール様は、打って変わって弾んだ声音でそんなことを言い出された。何だかカチンときた私は、そっと彼を振りほどいた。
「左手で召し上がってくださいませ」
言い捨てて、部屋をスタスタと出る。やっぱり、少しだけ意地悪をしてやりたい気分だったのだ。
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