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第十六章 もう一人の候補

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 その晩、アルベール様のお部屋で食事の補助をしていると、彼はしみじみと言い出された。

「ドニ殿下がお知りになったら、さぞショックでしょうねえ。殺人の自白をされてまで取り返したあのロケットに、あれほどデザイン違いがあったとは」
「全くですわ」

 彼の口元にスプーンを運びながら、私は頷いた。もはや、それを恥ずかしいと感じる余裕も無い。それほど、今日の事実は衝撃的だった。

「しかも、ですよ。前から気付いていたのですが、ドニ殿下と俺って、四歳違いなんですよね」
「ええ」
「でも、殿下のお母上が亡くなったのは、彼が五歳の時。つまりは……」
「止しましょう。世の中には、追及しない方がよいこともありますわ」

 やんわり制止すると、アルベール様は苦笑いをして黙られた。

「でも、腑に落ちた気がしますわ。アルベール様とエミールって、どこか似てらっしゃる気がしていましたの。血は繋がっていないはずなのに、なぜだろうと思っていましたわ。同じご家庭で育つとそうなるのかしら、と解釈していましたけれど」
「そうですかね」

 アルベール様は、首をかしげられた。

「そういえば、剣術が好きなところは似ているかな。よく、庭で稽古を付けてやったものです。負傷してからは、相手をしてやっていないなあ……。このまま王室入りしたら、もう機会は無いでしょうね。かわいそうなことをした……」

 私は、ふとスプーンを置いた。

「アルベール様。もしかして本当は、王室に入りたくないのではないですか」

 彼は、一瞬黙り込まれた。

「入りたくないなどと、言える状況ではないでしょう。俺には、マルク殿下のたってのご依頼を無視することなど……」
「アルベール様」

 私は、彼の瞳を見つめた。

「バール男爵が殺された晩、あなたは私のことを、こう評されましたわね。『人の顔色をおどおどとうかがってばかり』『家族や友人の言うなり』『卑屈で気弱』」
「どうして今、そんな話を……」

 アルベール様が、眉をひそめられる。いいのです、と私は言った。

「本当のことですもの。そして、前世でも私はそういう人間でした。でもあの晩をきっかけに、そしてあなたのおかげで、私は生まれ変わったのです。自分の希望をちゃんと言える人間に。今度はあなたが、ご自分の希望を仰る時では?」

 そう言い終えた時、ノックの音がした。
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