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第十六章 もう一人の候補

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 その三日後、私とアルベール様、ミレー夫妻は、モンタギュー侯爵邸にいた。この度の活躍が認められた侯爵は、王立騎士団長への昇格が決まったのだ。今日は、その祝賀パーティーである。

「この度は、誠におめでとうございます」

 私たちがご挨拶申し上げると、モンタギュー侯爵は気恥ずかしそうなお顔をなさった。

「とんでもありません。私の手柄では無いように思うのですが。事件を解決してくださったのは、ほぼアルベール様とモニク様のお二人ではないですか」
「いやいや、何を仰る。モンタギュー殿の的確なご判断あってこその、この結果です」

 ミレー公爵がそう仰ると、侯爵はますます複雑そうなお顔をされた。

「それは、ありがたいお言葉ですが……。私はまだまだ、ミレー様の下で働きたかったです」

 ミレー公爵は、もう引退なさるのである。すると公爵は、静かに仰った。

「いえ。私の役目は、もう終わりましたから……」

 私は、思わず公爵のお顔を見つめていた。そのお言葉には、別の意味が含まれている気がしたのだ。

(アルベール様を育て上げ、国王陛下へお返しできた。きっと、そうお考えなのでしょうね……)

 二十年もの間、アルベール様を大切にお育てになった彼のお気持ちを考えると、私は何だか切なくなった。

 一瞬、その場が静かになる。そんな空気を振り払うかのように、アルベール様は朗らかな声を上げられた。

「モンタギュー様、さらなるご活躍を期待申し上げていますよ……。良き支えも、得られたことですし」

 言いながら彼は、侯爵の傍らにいるコレットをご覧になった。二人は、婚約したのである。彼女の奉公先を探す必要が無いとアルベール様が仰ったのは、それを察しておられたからなのだ。ちなみに今日のパーティーは、その披露も兼ねている。

「ありがとうございます! お二人の先を越してしまいましたわね。何だか、ごめんなさい」

 コレットが、元気よく答える。いいのよ、と私は言った。

「コレットには、本当にお世話になったもの。幸せになって欲しいわ」

 うんうんと、アルベール様も頷かれる。

「モンタギュー様なら、きっと大切にしてくださることだろう……。というより、相談してくれれば、仲を取り持ってやったのに?」

 アルベール様が、チラとコレットを見やる。すると彼女は、間髪入れずに答えた。

「アルベールなんかに相談したら、まとまるものもまとまりませんわよ。ご自分の恋愛で、精一杯なのでは?」

 モンタギュー侯爵が、笑いをかみ殺すのがわかった。私も思わず微笑んだけれど、内心ではちょっぴり複雑だった。

(コレット。そんな風にアルベール様に軽口を叩けるあなたが、羨ましいかも……)
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