201 / 240
第十六章 もう一人の候補
5
しおりを挟む
メインの応接間は、アルベール様とマルク殿下がお使いなので、ローズは別の小さい応接間に通すことにした。お茶を待つ間、ローズははしゃぎっぱなしだった。それもそのはず、ミレー邸の調度品の素晴らしさといったら、サリアン邸とは雲泥の差である。
「何もかも、豪華ですわねえ! あの壺、一体おいくらくらいするのかしら?」
「止めなさい! みっともない」
今さらだけれど、これが私の妹だと知られるのは恥ずかしい。お茶さえ飲ませたらとっとと帰らせよう、と私は頭を巡らせた。するとそこへ、アルベール様がお顔をのぞかせた。
「モニク。申し訳ないが、重要な話をしているので……」
静かにせよと、告げに来られたのだろう。彼は、ローズを見たとたん固まった。見てはいけないものを見てしまった、そうお顔に書いてある。
「まああっ。アルベール様」
アルベール様の不快そうな表情に気付かないローズは、立ち上がって彼の元へ駆け寄った。
「いえ、お義兄様とお呼びしなければいけませんわね。私、本日、お二人のご婚約祝いに参りましたのよ」
「それは、ご丁寧にどうも」
慇懃に、アルベール様が答えられる。ローズは、なおも続けた。
「アルベール様って、国王陛下のお血筋でしたのねえ。道理で、高貴なお顔立ちをしてらっしゃると、前から思っていたのですわ」
「最後にお話しした時には、いかにもな犯罪者面と言われた気がするのですが」
一瞬、ローズが詰まる。アンバー殺害事件の後、黒髪の男が目撃されたという噂をローズはことさらに広め、アルベール様犯人説を声高に唱えたのである。
「さらに言えば、私が妾腹の子だという噂を社交界に広めたのも、あなたとそのお母上だったと記憶していますがね」
「さ、さあ……。あいにく、覚えておりませんが……」
「では、私の記憶違いだと?」
アルベール様が、冷ややかにローズを見すえられる。
「いえ、その……」
「わざわざお祝いに来て下さったお心遣いには、感謝します。ですがそれよりも、ご自身の身の振り方を考えられては? これは、義兄としての忠告です」
皮肉たっぷりの言い方だが、ローズには通じなかったらしい。逆に、顔をほころばせた。
「私を心配してくださるんですの!? アルベール様って、お優しいんですのね……。お礼に、何かして差し上げられることはございませんかしら?」
そこでローズは、アルベール様の吊られた腕に目を留めた。
「お怪我をなさったのですか? お労しいこと……。そうだわ、私、マッサージが得意なのです」
言いながらローズは、厚かましくもアルベール様の腕に手を伸ばす。さすがにカッとなった私は、怒鳴りつけた。
「あなた! 人の婚約者に何をするのよ! アルベール様に……」
触らないで、そう言いかけたその時だった。
「きゃあっ」
ローズは、無様に転倒した。アルベール様が、足を引っかけたのだ。ローズが、血相を変える。
「何なさるんです!!」
「俺に触っていい女は、モニクだけだ」
床に倒れ込んだローズをにらみつけながら、アルベール様は吐き捨てるように仰った。そして、私の方をご覧になった。
「あなたの妹君だからと思って我慢してきたが、もう限界です。許しもしないのに男の……それも結婚が決まった男の肌に触れるような女には、虫唾が走る。ローズ嬢にはミレー邸はもちろん、社交界への出入りを禁じるが、それでいいですか」
「何もかも、豪華ですわねえ! あの壺、一体おいくらくらいするのかしら?」
「止めなさい! みっともない」
今さらだけれど、これが私の妹だと知られるのは恥ずかしい。お茶さえ飲ませたらとっとと帰らせよう、と私は頭を巡らせた。するとそこへ、アルベール様がお顔をのぞかせた。
「モニク。申し訳ないが、重要な話をしているので……」
静かにせよと、告げに来られたのだろう。彼は、ローズを見たとたん固まった。見てはいけないものを見てしまった、そうお顔に書いてある。
「まああっ。アルベール様」
アルベール様の不快そうな表情に気付かないローズは、立ち上がって彼の元へ駆け寄った。
「いえ、お義兄様とお呼びしなければいけませんわね。私、本日、お二人のご婚約祝いに参りましたのよ」
「それは、ご丁寧にどうも」
慇懃に、アルベール様が答えられる。ローズは、なおも続けた。
「アルベール様って、国王陛下のお血筋でしたのねえ。道理で、高貴なお顔立ちをしてらっしゃると、前から思っていたのですわ」
「最後にお話しした時には、いかにもな犯罪者面と言われた気がするのですが」
一瞬、ローズが詰まる。アンバー殺害事件の後、黒髪の男が目撃されたという噂をローズはことさらに広め、アルベール様犯人説を声高に唱えたのである。
「さらに言えば、私が妾腹の子だという噂を社交界に広めたのも、あなたとそのお母上だったと記憶していますがね」
「さ、さあ……。あいにく、覚えておりませんが……」
「では、私の記憶違いだと?」
アルベール様が、冷ややかにローズを見すえられる。
「いえ、その……」
「わざわざお祝いに来て下さったお心遣いには、感謝します。ですがそれよりも、ご自身の身の振り方を考えられては? これは、義兄としての忠告です」
皮肉たっぷりの言い方だが、ローズには通じなかったらしい。逆に、顔をほころばせた。
「私を心配してくださるんですの!? アルベール様って、お優しいんですのね……。お礼に、何かして差し上げられることはございませんかしら?」
そこでローズは、アルベール様の吊られた腕に目を留めた。
「お怪我をなさったのですか? お労しいこと……。そうだわ、私、マッサージが得意なのです」
言いながらローズは、厚かましくもアルベール様の腕に手を伸ばす。さすがにカッとなった私は、怒鳴りつけた。
「あなた! 人の婚約者に何をするのよ! アルベール様に……」
触らないで、そう言いかけたその時だった。
「きゃあっ」
ローズは、無様に転倒した。アルベール様が、足を引っかけたのだ。ローズが、血相を変える。
「何なさるんです!!」
「俺に触っていい女は、モニクだけだ」
床に倒れ込んだローズをにらみつけながら、アルベール様は吐き捨てるように仰った。そして、私の方をご覧になった。
「あなたの妹君だからと思って我慢してきたが、もう限界です。許しもしないのに男の……それも結婚が決まった男の肌に触れるような女には、虫唾が走る。ローズ嬢にはミレー邸はもちろん、社交界への出入りを禁じるが、それでいいですか」
0
お気に入りに追加
154
あなたにおすすめの小説
【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。
長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。
心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。
そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。
そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。
レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。
毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。
レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく――
これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。
※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!
異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜
カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。
その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。
落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。
我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!
真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。
そこで目撃してしまったのだ。
婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。
よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!
長くなって来たので長編に変更しました。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~
水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート!
***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる